小林 隆児:著 岩崎学術出版 定価:3500円+税 (1999年1月)
私のお薦め度:★★☆☆☆
長く、臨床現場で「自閉症治療」にあたられている、小林隆児氏の著作です。
精神病理ということばからもお分かりのように、本書で取り上げられている症例の多くは、青年期・成人期の自閉症の方で、二次障害としてうつ病や分裂病様状態、摂食障害や強迫性障害を引き起こしている方々です。
たしかに、青年期を越えて引き続き精神科医にかかっている自閉症の方は、なんらかの精神疾患を患っている方が多いのでしょうね。
そのような方の合併している二次障害を治癒していくためには、著者のような関係性を重視した立場からの治療も有効なのかもしれません。
しかし、素人考えですが、それは二次障害としての精神病理にとって有効なのであって、元々の自閉症を関係性の障害と捉えてしまうことには疑問を感じます。
社会性の発達の原初的形態である母子間の二者関係において、相互に情動が豊かに共有されるようになると、お互いの気持ちが容易に通低し合うようになる。そうした情動の深まりによって必然的にお互いの意図(相手が何をしようとし、何に関心を向けているか)が通じ合うようになっていく。
つまりは両者の間で注意、関心、意図などが容易に共有されていくようになる。このようになると、2人一緒になってある対象をみつめ楽しむことができるようになり、そのことでもって両者間で大きな喜びが共有され、さらに情動的コミュニケーションが深まっていくという循環が繰り返されるようになる。
その欠陥が自閉症の基本障害ではないか、として、母子関係や信頼できる人間関係の形成が自閉症治療に有効だとして、従来の客観的に障害を捉えようとする「言語認知障害仮説」や「心の理論障害仮説」に対して、主観的に自閉症の人びとの心の内面への働きかけによって改善をはかろうという説だと思います。
たしかに、それも一つの立場だと思いますし、その見方によって療育されている方もいらっしゃると思います。
どの考えに基づいた療育をされるか、というのは、いまだ自閉症の原因もわかっていないのですから、それぞれの家庭で判断されるべきものだと思います。
我が家では、母子関係を重視して信頼関係により安心感をもたせていくという療育よりは、環境をわかりやすくして本人にとっての見通しをつけていく、という道を選び、この方向が良かったと思うから他の方にもお勧めしているわけですが、それによって本書の説に異論を唱えようとは思っていません。
ですからそれぞれのみなさんが、ご自身で判断されるためにも、本書をお薦め本の中に入れている次第です。
ただ、本書の難点といえば・・・書き下ろしではなく、これまで筆者が各雑誌等に寄稿された文を再掲し、本文も164ページと比較的に短めなのに対して、定価が3500円+税と若干ふところに響くところでしょうか・・・ (^_^;)
(2002.2)
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目次
第1章 自閉症の青年期・成人期
はじめに
1 追跡調査からみた青年期・成人期の状態像
2 行動にはどのような特徴があるか
3 病像にはどのようなものがあるか
4 青年期の発達課題とは
5 成人期の成長像
おわりに
第2章 種々の精神疾患の合併からみた発達精神病理
1 分裂病様状態
2 感情障害
3 心身症
4 摂食障害
5 強迫障害
第3章 運動技能と社会的技能からみた発達精神病理
1 症例提示
2 考察
第4章 現象学的発達精神病理
はじめに
1 知覚変容現象
2 自閉症にみられる特有な知覚様態
- 相貌的知覚と妄想知覚
3 妄想形成とそのメカニズム
第5章 自閉症治療論再考
- 情動と認知の関連性に焦点をあてて
はじめに
1 ある成人期に達した自閉症者の苦悩から
2 自閉症にみられる言語認知障害をどう考えるか
3 自閉症とコミュニケーションの発達
4 言語認知機能の発達と社会性の発達との関連性
5 情動的コミュニケーションと言語認知機能の発達
おわりに
文献
あとがき
索引