佐藤 公則・加代子:著 あずみの書房 定価:1262円 + 税 (1990年10月)
私のお薦め度:★★★☆☆
北海道の青い空の下、礼文島の自然の中で生まれた二郎くんの成長の記録です。
家族の愛情にいっぱい包まれた本なのに、それでいて客観的な視点も持ち続けてられるのは、本書がお父さん、佐藤公則氏の教育大学旭川分校の情緒障害教員養成過程(一年過程)の修業論文として書かれたからなのでしょう。
佐藤氏は、20年にわたる中学校の普通学級の教鞭の後、残りの16年を障害児教育に全力をつくそうと、改めて大学に通うことにされたわけです。
でも、論文としてみると、逆に、暖かくてリアルで親としての思いのあふれた、異色の論文ですね。
二郎君が生まれたのは、昭和47年ですから、当時はまだ心因論が残っていた頃ではないでしょうか。
そんな社会の中ですから、自閉症という障害はまだまだ理解されず、本書の中のエピソードでも理不尽な対応を受けることも多かった時代でした。
でも二郎君は、中学校の先生をしているお父さんと、元看護婦の明るいお母さん、弟を愛しくおもうお兄ちゃんとお姉ちゃん・・・そんな家族と、北の大地(その後は香港の自由な空気の中で)に守られて、成長していきます。
当時としては、恵まれた環境・・・それでも、やはり理不尽で憤りを覚える挿話もありましたが・・・だったと言えるのではないでしょうか。
まだ、自閉症教育は手探りの状態で行なわれていた頃です。でも○○療法はなくても、家族の一貫した教育方針と、愛情があれば、「くもり のち 晴れ」となることができるのですね。
人は流した涙の数だけ強くなるという。
たしかに妻も強くなった。
二郎が小学校を終えるころ、彼女の口ぐせはいつもこうだった。
「やまない雨は降らないものネ」
どんなに強い雨だって必ずやむ日は来るものだ。
すばらしい先生方にめぐりあったという感慨が込められているのだろう。たくさんの雨に降られた辛い思いも偲ばれる。
それを乗り越えての「くもり のち 晴れ」・・・明日は雲一つ無い青空になることを願っています。
そういえば、我が家でもその頃の妻の口ぐせは 「明けない夜はない」でした。同じ思いですね。
願わくば、雲が流れて晴れた大地に、暖かな、心地よい風が我が子たちの周りにずっと吹き続けることを・・・
親として、時代を超えて、同じ思いの一冊です。
(2003.11)
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目次
はじめに
第1章 妻の日記より
(1) 二郎の誕生
(2) 3歳児検診 ― 自閉症と診断される
第2章 試練の始まり
(1) 保育所・幼稚園に通いはじめる ― 3歳5ヶ月目
(2) 妻 加代子の事故
(3) マッテテネ・マッテテネ ― 妻の退院
第3章 香港での生活
(1) 北回帰線 ― 山光苑の日々
(2) 二郎、担任を困らせる
(3) キッカケをつかむ ― 和解への努力
(4) 峰雪先生との出会い ― 2年生になる
(5) マラソン大会での完走 ― 香港最後の一年間
第4章 帰国して
(1) ひら仮名をおぼえる
(2) 小学校を終えて
第5章 二郎、中学生に
(1) 二郎、中学生になる ― ことばの学習事始め
(2) はれ、時々、くもり
(3) 感情をこめた文章が書けるようになる ― 中学2年になった二郎
(4) 親友、昆君との出会い ― 3年生になった
第6章 二郎の担任、谷島先生から
あとがき
「くもりのち晴れ ― 自閉児の父母の手記」によせて ・・・・・・ 小田切 正