実践 自閉を砕く ~脳機能の統合訓練と人格教育をめざして~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

片倉信夫・暎子:著 学習研究社 定価:1456円 + 税 (1985年3月)


     私のお薦め度:★★★☆☆


この本はその昔、息子哲平が「自閉症」との告知を受けて間もなくの頃、まだ「自閉症って? 何?」 そんな折に読んだ本でした。


自閉症について右も左もわからず、ただオロオロしていた頃に、「年長及び成人期の教育目標」・・なんて文を読みました。
成人した自閉症者の方の状態を教えられ、そのヤスベエ君や歌麻呂君、太郎君の姿に、ある意味ショックを受けながらも、それでもそのユニークな姿に “かわいい”と思ってしまい・・・自閉症児を育てていく際の覚悟と、楽しさ、いきがいを教えられたように思います。


本書の第1章の「自閉症とは」の中にある “2つのアプローチ” 「自閉症を治す」と「自閉症児を育てる」、いまでは「自閉症を治す」ことは医学的にまだ無理なので、治すというよりも「自閉症児を育てる」ことに力を注ぐのが主流になっていますね。

私たちの創った会もその名の通り「岡山県自閉症児を育てる会」です (^_^;)


でもこの本では、その2つ、“治す” と “育てる“ は車の両輪にたとえられ、「自閉症を治す」というアプローチも大切なテーマとなっています。
まさに「自閉を砕く」という意気込みです。


もちろんそれは、子どもたちを普通児と同じように近づけることをめざしているのではなく、「状態の悪い自閉症者」を「状態の良い自閉症者」にまで育てていくということです。少しでも本人がこの世界で暮らしやすいように、苦しまないようにとの願いからです。
そして、我が家ではその当時、そのための愛情とノウハウをこの本から受け取れたように思います。


この本は 「はじめに」 の出だしで片倉先生が書かれているように 

「まだ、この本の題名が決まっていないのです。この本をお読みになればわかりますが、2章と3章があまりにも異質なので、どういう題にしたらいいか、企画・編集をされる中山さんが考えこんでしまっている、というわけなのです。」 


そうですね、ホント異質です。

副題 「脳機能の統合訓練と人格教育をめざして」 にも苦労のあとがにじみます。

「脳機能の統合訓練」については、当時、片倉先生の奥さんであった暎子さんが書かれた2章の自閉症児を机に座って訓練する教材やノウハウがたくさん書かれています。教材の紹介や使い方、評価のしかたなどが具体的に絵もいっぱいに書かれ、その気になれば、すぐにでもとりかかれるものばかりです。


副題の後半 「人格教育をめざして」の方は、成人した自閉症者に文字通り全身でぶつかって、全身でぶつかられ、悪戦苦闘ののちに、お互い人としてやりとりができるまでになった実践記録です。記録といっても、後で追験できるような学術的記録ではなく、一対一の“物語”です。


ここらあたりが片倉先生の評価のわかれるところかもしれませんが、少なくとも私にとっては、「大変そうだけど、親として子育てを楽しみながら、がんばってみよう」という精神的な励みになりました。


片倉節に抵抗のないみなさんにはお薦めしたい一冊です。
片倉節に抵抗のある方にも、第2章の方はお役にたつところもあるのではと・・・お薦めします (^o^)


          (2002.9)


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実践 自閉を砕く/片倉 信夫・暎子

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目次


はじめに


第1章 自閉症とは


  1. 自閉症とは

     (1) 自閉症とは
     (2) 認知障害
     (3) 自閉症の多彩さ


  2. 教師の役割

     (1) 二つのアプローチをする
         ■ 自閉症を治す
         ■ 自閉症児を育てる
     (2) 集団と個別
     (3) ちえ遅れと自閉症


  3. 親の役割

     (1) 親の役割
     (2) 知育、体育、徳育
     (3) 第一の親子関係から第二の親子関係へ


第2章 自閉の殻に挑戦する
   ― 学習指導によるハビリテーション・プログラム


  1. 学令期の指導について

     (1) 学習指導の意味
        ■ 脳機能の改善
        ■ 対人関係の訓練
        ■ 子どもを変える突破口として
     (2) 導入段階における特殊な工夫
        ■ 環境刺激を最小にすること
        ■ 指導者の存在を印象づけること
        ■ 食物強化子を使うこと
     (3) 行動療法的アプローチの効用


  2. 教材にこる

     (1) 「教材にこる」とは実際にどういうことか
     (2) ことばのない子どものプログラム
        ■ 導入課題のいろいろ
        ■ 感覚的な認知学習 ― 概念の基礎作り
        ■ 聞きとり ― 理解言語
        ■ 発声 ― 表現言語
     (3) 実施上の問題点
        ■ 「スモール・ステップ」について
        ■ 子どもが課題につまづいた時
        ■ 教材のヒント
        ■ 集中時間のムラを覚悟しておく


  3. 教材を使いこなす

     (1) 「教材の使い方」がすべて
     (2) ことばの使える子どものプログラム
        ■ 動作模倣
        ■ 認知学習の発展
        ■ 数概念の基礎
        ■ 初歩的な文字学習
        ■ 文章の構成
        ■ コミュニケーション行動
        ■ 初歩的なゲーム
    (3) 実施上の留意点
        ■ 枠組みを利用すること
        ■ ねらいをしぼること
        ■ 絵カードについて


  4. 教材にこだわらない

     (1) 教材以外の面で勝負する
     (2) 発達レベルの高い子どものプログラム
        ■ 模倣あるいは言語指示による動作
        ■ 触覚と手指の課題
        ■ 抽象的思考
        ■ 関係の認識
        ■ ゲームのいろいろ
     (3) 実施上の留意点
        ■ 人間関係によって学習を支える
        ■ その他の認知障害について
        ■ 発達レベル高い自閉症児ほど、指導は難しい


第3章 自閉症児を育てる
      ― 人格教育の具体的方法


  1. 年長及び成人期の教育目標

     (1) 思春期の自閉症児 ― 幼児期との違い
        ■ 親子の太い絆
        ■ 実生活と虚生活
        ■ 成熟の拒否
        ■ 熱中時代
        ■ 仲間
     (2) 状態の良い自閉症者と状態の悪い自閉症者
        ■ 状態の悪い自閉症者 その1 F1群
        ■ 状態の悪い自閉症者 その2
        ■ 状態の悪い自閉症者 その3
        ■ 状態の良い自閉症者 その1 F1群
        ■ 状態の良い自閉症者 その2
        ■ 状態の良い自閉症者 その3
        ■ 良い悪いを判断する時の僕の基準
     (3) 年長及び成人期の教育目標
        ■ 第三者の協力
        ■ 障害者と就労 ― 英国の場合
        ■ 重度障害者と作業 ― 日本の場合


  2. 状態の悪い自閉症者を状態の良い自閉症者にする

     (1) 同一姿勢を保持させる
        ■ 歌麻呂君
        ■ 歌麻呂君登場
        ■ 歌麻呂君の問題点
        ■ 首振り阻止
        ■ 同一姿勢の保持
        ■ 首のとまった歌麻呂君
     (2) こだわらないと頭が動く
        ■ 安兵衛君
        ■ 新記録樹立
        ■ こだわり
        ■ カンシャク
        ■ 反抗
        ■ 家庭生活
        ■ 天城高原阿部山荘の生活
        ■ 内房竹岡の岩野邸での一年
        ■ 初雁興業坂戸寮


  3. 子捨ての季節、そして成人教育

     (1) 太郎君をまかせてもらって論争を始めるまで
        ■ 孤立 & ゆううつ
        ■ カフェイン
        ■ 飽食
        ■ カンシャク
        ■ 子捨ての季節
        ■ 論争
     (2) 歌麻呂君の場合
        ■ 一般論
        ■ 太郎君の場合
        ■ 歌麻呂君の場合


あとがき