発達障害の子どもたち | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

杉山 登志郎:著 講談社現代新書 定価:720円+税 (2007年12月)


      私のお薦め度:★★★★☆


今月のお薦め本は、専門書ではなく、書店の店頭で平積みで販売されていた、一般の方に向けての本です。


本書を手にとる方の多くが、最近マスコミで目にすることが増えてきた「アスペルガー症候群」や「ADHD」ということばについて、漠然とした知識はもっているように・・・自分では思っている方ではないでしょうか。

しかし、それは私たちが「自閉症」の子どもの親になって、はじめて、それまでの自分の「自閉症」というものに対する知識が誤解に基づくものであったり、いかに不正確なものであったことを知ったのと似ているように思います。


偏見は、誤った知識から生じる。この本は、発達障害に対する誤った知識を減らし、どのようにすれば発達障害を抱える子どもたちがより幸福に過ごすことができるようになるのか、正しい知識の紹介をする目的で書かれている。


ですから本書では、まず最初に例題を挙げて、いかに発達障害に対する誤解が多いのかというところからはいっています。

はたしてみなさんは全てに正しく答えられるでしょうか。
では、その中からいくつか紹介してみます。


・ 発達障害は一生治らないし、治療方法はない
・ 病院に行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する
・ なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接するほうがよく発達する
・ 発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い、登校刺激はしないほうが良い
・ 偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正をしなくて良い
・ 幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する ・・・・・


これらはすべて、私から見たときに誤った見解か、あるいは条件付きでのみ正しい見解であって一般的にはとても正しいとはいえない。
おのおのについて、なぜこれが誤っているのか、と驚かれたとしたら、そして発達障害と診断を受けたお子さんに関わっているとしたら、この本はあなたにとって読む価値のある本である。


いかがでしょう。あなたにとって読む価値のある本でしょうか? もちろん入門書ですから、すでに勉強されて、ご存知のことばかりだ・・・とおっしゃられる方もいると思います。

でも、この例題を見て?? これって間違っているのと思われた方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。


もう一つ、本書を読んで印象に残っているのは、かなりのページを割いて子ども虐待と発達障害について触れられていることです。


これまでも発達障害といじめについては多くの本が書かれていますが、正面から発達障害と子ども虐待の関連性に踏み込んだ本は少なかったように思います。

それは筆者がセンター長を勤められる「あいち小児保健医療総合センター」がいわゆる軽度発達障害のセンターであると同時に、子ども虐待治療センターでもあるため、その臨床現場で、いかに軽度発達障害児が子ども虐待の対象になりやすいのかということを実感されておられるからでしょう。


この問題については、まだまだ社会の対応が遅れていますので、これから医療や教育、福祉が協力して関わっていかねばならないテーマだと感じさせられました。


それでは最後に前述した設問の中から、一つだけ回答を紹介してお薦め本のコーナーを終わりたいと思います。


・ 幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する


   最悪の対応は「放置」である。

   しばしば自主性の名の下に発達の凹凸を強烈に持つ子どもが放置されている状況を見ている。

   自由保育の大きな弊害である。放置されたツケは後に回ってくるのであるが、幼児保育に従事する者が、

   後年の子どもたちの様子を知る機会はきわめて乏しいことが大きな問題である。


少なくとも、私には「読む価値のある」と思われる一冊でした。


                     (「育てる会 会報 132号 」 2009.4)


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目次


第1章 発達障害は治るのか

第2章 「生まれつき」か「環境」か

第3章 精神遅滞と境界知能

第4章 自閉症という文化

第5章 アスペルガー問題

第6章 ADHDと学習障害

第7章 子ども虐待という発達障害

第8章 発達障害の早期教育

第9章 どのクラスで学ぶか - 特別支援教育を考える

第10章 薬は必要か


あとがき


参考文献一覧