自閉症へのABA入門 ~親と教師のためのガイド~ | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

シーラ・リッチマン:著 井上 雅彦・奥田 健次:監訳 テーラー 幸枝:訳
東京書籍 定価:1800円 + 税 (2003年9月)


    私のお薦め度:★★★☆☆


この本の監訳者の一人である井上雅彦先生から、以前こんな話をうかがったことがあります。


「TEACCHを車に例えると、ABA(応用行動分析)はそのエンジンのようなもの」


今、日本では自閉症療育においてTEACCHの手法が、その有効性が認められ大きく広がってきています。
しかし、TEACCHというものが本当は療法というものではなく、行政や社会までを巻き込んで構築されていくシステムだとすると、今日本に広がっているのはTEACCHメソッド(TEACCH的技法)だと言えるのかもしれません。
そう考えると実際に子どもたちを助けているのは、そのエンジン部であるABAの部分なのかもしれませんね。


本書は、そのさまざまなABAの実践をわかりやすく、その基礎から教えてくれています。書かれていることは、いずれも納得できで、すぐにでも取り組んでみたくなるような魅力に満ちています。


まず、ABAで使われるいろいろのアプローチや用語について、その基礎からていねいに説明されています。
手がかり刺激、強化子、プロンプトの提示、般化、行動形成、行動連鎖(順行、逆行)・・・
その後、それを具体的にどのように応用していくか、その場面について例示されています。遊びを通して、日常生活において、不適応行動をおこした際の対処、コミュニケーションを育てるには、などなどです。


それではその中からABAの実践例として、きょうだいとの関わりについての節の一部を紹介します。


第7章 きょうだいとのかかわり
  良いきょうだい関係を築く
     3.きょうだいに応用行動分析の簡単なルールをいくつか教えること


遊び時間にきょうだい同士のかかわりを持たせる準備ができたなら (これについては前節でその準備について説明があります)、親や専門家が使う方法を取り入れ、自閉症の子どもの反応を導くような知識を教えると役に立ちます。
次のような簡単なアイデアで教えてあげましょう。


1) お兄ちゃんに話しかけるときには、まず先に名前を呼ぼう。
2) お兄ちゃんがこちらを見て、注意を払っているかどうかを確かめよう。
3) 頼むことは1回に1つだけにしよう。
4) 頭の中で3つ数えて待って、お兄ちゃんがどうしたらいいか考える時間をあげよう。
5) 物をとってきてほしいけれど、繰り返し頼まなければならないときには、声かけだけでなく絵カードや写真カードを使ってかかわろう。
6) お兄ちゃんが正しくできたときには「ありがとう」と言って、拍手で応援してあげよう。そうすればお兄ちゃんはわかるようになるから。


互いにうまくかかわれたときには、自閉症の子どもにもきょうだいにも賞賛し、強化子あげることを忘れないようにしましょう。逆に、きょうだいが努力してもうまくいかなかった場合、頑張ったことを認めてあげた上で、他のかかわり方を一緒に考えるようにしましょう。


きょうだいは驚くほど早く指示の仕方を覚え、上手に実践します。正式な応用行動分析の訓練を受けず、専門用語を知らなくても、うまく手がかり刺激を出し、プロンプトを行い、自然に強化できるようになります。きょうだいは友達でもあり、良いモデルにもなれます。


きょうだいは、自閉症の子どもが学習し成長していくことにかかわる中で、喜びを感じることができるようになるのです。


いかがでしょう、すぐに取り組めるアイデアだと思いませんか。
「お兄ちゃん」のところを「○○ちゃん」に変えれば、親にとってもそのまま使える、気をつけて行ないたい接し方だと思います。
これまでABAに接したことのない方にも、ぜひ読んでいただきたいと思います。


また、監訳者のもうお一人、奥田健次先生には、以前育てる会で、応用行動分析について連続講座を開いていただきました。
その意味で、とても身近に感じられ、ぜひともみなさんにお薦めしたい一冊です (^_^;)


       (「育てる会 会報 66号 」 2003.10)


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目次


第1章 自閉症とはなにか


  自閉症の兆候と症状
  一般的な予知
  自閉症の診断の歴史
  様々な療法と教育・指導法
  まとめ


第2章 学習についての基礎理解と応用行動分析によるアプローチ


  学習とは何か そして 行動はどのように教えられるか
  手がかり刺激
  強化子
  プロンプトの提示
  般化
  行動形成
  行動連鎖
  まとめ


第3章 子どもの自由時間を構造化する


  はじめに:なぜ遊びが発達に大切なのか
  機能レベルに応じた遊び
  必須のスキルを考える
  ゲーム、遊び道具を選ぶ
  課題分析をする
  適切な遊びを教えるには
  指導に使う道具
  まとめ


第4章 不適応行動への対応


  はじめに:罰にまさる強化の利点
  不適応行動を起こす要因
  ABC機能分析モデル
  機能分析を行う
  先行法
  反作用法
  行動プランについてよく受ける質問
  まとめ


第5章 日常生活スキル


  はじめに:子どもの自立を高めるヒント
  健全な睡眠パターンを作る
  トイレット・トレーニング
  偏食その他の食事の問題
  着替え
  まとめ


第6章 コミュニケーションを育てる


  はじめに:具体的な目標をたてよう
  言葉の理解
  言葉の表出
  サイン言語
  コミュニケーション・ボード
  まとめ


第7章 きょうだいのかかわり


  きょうだいに自閉症について教える
  平等感を培う
  子どもとして、また個人としてのきょうだい
  良いきょうだい関係を築く
  きょうだいにかかわりを任せっぱなしにしてはいけない場合
  きょうだいであることによる良い影響
  まとめ


第8章 地域参加のために


  はじめに:積極的な地域参加と般化の重要性
  目的地と活動を具体的に考える
  地域参加のための準備
  時間つぶしできるものを持っていく
  親の心の準備
  まとめ


エピローグ


監訳者あとがき
参考文献
さくいん