ドッグ・シェルター ~犬と少年たちの再出航(たびだち)~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

今西 乃子:著 浜田 一男:写真 金の星社 定価:1200円 + 税 (2002年11月)


      私のお薦め度:★★★★☆


これは、自閉症関連書籍といっても、今までのお薦め本とはちょっとジャンルの違った本です。


本書に登場する自閉症児 ジョーダンは一方での重要な存在ですが、この本での主役は少年院で6年の収容期間をもつ少年ネートと、ジャーマン・シェパードの雑種のティリーです。
少年といってもネートは185cmの長身ときたえあげた筋肉を持つ18歳の青年です。ティリーは飼い主から不要といわれてシェルターに持ち込まれた2歳の成犬です。


殺処分してしまう施設ではなく、捨て犬たちの新しい家族を探す橋渡し役、それがドッグ・シェルターです。
アメリカのポートランドでは、新しい飼い主へ渡すまで、犬のすべての世話とトレーニングを、少年院の子どもたちが行っているプロジェクト、『プロジェクト・プーチ』があります。
犬たちはここで人間への信頼を取り戻し、そして少年たちは「命」を預かることにより、その大切さを学び、自分自身の存在価値を見出していきます。


一度は人に捨てられた犬と、あやまちを犯した少年たち。ふたたび「生命」をとりもどし、彼らの人生がここプーチから新たな鼓動を始める。


少年 ネートと彼の選んだ犬 ティリー、そしてティリーの新しい飼い主となった自閉症のジョーダン。
2人の少年と1匹の犬を通じてプーチの活動を紹介し、「命」とそこから生まれる無限の可能性について考えます。


「命」に順位はない。過ちを犯した少年たちに「命」の大切さを教えたかけがいのないパートナー。
それは、こわれたおもちゃのように一度は人間に捨てられた犬たち。


そんなノンフィクションです。少年少女向きに大きな活字とふりがな付きですので、ぜひ小学校の図書館に置いてほしいな、というような本です。
自閉症についてもほぼ正しく紹介され、ジョーダン少年の奇妙さや困難さが障害特性からくるものと、やさしく解説されています。


ジョーダンが飼い主となってもティリーはうまくジョーダンの指示通り動けません。
それを聞いたネートは、ジョーダンとティリーをプーチでのトレーニングに誘います。うまくいかない理由、それがジョーダンの自閉症特有の相手の目を見てしゃべれないことや、イントネーションのないゆっくりとした「命令」にあるのではないか・・と見抜いたからです。


一度見ただけの、その観察の鋭さには感嘆します。
そして、ゆっくりとした指示でも、ジェスチャーをつけることにより(ネートのやる事を目で見て模倣して)、ジョーダンの自らの意志をティリーに伝えることに成功していくのです。


この本の最後の文章、プロジェクト・プーチで犬と共に過した少年はすでに100人を越すが、再犯を犯したものはただの一人もいない、という一節と、ネートが仮退院となる時、お礼のパーティの招待状に書かれたということばが心に残りました。


I CAN LIVE AGAIN
著者はこれを「人を信じることができずに言える言葉ではない」と感動し、副題ともなった「再出航(たびだち)」と訳しました。


I CAN LIVE AGAIN
いい言葉ですね。これからの3人(正確には2人と1匹)の人生の海路が大きくひらけるよう祈っています。


             (2003.2)


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目次


プロローグ 犬をゆずってください


1 マクラーレン少年院の子どもたち

2 ネート・ミッチムという少年

3 ネートの一日

4 ティリーが来た

5 ジョーダンとクレイグ

6 ビッグ・ブラザーとベスト・フレンド

7 新しい家族

8 ネートの手紙

9 ネートとジョーダンの挑戦

10 ティリーの心


エピローグ ネートの再出航(たびだち)


あとがきにかえて