ICF(国際生活機能分類)の理解と活用 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

上田 敏:著 きょうされん 萌文社 定価:667円+税 (2005年10月)


   私のお薦め度:★★★★☆

「きょうされん」によるブックレットの第5号として発売された本です。
著者は以前、大江健三郎氏などと共著で「自立と共生を語る」などで、私も感銘を受けた上田敏先生です。


副題に 『 人が「生きること」「生きることの困難(障害)」をどうとらえるか 』 とあるように、ICF(国際生活機能分類)を利用して、障害をもつ人をトータルな存在としてとらえ、その人生をより豊かなものにするにはどうしたらいいかを考えていこうとする本です。


そのためには、まずICFというものから説明しなければいけませんね。
ICFとは2001年にWHO(世界保健機構)で採択された「生活機能・障害・健康の国際分類」(International Classification of Functioning, Disability and Health)の頭文字をとったものです。


それは従来のICIDHによる障害の捉え方、すなわち最初に機能・形態障害(Impairment)があり、それが能力障害(Disability)を引きおこし、社会的不利(Handicap)をもたらすことになる・・・という、ある意味運命論的な一方通行の矢印の障害説明に変わるものとして考えられたものです。


ここでは、人が生きていく姿の全体像を、まず「生活機能」と捉えます。
そしてその中の要素として「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つのレベルを考えます。それぞれが「生命レベル」「生活レベル」「社会レベル」に対応していると言えるでしょう。障害をマイナス面だけから考えるのではなく、生活機能の中で問題が生じている状態と捉えるわけです。その3つの要素で考えると、「機能障害」「活動制限」「参加制約」となります。


従来のICIDHが一方通行の矢印で障害を考えていたのに対し、生活機能という面から考えますので、当然その3つの要素は相互に影響し合っている、双方向の矢印で結びつけられます。


また、そのICFでは「生活機能」に影響を与えるものとして、背景因子というものを導入しています。
これには2つあって、「環境因子」と「個人因子」です。そしてこの因子もまたそれぞれが影響し合う双方向の矢印で結ばれると同時に、さきほどの3つのレベルとも影響し合っているわけです。


一方で、人が「生きること」を考えた場合には、生活機能の低下にはいわゆる「障害」だけでなく「健康状態」も影響を与えていることは当然のことでしょう。それには、病気などの他にも、高齢化や妊娠なども含まれるでしょう。
ICFでは、その「健康状態」も3つのレベルに相互に影響を与え合うものとして捉えています。


以上が簡単な、ICFの説明ですが、私たちが親として求めているのは、そのICFを活用して、いかに子どもたちの人生を豊かなものにしていくか、ということだと思います。


それについて筆者は、「障害を克服する上で大事なのは、マイナスを減らすことよりも、プラスを増やすことである」という考えから、「専門的技術をもって働きかければ、引き出すことのできる隠れたプラス、すなわち潜在的な生活行為の能力や、拡大することのできる社会的役割は非常に大きい」とし、そのためのこのICFの利用法を述べておられます。


その内容は、みなさんこの本を読んでいただいて知っていただきたい(それがこの本の主題です)と思いますが、ここではこのICFの立場に立つことにより避けられるあやまちについてだけ紹介したいと思います。


まず、旧来からの一方通行の矢印が象徴するように、医療関係者に多い誤りとして「心身機能・構造」レベルの障害が、「活動」「参加」を決定するというものです。これは3つのレベルの「相対的独立性」を無視して、心身機能・構造レベル優先の「相互依存性」のみを考えているためでしょう。


同様に、福祉関係者に多い誤りとして、「環境因子」のみを重視し、他のレベルの「相対的独立性」を無視しがちということがあります。私たちの例で言えば、自閉症は現在の医学では「治らない」と判断すると、「生活行為向上支援」(つまり本人の力を伸ばす)を行なうのではなく、すぐに「環境因子」のみへ働きかけて、解決を図ろうとする考え方です。もちろん環境因子は大切ですが、他のレベルも相対的に独立していることを配慮すると、本人の生活の向上については他のレベルへの働きかけの重要性も忘れてはいけないと自戒していきたいと思います。


3つ目の誤りは、それとは逆に「相互依存性」を無視して(つまり各レベルの相互矢印を無視して)、それぞれの専門家(医師、理学療法士、作業療法士、言語療法士、社会福祉士、介護福祉士、教師・・・etc)、がそれぞれ、自分の専門の分野にバラバラに働きかけるというものです。

お互いの間に意思の統一がないと、それぞれの働きかけが相殺されるだけでなく、マイナスになることもありえます。
それを防ぐためにはジェネラリストとしてのチームワークを持つことが必要なのですが、日本ではまだIEPが制度として未熟な以上、現状ではそれらをトータルとして子どものために調整していくのは・・・・しんどいですけど保護者しかないのかもしれませんね。


本来ならその役割は、発達障害支援センターなどにお願いしたいところですが、現状の組織・人数では個々の子ども達への支援までは手が廻りかねているのでしょう。

これらの誤りを誤りのままにしないためにも、早期の支援体制の充実を願っています。


ともかくも、ICFについての考えや現状の課題をわかりやすく、しかもお手軽な価格で学べるという意味でも、このブックレットをお薦めします。


(2006.4)


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目次


 はじめに - 新しい障害観・健康観を提起したICF


1. ICF活用の基本姿勢


  1) 分類よりモデルが大事
  2) 本の順序どおりでなくてよい


2. ICIDH(国際障害分類)からICF(国際生活機能分類)へ


  1) ICIDHモデル
  2) ICIDHモデルへの批判と誤解


3. ICFモデル - その基本的特徴


  1) 生命・生活・人生を包括する「生活機能」
  2) プラスを重視 - マイナス(障害)はプラス(生活機能)の中に位置づけて
  3) 相互作用モデル
  4) 環境因子と個人因子
  5) 疾患・変調から健康状態へ
  6) 「できる活動」と「している活動」


4. ICFの目的 - 「生きることの全体像」についての「共通言語」


  1) 人が生きることの全体像 : ICFは「統合モデル」
  2) 「共通言語」とは - 分類ではなく生活機能モデルが大事


5. ICFの実践的意義


  1) 隠れたプラスの側面を引き出し、伸ばす
  2) 階層性の意義 - 相互依存性と相対的独立性
  3) 生活機能低下の原因と解決のキーポイントは別
  4) ICFモデルの立場にたつことで避けられる誤り


6. ICFの構成と使い方


  1) コードの原則
  2) 分類項目 - 大分類について
  3) 評価点


7. ICFの活用 - コーディングの実際


  1) コーディングの手順
  2) 「ICF整理シート」によるまとめ


8. ICF(国際生活機能分類)の今後の課題


  1) 生活機能の主観的次元
  2) 第三者の障害


おわりに


文献