実践 自閉児の言語開発 ~サバイバルスキルとしての言語指導~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

角張 憲正:監修 自閉児教育研究会:編著 学習研究社 定価:1456円 + 税 (1985年4月)


     私のお薦め度:★★★☆☆



「サバイバルスキル」とは、少しオーバーな気もする表現ですが、要は自閉症児たちが社会参加することを目的とした、生活のための言語開発・言語指導です。


なにしろ言語によるコミュニケーションは苦手な子どもたちです。オウム返しも多く、聞き取りも表出も弱いものがあります。
ことばの獲得が遅いことから、自閉症という障害に気付くことも多いですね。


そんな中で、いかにして暮らしに役立つ言語を指導していくか・・ということを実践してきた本です。
「あいさつ」「要求」「質問、承認」「応答」「報告、伝言」・・どれも将来に向けて子どもに身につけさせたいスキルです。まず、それぞれの課題について、それぞれの子どもの状態を観察・評価するところからはじまります。一人ひとりに合わせて教材を工夫し、スモールステップで丁寧に指導していきます。


課題分析や応用行動分析の手法を用い、親を共同指導者として共に働きかけるやり方は、20年近くたった現在でも(1985年 出版)すぐにでも使える手引書だと思います。

そして、そのやり方は、とてもわかりやすく、はじめて自閉症児をもった担任の先生でも、もちろん親でもやさしく取り組めるものです。


現在はAAC機器などを使い、まずはコミュニケーションの意欲を高めて、その結果として言語の獲得・・・という実践の有効性も証明されていますが、それ以前の電子機器やコミュニケーションブックなどが発案・開発される以前の時代としては、親を共同指導者としてとらえ、強化子などを駆使して働きかけるやり方は効果があったのだと思います。


そしてなにより、このようなあいさつや要求から言葉の指導にはいるやり方は、従来の担任の先生方にも抵抗なく取り入れていただけるのではないでしょうか。

この本の方法論を利用して、サバイバルスキルとしてのことばを獲得する子どもたちが一人でも多くなることを願っています。


       (2003.7)


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実践 自閉児の言語開発/角張 憲正


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目次


  まえがき


第1章 自閉児の生活と言語


  1 「生活に役立つ」言語を教える意味

     (1) 生活に役立つ学習とは
     (2) 「手はおひざ」ができることとことばの関係


  2 ことばとコミュニケーション

     (1) 言語行動は環境からのコントロールを受ける
     (2) 言語行動は環境をコントロールする
     (3) 言語行動は自分の行動をコントロールする
     (4) 会話


  3 応用行動分析による言語指導


第2章 言語開発の具体的展開


  1 言語開発について


  2 治療教育の目標

     (1) 長期的目標
     (2) 直前の目標


  3 あいさつ

     症例 1 ・おはよう
     症例 2 ・ありがとう
     症例 3 ・さようなら


  4 要求

     症例 4 ・○○ちょうだい(ジェスチャー)
     症例 5 ・○○したい
     症例 6 ・○○してください
     症例 7 ・やめて


  5 質問、承認

     症例 8 ・○○していいですか?
     症例 9 ・おしえて


  6 応答

     症例10 ・事実に関する「はい」と「いいえ」
     症例11 ・気持ちに関する「はい」と「いいえ」
     症例12 ・はい(返事)
     症例13 ・「あっち」「こっち」


  7 報告、伝令

     症例14 ・できました
     症例15 ・ない
     症例16 ・電話の応対
     症例17 ・ご用


  8 自発行動の善しあしの弁別


  9 質問に対して反応のないときの対応の仕方


第3章 言語開発の方法と基礎理論


  1 言語開発の基礎プログラム

     (1) 言語指導の準備課題
     (2) 発声・発音訓練の方法


  2 行動変容の基礎知識

     (1) 行動変容の基礎知識
     (2) 行動の観察と記録


  3 適切な行動の訓練

     (1) 訓練の場と時間
     (2) 弁別刺激を提示する際の留意点
     (3) 強化刺激の選択
     (4) 強化刺激を適用する際の留意点
     (5) 課題分析
     (6) シェイピング
     (7) ロバースの行った訓練
     (8) プロンプトとフェイディング
     (9) チェイニング


  4 不適切な行動の統制


第4章 親を含めた指導をどう展開するか


  1 親を含めた指導

     (1) 指導場面と家庭場面
     (2) 親を共同指導者とする
     (3) 親トレーニングの有効性
     (4) 親トレーニングの利点


  2 親を共同指導者とするには

     (1) 長期的に取り組む
     (2) 共同指導者のライセンンス
     (3) モデリングと行動リハーサル
     (4) 強化子としての飲食物の利用


  3 親トレーニングの進め方

     (1) 即効性と約束
     (2) 記録のつけ方
     (3) 強化子の選択
     (4) 教材の選択
     (5) テキストの利用


第5章 理解言語の指導 ― ご用学習を中心に ―


  1 対象児童について


  2 指導経過

     (1) 小学部3年生~5年生まで
     (2) 現在の状況


  3 標的行動の設定


  4 親指導の実際

     (1) 面談による指導
     (2) 連絡帳による指導


  附録

     (1) KBPACと「行動変容法の知識の測定」
     (2) 行動変容法の知識の測定


  参考文献
  あとがき