施設を出て町に暮らす ~知的障害をもつ人たちの地域生活援助の実際~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

北海道立太陽の園・伊達市立通勤センター旭寮:編 ぶどう社 定価:1553円 + 税 (1993年8月)


     私のお薦め度:★★★☆☆


北海道の伊達市、札幌と函館の中間あたりあるこの地方都市には200人ほどの知的障害をもつ人たちが暮らしています。それも町の真ん中にです。

それに加えて、施設としての「北海道立 太陽の園」(定員400名)や伊達高等養護学校や通勤センター旭寮で生活する人を含めると800名を越え、町の人口35,000人の2.3%にもなるそうです。もう少数派ではないですね。


これだけ、町の中で多くの知的障害をもつひとたちが暮らす町といえば、この伊達市と信楽ぐらいしか思い浮かびません。

これまででしたら、知的障害者の方たちは町から離れた施設の中に収容されて、そのまま年老いていく・・・そんなケースが多かったのではないでしょうか。


この伊達市にも前述の「太陽の園」という大規模コロニーがあります。そして従来の施設でしたら、そこから地域へ「出られる」平均は1%に満たないという話も聞いたことがあります。


そんな中で、「太陽の園」では自立プログラムを立てて、計画的にどんどん町に巣立っています。そのプログラムは「生活自立プログラム」と「就労自立プログラム」と並行して、具体的に指導が行われています。本書は「知的障害をもつ人たちの地域生活援助の実際」と題して、そのノウハウを丁寧に解説してくれています。


例えば「生活自立プログラム」では太陽の園の園内で生活実習を学んだあと、敷地内の空いた職員住宅で自活訓練の実習です。その後、地域にある住居でトレーニングしたあといよいよ「伊達市立 通勤センター旭寮」で地域生活のスタートです。そして2年間の利用のあと、グループホームやアパートに「卒寮」していくわけです。
その後も旭寮が、「地域援助センター」と「生活支援事業」として機能しているおかげで、町で生活を始めた人たちも安心して暮らしていきます。


一朝一夕で出来上がったシステムではないですが、一つの街でできたことなら、他の街で作り上げることも不可能ではないはずですね。
日本中の街で「街に慣れる、街が慣れる」、みんなが街で普通に暮らせるようになるように・・・この本はそのモデル・先駆的な試みとして教えられることの多い本です。
各ページに載っている、みんなのいきいきと働く姿、屈託のない笑顔がすてきな本です。


          (2003.1)


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施設を出て町に暮らす―知的障害をもつ人たちの地域生活援助の実際
¥1,631
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私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍-施設を出て町に暮らす

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目次


  はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・高橋 清之


第1章 共に生きる町


  1 町のど真ん中で堂々と

      ホッとする町
      町に慣れる、町が慣れる
      グループホーム 第1号!
      町に暮らす仲間たちの自治会、わかば会


  2 施設から町の中へ

      この町では少数派ではない
      コロニーの先駆け、太陽の園
      現実的で具体的な自立プログラム
      地域生活を支える拠点、旭寮
      地域生活援助システムを創り出す


  3 私たちのめざすもの

      生涯にわたる援助
      自立への挑戦
      市民生活の保障
      福祉ネットワーク


第2章 町での暮らしを支える


  1 いま町で、仲間たちは

      202名の知的障害をもつ人たちが
      いろいろな地域住居が71戸も

      どんなふうに暮らしているか
          通勤寮・グループホーム・生活寮・ケア付きホーム・民間ホーム・アパート・家庭
      どんなふうに働いているか
          正雇用・準雇用・福祉的就労
      どうやって生計をたてているか
          賃金・年金
      地域生活者のプロフィール
          年齢・障害程度・生活年数


  2 地域センターの役割

      どこで、だれが、どうやって援助するか
      通勤センターから地域援助センターへ
      地域援助センターの機能・体制・援助内容


  3 さまざまな支援組織

      伊達市手をつなぐ親の会
      太陽の園父母の会連合会
      旭寮家族の会


  4 「地域生活援助」を発展させた力は

      一貫した社会自立への取り組み
      自立プログラムの開発
      中重度者の地域生活の実現
      生涯にわたる援助の保証
      就労の場の確保
      普通の社会資源の活用
      当事者組織の結成
      地域援助センターと福祉ネットワーク
      行政の理解と援助


第3章 暮らしをつむぐ仲間たち


  1 一人一人の人生のドラマに

      ふたりの家庭を大切に黙々と働く
      「町の中で暮らしたい」と


  2 たとえ障害が重くとも

      「美子さん、町でくらしてみない」
      一緒に働く仲間と暮らす


  3 仲間たちの日々の営み

      グループホームの暮らし
      生活寮の暮らし
      民間ホームの暮らし
      ケア付きホームの暮らし
      アパート・借家での暮らし


  4 余暇活動を楽しむ仲間たち

      市民の人たちから手ほどきを受けて
      素人の域を越えて打ち込む
      青年学級は仲間同士の交流の場


  5 自主活動に取組む仲間たち


  6 暮らしを支える市民の人たち

      世話人
      暮らしの相談員
      職場適応奉仕員
      地域生活支援事業職員


第4章 生活援助の実際


  1 住まいへの援助

      住居の確保と引越し
      仲間たちの「すぐやる課」


  2 食生活への援助

      見事なチームワークで自炊生活
      給食センターをつくって男性たちに


  3 健康への援助

      通院への同伴は年間 500件以上
      全員の健康診断を
      医師とコンサルタント契約
      なぜこんなに「腰痛」が多いのか


  4 金銭管理への援助

      「本人から委託」を受けて事務の代行
      入金と支出は「自主申告」で
      「夜間銀行」はいつも大繁盛
      お助けマンの「オレンジ基金」
      預貯金は安全有利な運用も
      不正防止のためにチェック体制を
      コンピューター・システムの導入
      家族会による会計監査


  5 人間関係への援助

      「盗った」「盗らない」の争いに
      三角関係のもつれの相談は難しい


  6 恋愛や結婚への援助

      親の人からの反対で泣く泣く
      結婚への親・家族の人たちの苦悩


  7 社会人としての援助

      防災研修会
      交通安全研修会
      確定申告
      選挙


  8 広がる援助の幅

      趣味を一緒に
      帰省の経験が次への自信に
      信仰には介入せず
      「結婚式には出席させたくない」と
      成人式の晴れ姿を見て欲しい


第5章 就労援助の実際


  1 就労援助はどう変わってきたか

      第1の変革期
      第2の変革期
      第3の変革期
      第4の変革期


  2 企業就労援助

      第1次と第3次産業に多い
      大部分は規模の小さな企業
      雇用促進制度をどう活用しているか
      就労を支える「職親会」


  3 働き続けられるように支える

      「指の塗料は働いている証拠」と誇らし気に
      自分で決めてきた仕事
      通勤バスの中でいじめにあっていた
      人が変わったように打ち込む


  4 福祉的就労援助

      地域共同作業所には精神の人も身障の人も
      企業就労から作業所へ
      作業所から企業就労へ
      通所施設を望む親の人たち


 エピローグ 私の歩んできたみち ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石田 徹


 あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 春男