独立行政法人 国立特殊教育総合研究所:編著 ジアース教育新社 定価: 1429円+税 (2005年10月)
私のお薦め度:★★★☆☆
本書は、平成15年より独立行政法人国立特殊教育総合研究所において行なわれているプロジェクト研究「養護学校等における自閉症を併せ有する幼児児童生徒の特性に応じた教育的支援に関する研究」の平成16年度の成果報告です。
3年計画の2年目の著作で、最初の平成15年については、すでに「自閉症教育実践ガイドブック ~今日の充実と明日への展望~」として刊行されています。本書は前著を受けてのケースブックとして、各地の養護学校における実践事例を中心にまとめられています。
もちろん、最初に取り組むべき理念や方向性が示されていますので、単独でも自閉症についての理解はできると思うのですが、やはり前著と併せて読まれた方がよりわかりやすいと思います。
このプロジェクトは、元々「知的障害と自閉症を併せ有する児童生徒に対し、この二つの障害の違いを考慮しつつ、障害の特性に応じた対応について今後も研究が必要である」と提言された、「21世紀の特殊教育の在り方について」の最終報告からスタートしています。
“知的障害”養護学校に通う「重複障害」としての自閉症をもつ子ども、すなわちカナータイプの自閉症への指導方法の実践研究です。現在では、知的障害養護学校に通う生徒のうち、幼稚部で7割、小学部では半数近く、中学部で4割、高等部でも2割5分という、思った以上に高い数値がでています。
養護学校では、すでに自閉症はまれな障害ではなく、場合によっては単独の知的障害だけを持つ子どもよりも多い学級もあるということです。
また、その割合は増えているという傾向にあります。自閉症の疑いを含む生徒の昭和61年と平成16年の比較では、小学部 29.2% → 47.5%、中学部 28.7% → 40.8%、高等部 22.3% → 25.2%となっています。
しかし、これだけ自閉症の子ども達が増えながらも、一般の養護学校では依然として、主に知的障害のみに配慮した指導が行われているのが実情ではないでしょうか。経験豊かな先生でも、知的障害児向けの発達保障理論を基にした、「みんないっしょ、みんながいっしょに伸びる力を持っている」といったような、「二つの障害の違いを考慮しない」画一的な指導が行われているということも聞きます。
本書に紹介された、今回のプロジェクトの研究協力校では、自閉症の特性に配慮した取り組みを継続して続けておられます。
その基礎にあるのは、第1部のⅡにある「自閉症教育における専門性の確保・向上」につきるのではないでしょうか。ページ数にして、わずか6ページにまとめられていますが、全ての養護学校において、親が求めている方向性だと思います。また特別支援教育が本格的にスタートするにあたり、地域の拠点として、普通学校へのサポートする立場の養護学校にあっては最低限押さえておいてほしい項目でもあります。
簡単ですが、とりあえずその見出しだけ紹介します。これらが実際の教育実践における最低限のツボだと思えるからです。
この本を手にとられる先生方にはすでにご存知のことばかりだと思いますが、もし見出しをみて内容が想像できないような項目がありました、ぜひ前述の「ガイドブック」と合わせて読んでみてください。
「自閉症教育における専門性の確保・向上」
1 一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導
(1) タイプ分けの活用
・孤立群 ・受動群 ・積極奇異群 ・形式的な大袈裟な群
(2) アセスメントの重要性
2 自閉症の障害特性や認知特性に応じた学習方略
(1) 言語のみより、動作を伴った学習が有効
(2) 感覚的な記憶より、機械的な記憶をすることが多い
(3) 聴覚的な情報処理より、視覚的な情報処理が得意
(4) シングルフォーカス
(5) セントラルコヒーレンス(いろいろな情報をまとめて、全体像をつかむ力)
3 教育環境の整備について
(1) 教室等の構造化
(2) 自立的に動くための指導
(3) 教材・教具の工夫
4 自閉症の障害特性に応じた教育課程の編成
(1) 自閉症の指導内容について
(2) 自閉症の特性に配慮した教育課程の編成
(3) 自立活動における適切な内容の選択
5 地域生活の充実のための支援
(1) 地域(家庭)生活の実態を踏まえた個別プログラムの作成と支援
(2) 地域資源の活用
さて、本書のメインである各地の学校からの実践報告ですが、さすが研究協力校での実践だけあって、どれもすばらしく、さすが・・・というものばかりです。願わくはこれらの実践が全国各地のどこの養護学校においても、スタンダードの教育として保障されていればいいのですが・・・
そうなることを願っての本書であり、当プロジェクトの取り組みだと思います。各実践の最初には、ここでも参照すべき「ガイドブック」の章や節が記載されていますので、合わせて読んでいただければ、その目的やねらいが一層よく理解できると思います。
授業ですぐに使えるというよりも、その考え方や方向性に参考になる箇所も多いので、各地の教室で、そこに通う一人一人に合わせて工夫された実践が行なわれることを願っています。
(2006.3)
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目次
本書の刊行に当たって ・・・・・・・・・・ 小田 豊
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小塩 允護
第1部 自閉症のある子どもの教育を創造・充実していくための課題と方策
Ⅰ 自閉症教育として共通理解が求められる事項
Ⅱ 自閉症教育における専門性の確保・向上
Ⅲ 教職員の連携に基づいた指導体制の充実
第2部 実践事例
第1節 研究協力校の概要と自閉症のある子どもの教育の基本的な考え方
Ⅰ 北海道教育大学附属養護学校
Ⅱ 筑波大学附属久里浜養護学校
Ⅲ 東京都立小金井養護学校
Ⅳ 富山大学教育学部附属養護学校
Ⅴ 香川大学教育学部附属養護学校
第2節 アセスメントと個別の指導計画の作成
Ⅰ 評価のための個別セッションと個別の指導計画の作成
・・・・・ 筑波大学附属久里浜養護学校
Ⅱ IEPミーティングを活用した個別の指導計画の作成と実践の展開
・・・・・ 北海道教育大学附属養護学校
コラム 目標と見通しを持って行動できるようにするために
第3節 一人一人に応じた教育内容・方法、教育環境の工夫
Ⅰ 小学部 ~個別学習の実践~
1 教師とやりとりをする力を伸ばす個別学習
・・・・・ 筑波大学附属久里浜養護学校
2 パソコン教材を使用して生活に役立つことば・かずの力の獲得を目指した個別学習
・・・・・ 筑波大学附属久里浜養護学校
3 子どもが分かり子どもができる ことば・かずの個別学習
・・・・・ 香川大学教育学部附属養護学校
コラム 自分の力でやりとげる自立課題
Ⅱ 小学部 ~集団学習の実践~
1 課題学習における個別指導から集団指導への発展
・・・・・ 北海道教育大学附属養護学校
2 仲間と共に活動する意欲を育てる集団活動
・・・・・ 北海道教育大学附属養護学校
3 人とのやりとりやコミュニケーションの力を伸ばす集団指導
・・・・・ 筑波大学附属久里浜養護学校
Ⅲ 小学部 ~自律的な行動を促す指導の実践~
1 意味のある生活づくりからのスタート
・・・・・ 北海道教育大学附属養護学校
2 準備から片付けまで分かって動ける環境作り
・・・・・ 富山大学教育学部附属養護学校
3 わたしもできる ~日常生活の指導~
・・・・・ 香川大学教育学部附属養護学校
コラム 子どもの成長とともに変化する構造化
Ⅳ 中学部 ~個に配慮した集団学習の実践~
1 仲間と一緒に活動できるようにする工夫と校内連携
・・・・・ 香川大学教育学部附属養護学校
2 仲間と学びあう集団学習
・・・・・ 北海道教育大学附属養護学校
3 生活単元学習における話し合い活動の工夫
・・・・・ 富山大学教育学部附属養護学校
4 自分の役割を自分で行なう作業学習
・・・・・ 北海道教育学部附属養護学校
5 人とのかかわりを広げるコミュニケーションの指導
・・・・・ 東京都立小金井養護学校
Ⅴ 高等部 ~関係機関と連携した指導の実践~
1 家庭や現場実習先と連携して行なう環境づくり
・・・・・ 富山大学教育学部附属養護学校
2 関係機関と連携した現場実習
・・・・・ 香川大学教育学部附属養護学校
Ⅵ 小学部・中学部・高等部における一貫した支援
1 校内及び関係機関との連携・共動
・・・・・ 香川大学教育学部附属養護学校
第3部 全国調査の概要
Ⅰ 盲・聾・養護学校における自閉症の在籍状況等
Ⅱ 知的障害養護学校の取組の現状と課題
Ⅲ まとめ