豊かな福祉社会への助走 Part 1・2 | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

『 豊かな福祉社会への助走 Part 1 』

   浅野 史郎:著 ぶどう社 定価:1456円 + 税 (1989年4月)
『 豊かな福祉社会への助走 Part 2 』

   浅野 史郎:著 ぶどう社 定価:1456円 + 税(1991年10月)


    私のお薦め度:★★★★☆


昭和62年9月から平成元年6月まで、当時の厚生省の障害福祉課長を勤められた、浅野史郎氏の書かれた本です。
氏の視点はあくまで障害者の側にたって、問題をとらえ、解決の道を探ろうとしています。

こんな方が行政の中心におられるということは、まだまだ日本のお役人にもいいとこあるな、と、人を信じる気にさせてくれる本です。


浅野氏が障害福祉課長時代に福祉のキーワードとしていたのは 「地域」「人権」「ふつうの生活」であったそうです。

これはそのまま私たち親子にとってのキーワードでもありました。


「ふつうの生活」を送るというのは。「生きていて良かった」と思えるような経験を持つことである。幸せに生きる権利を障害者も持っているということが、人権の問題の基本となる。
「ふつうの生活」は「地域」での生活である。我われはすべて地域に属している。障害を持った人達も同じである。決して施設に属しているのではない。


行政は明らかに一歩を踏み出したのである。地域福祉を進める方向に。
そこで予想される人権侵害ケースにも配慮しつつ、その生活こそが障害者の人権を尊重する第一歩だと信じつつ。
その第一歩は大きい歩幅ではないかもしれないとしても、もうあと戻りできない一歩ではある。


こうして厚生省により、精神薄弱者のためのグループホームや、重症心身障害児の通園モデル事業がスタートし、強度行動障害への処遇問題にも取り組んでいくようになりました。


これは、浅野氏ひとりの力でできたわけではないかもしれませんが、リード役として先頭に立って、すごいエネルギーで厚労省を引っ張ってこられたことは間違いありません。


そしてそのエネルギーの源は“怒り”であったのかもしれません。
「いい施設って何?」の章の中でも、まずトップの施設長としての資質を問います。


新任施設長さんの中には「まだなったばかりで何もわからなくて・・・」とおっしゃる方も多いでしょう。経験が少なくてとまどうこともあるでしょう。これは仕方がない。

なかには能力がない方もいるでしょう。これも仕方がない。


ただし、就任後数ヶ月もたって、まだ、障害者問題に取り組む気構えがもてない、理念がもてないという方がいれば、これは許されない。


返す刀で、施設職員に対しても「権利主張過敏型」「問題意識希薄型」「悪いのは上だ型」「でもしか職員」「視界閉鎖型」「人格人権無視型」と・・・読んでいて、痛快ですね。


「施設福祉から地域福祉へ」 流れは確かにいい方向に進んでいると思います。浅野氏の出られた後の(現在は宮城県知事を務められています)厚生労働省が “あと戻り”する事のないよう願っています。


また本書には、当時の浅野課長を支えてきた(・・というか、ハッパをかけてきたというか・・)魅力的な人たちが多数紹介されています。

草の根的に日本の福祉を担ってこられた先輩方です。その圧倒的な迫力にはかなわないかもしれませんが、少しでもそのエネルギーを引き継いで子どもたちのためにがんばらなければ・・・・

そんな熱い思いも感じた本書でした。


       (2002.12)


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豊かな福祉社会への助走(Part1)/浅野 史郎

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目次


『 豊かな福祉社会への助走 Part 1 』


 はじめに


Ⅰ 障害福祉の今日を考える 


    1 障害者問題の重要性は少しも減ってはいない
    2 障害児の存在を社会の中心に据える
    3 障害者問題の質が変わってきた
    4 本当のボランティアとはなんだろう
    5 ボランティアを育てる「おもちゃ図書館」
    6 「いい施設ってなに?」 (1)可能性の哲学の実践
    7 「いい施設ってなに?」 (2)A君を変身させたもの
    8 「いい施設ってなに?」 (3)「外の目」を意識する
    9 「いい施設ってなに?」 (4)施設の存在と職員の意識
    10 「いい施設ってなに?」 (5)トップに求められる資質
    11 「いい施設ってなに?」 (6)仕事は楽しくなくては
    12 「いい施設ってなに?」 (7)望ましくない職員とは
    13 「いい施設ってなに?」 (8)続・望ましくない職員とは
    14 「施設福祉から地域福祉へ」のめざすもの
    15 障害者の人権がいかに侵されているか
    16 「強度行動障害」の問題をなんとかしなければ


Ⅱ 障害福祉の明日を語る


 (1) 重症児こそ私の「原点」

    1 重症児から教えられたこと
    2 すべての人にとって住みやすい社会に

(2) 今、施設に求められているもの

    1 施設に問われる三つの理念
    2 これから、施設はどう変わるのか


 (3) 障害福祉の仕事にたずさわる者として

    1 障害者とは、障害福祉の仕事とは
    2 我われが意識しなければならないこと
    3 開かれた施設になるために


 (4) 施設福祉から地域福祉へ

    1 「施設福祉から地域福祉へ」 ― その意味するもの
    2 グループホームへの期待
    3 行政に求められる発想の転換


Ⅲ 私の出会った魅力的な人たち


    1 娘と見る「マホロニー」の夢
    2 重症児の生きる喜びの場を作る
    3 村にも町にもおもちゃ図書館を
    4 身体障害者訓練のフロンティア
    5 重症児のいのちを守る
    6 重症児施設の医師としての開眼
    7 地域療育の拠点を築く
    8 自立生活への道を拓く
    9 社会復帰へのたくましい足どり
    10 親の会の仕事をライフワークとして
    11 障害者を輝かせる「さをり織り」


あとがき


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『 豊かな福祉社会への助走 Part 2 』


序にかえて この仕事は国造りと思い定めて


第1章 走りながら考えた福祉


  1 婦人保護という仕事をご存知ですか
  2 まだ小さな芽、でも世も中を変える力に
  3 日本は本当に豊かだろうか
  4 女性達からのメッセージ
  5 パフォーマンスに込めた私の思い


第2章 再び、走りながら考えた福祉


  1 私の原点は障害福祉
  2 福祉は「かわいそうな人達」のため?
  3 これからの福祉はどんなものに
  4 「聖職者」と「役人」をめぐって


第3章 福祉を創り出す女達、男達


  やんちゃ坊主の私には、慈愛深い姉のような
  一番困難なケースからやるもは当然と、かた意地張らずに
  市内に移り住んだ園生さんは、もう山の上に戻りたくないと
  首長が指導力を発揮すれば、相当の福祉ができることを
  「社会復帰なんてとんでもない」に闘志をかき立てられて
  「童貞のまま死にたくない」 ― 自分の力で生きたいという魂の叫び
  「障害こそがあなたの個性」 ― 自己回復へのカウンセリング
  「陽ちゃんが踊った」 ― 障害を持つ人の創造性を引き出す
  息子や仲間の未来を語る時、母の瞳は輝く
  タブー視から正しく楽しむ性へ ― 人権の観点から考える
  「まちのくらしSOS」 ― 人権侵害とたたかう
  「思い重症児と生きる」を出発点に、その活動はあらゆる分野に
  「どんなやっても施設は施設、一度でいいから外の生活を」
  「私達は労働障害者ではありません」 ― 体力と気力を鍛える
  行動ヘと駆りたてるもの ― てんかんへの偏見を怒りに
  通園施設全体が良くならなければ、障害児の未来はない
  寝た子を起こす運動 ― モノを通して語られる思想性
  「抱きしめてBIWAKO」 ― 本質を見つめた自由な発想と実践
  ファイブ・アンド・ファイブ ― 5分と5分で助け合って生きる
  売春は女性の人権問題 ― 三十余年、五千人の相談に
  「赤ちゃんをつくるのは精子と卵子と愛情」 ― いのちを大切にする性教育
  生協は無限の可能性を持つ ― 上質のセンスの優れた経営者
  お年寄の在宅生活を支える ― ケア・センターやわらぎ
  真の豊かさへの挑戦 ― 笑みを絶やさず、静かに、ねばり強く
  仕事では女性を全く感じさせない、願ってもない上司
  いかに慕われ、頼りにされていたか ・・・・ とてもとても大切な人を失った
  この仕事はライフ・ワークとするに足る。どんどんやってくれ


第4章 福祉は社会を変える


  グループホームとの出会いから
  「ふつうのおばさん」と「マニュアル」
  現場の期待と熱気を感じつつ
  グループホームはさらにひろがって
  障害福祉と老人福祉は繋がる
  「人権」と「誇り」
  「貢献重視主義」を乗り越えるには
  声を出せない本人の代弁者として
  「かわいい女」「かわいい障害者」
  女性が差別されている時、男性は・・・
  国の進歩度と女性の解放度
  世の中を変えるには、女性達にこそ
  行政の変化を変えるには
  「負担」をめぐって
  素敵な仲間達と一緒に


あとがき