マイ サイレント サン  ~自閉症の息子からのメッセージ~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

トーディス・ウーリアセーター:著 藤田雅子:訳 ぶどう社 定価:1214円 + 税 (1989年5月)


    私のお薦め度:★★★★★

カバーの写真は波の打ち寄せる海岸で遠くを見つめるダグトール青年です。生まれ育ったノルウェーの海岸なのでしょう。
日本でもノルウェーでも、世界中のどこでも、自閉症児を育てる家族の思いには共通のものがありますね。特に、まだ自閉症という障害が理解されてない時代に子どもたちを育ててこられた先輩のお母さんたちの苦しみ、闘いには頭の下がる思いです。


ダグトール君が生まれたのは1955年、そしてこの本が書かれたのはそのダグトール君が20才になった1976年のことです。まさにまだ母親が「冷蔵庫のような冷たく拒否的な・・」と名指しされ、療育から締め出され、精神分析療法が引きこもりから助け出す手段だと考えられていた時代の子育てでした。
この本の書かれた、つまりダクトール君が20才になった頃にやっと自閉症が脳の器質的な障害だと認知されるようになってきました。


ダグトール君が6才の時、心理士からも言語療法士からも治療を投げ出されてしまい、児童精神科医より当時はどこにも行く場のなくなった彼のために、“教育的配慮”から、知恵遅れの子どもの大型施設を勧められます。


 「ダグトール。この夏、幼稚園が終わったら、あなたは、ほかの幼稚園に行くのよ。そこで昼間だけでなく、夜も過すことになるの。あなたのベッドもそこにあるのよ。」と、わたしがいったとき、あの子の目が曇りました。
だから、あの子はその意味がわかったのだと、わたしは信じています。でも、もちろん、あの子は何も反応しませんでした。


しかし、その施設で与えられたのは治療でも教育でもなく、ただ「治療を受け入れやすくするため」の薬だけだったのです。
その現実を前にしてウーリアセーターさんたちが選んだ行動は、施設を出て暮らせるためのホームの創設だったのでした。ダクトール君、10才の時でした。


そして今、20人もの共同寝室でもなく、施錠される個室でもなく、自由に消したい時に電灯を消して眠り、おなかがすいたらサンドイッチを作って食べ、みんなといっしょにいたかったら談話室に行き・・・休日にはホームを出て「家に行く」生活です。


カバーの裏表紙は、薪小屋でのダグトール青年です。彼は木材を切ったり割ったりするのが好きで、秋や冬の夕方、自宅の林の中にある薪小屋に出かけます。


あの子は、そこで何を考えているのかしら。それは、だれにもわかりません。

わたしは暗闇が怖いし、あんなところに独りでいようなんて思いもよりません。


でも、ダグトールは、明かりがともり、人びとがいて、会話がある部屋を出てさびしい暗闇に入っていきます。
あの子は、小屋で、どんな時間を過しているのかしら。あの子はそこで、心の内の安定を見出しているのかもしれません。


北欧の澄んだ星空の下、ダグトール青年のまわりでゆったりと流れている時を感じました。


 ・・・そして、それから現在まで、さらに四半世紀が過ぎました。
ノルウェーをはじめ北欧は福祉先進国と呼ばれるまでになり、ウーリアセーターさんたちの始めたグループホームやワークセンターはもう北欧では一般的になっています。施設から地域で普通に暮らすことが自然になっています。
親の力で社会が変わってきているのですね。


その中で、言葉はなくとも、静かに歌を口ずさみながら、おだやかに暮らしているダグトール“おじさん”の姿も目に浮かんできます。


      (2002.6)


---------------------------------------


マイ・サイレント・サン―自閉症の息子から... トーディス ウーリアセーター・藤田 雅子 



本は友だち―障害をもつ子どもと本の出会い... トーディス ウーリアセーター・藤田 雅子 


「障害」ってなんだろう? (バリアフリーの本―「障害」のある子も“みんないっしょに”)/藤田 雅子
¥2,625
Amazon.co.jp



新・福祉カウンセリング―福祉にかかわるすべての人に/藤田 雅子
¥3,150
Amazon.co.jp


---------------------------------------------


目次


はじめに


おなかの赤ちゃん
わたしたちの子ども、そして社会の
それはどのように始まったのでしょうか
引きこもり
たぶん、わたしたちはまちがいを犯したのです
わたしは 「冷たく拒否的な母親」 なの?
父親は悩まないのでしょうか
「ガラス玉の中の子ども」
子ども時代のかすかな光
親はサービスを求めています
幼稚園で
たらいまわしされる子ども
わたしたちは分担したい
家族が傷つく
大きな施設で
ホームをつくる
10歳の子がけんかをしないなんて
ふたつの誕生日
仮面に隠された顔
小さな、でも大きな進歩
こんな生活がわたしたちにできますか
共に生活し働く村
雷雨と穏やかな声
あきらめない、それはやりがいのあることです
きょうだいには、どう接していますか
あの人たちも悩んでいる
ヴェトナムの障害の子はどうしているの
ふたりの16歳
「あんな子どもたち」 そして 「すばらしい女性たち」
休日には
思春期を迎える
その色はグリーンでした
薪小屋で、あの子は
親から共通に譲られるもの
三つの手紙
長い夜、そしてあの子の仕事
自然を感じる
母親は疲れています、解放を
ふたつの邪悪な望み
ダグトール20歳、自らの道を歩んでいます
これが理由です


 

 わたしたちも、この道を    藤田雅子


  ノルウェー
  経済と女性、そして福祉の歩み
  パール・バックに見る 「母」
  ウーリアセーターさん
  ダグトール君との出会い
  成長段階に応じた自立
  「ノルウェーの森」の青年たち
  グループホームとワークセンター
  境界線を定める
  親だからできる最終の援助
  「分担したい」という、もうひとりの母
  途上国とのかけ橋
  『 マイ・サイレント・サン 』に凝縮された人生
  歴史をつくる人たち
  さわやかな2冊を翻訳して


国際福祉論―スウェーデンの福祉とバングラデシュの開発を結ぶ/藤田 雅子
¥2,415
Amazon.co.jp