自閉症スペクトラム 青年期・成人期のサクセスガイド | 私のお薦め本コーナー 自閉症関連書籍

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自閉症・アスペルガー症候群および関連障害や福祉関係の書籍紹介です by:トチタロ

服巻 智子:編著 ニキ・リンコ ほか クリエイツかもがわ

定価:2000円+税 (2006年10月)


    私のお薦め度:★★★☆☆


編者が所長を勤めるそれいゆ相談センターのある佐賀で行なわれた、第1回オーティズム・リトリート・ジャパンの会、すなわち自閉症当事者の会での講演録です。


序文にも書かれていますように、これまでも各地で当事者の方をお招きしての講演会は開かれていますが、そのお話を聴いているのは、主に保護者や関係者などの、いわば支援にあたる方々でした。このオーティズム・リトリート・ジャパンの会は、「とにかく集まりましょう!」と呼びかけて集まった当事者の方へ、当事者が語りかけるという講演会です。本書に収められたのは、当日講演された6人の中から、出版に同意された5人の方の講演記録です。


ニキ・リンコさん、榎木たけこさん、ロザモンド&忍さん、空音さん・・・すでにネットの世界ではおなじみの方が多いですね。
それでも、みなさん、やはり講演でも匿名(HN)の方を使っているところに、この障害がまだ市民権(?)を得ていないのだな、という思いを感じてしまいました。(一見本名らしく見える榎木たけこさんも、HN エノキダケからの由来だそうです)


みなさんのお話は、当事者ならでの、これまでの世間との軋轢や、それをいかに切り抜けてきたか、また当事者の立場から見た本当に必要な支援、同じ障害を持つ方へのサバイバルスキルのアドバイスなど、参考になることも多いと思います。
それだけに、余計みなさんがペンネームやハンドルネームを使ってしか、講演会のステージに立てなかったということに、別の意味で考えさせられてしまいました。

空音さんが周囲にはご自身の障害についてはカミングアウトできないと話されていますが、この障害を隠して生活しなければいろいろ不利なことがあるということ自体に、今回の大会の意味があるのかもしれませんね。子どもが自閉症であるということについてはオープンにして、広く支援を求めることができるのに、ご自身についてはカムアウトできない状態だそうです。


私がカムアウトするということは、夫の問題であり、子どもの問題であり、私の両親や兄弟や親せきなど、私にかかわるすべての人の問題にもなってきますので、軽々しく言うことができません。やはり偏見がどうしてもありますから。


これが、今の日本の現実なのでしょうね。その点、編者の服巻先生が書かれているように、「ASD(自閉症スペクトラム)の夫をもつ妻のためのワークショップ」とか「配偶者がアスペルガーの診断を受けた場合のもう一人の配偶者のための会」まであるというアメリカやイギリスなどは、マイノリティに対して理解と寛容のある世界なのでしょう。
そしてそうなるための、第一歩として始まったこのリトリートの会がこれからも裾野を広げ、大きく広がっていくことを応援したいと思います。


さて、本書についてですが、前半はニキ・リンコさんが「テレビから学んだこと」として、いままでの常識とはまったく違ったASD本人の視点から、テレビのもつユニークな役割、自閉症スペクトラムの人にとっての効用について述べられています。
そのユニークさは、いつものリンコ節(?)で、目からウロコどころか愕然として、自閉圏と非自閉圏のそれぞれの常識の違いに今回も驚かされました。「テレビを見せ過ぎると自閉症になる・・・」なんてのはひどい常識はずれだと思っていましたが、それなどはまだまだ薄っぺらな“想定内”の常識はずれで、本当の常識のはずれ方(?)は、こういうことを言うんだなあ、と。あまり言うとネタばらしになってしまいますので、後はみなさん本書を買って驚かれてください。


後半は、榎木さんやロザモンド&忍さん、空音さんがこれまでの人生を振り返っての欲しかった支援や行なってきた工夫、また自閉症スペクトラムの成人として必要な支援について話されています。従って、どうしてもその聴衆は、従来の講演会と同じく、どちらかというと一般(非自閉圏)の関係者を対象としているようにも感じました。今回の当事者大会、参加者の中にどのくらいの割合で当事者がおられたのかは知りませんが、まだ第一回ということもあり、講演者も、同じ当事者向けに話すというのには慣れていらっしゃらなかったのでしょうね。なにしろ、日本で初めての当事者大会なのですから、未体験ゾーンです。


この大会が、更に回数を重ね、真の意味での「当事者のため当事者大会」となることを願っています。


       (「育てる会会報 104号 」 2006.12)


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目次


当事者のための当事者大会


  - オーティズム・リトリート・ジャパン in 佐賀 ・・・・ 服巻 智子


テレビから学んだこと ・・・・ ニキ・リンコ


  私って「テレビっ子」?
  テレビがついている空間は情報過多
  テレビに助けられて
  好きな作品は「自分」の輪郭
  無駄に「解像度」が高い写真
  適度にファイルを小さくするためのソフト
  単行本と文庫本は別の作品?
  「変換ソフト」を頭にインストールする
  関係ある情報と関係ない情報を分離する
  同時進行は大変
  返事を期待されないテレビは理解に集中できる
  観る範囲の限定されたテレビ
  わかりやすさを追求したテレビの編集
  「似ている」の発見はむずかしい
  「まったく同じ」が橋渡しに
  「ごらんの各社の提供でお送り(します/しました)」
  「似てる」とは「とちゅうまで同じ」こと
  世の中には繰り返しも結構あるということに気がつく
  繰り返しを可能にしたレコードやテレビの存在
  「繰り返し」「パターン」の気づき方
  テレビは悪者?
  家によってちがう視聴スタイル
  チャンネル争いとは?
  「観たい」ってなんのこと?
  声優の存在から人の声のちがいを知る
  同じ声が聞こえるところに、その人がいる!
  なぜテレビを通してだと気づくことができたのか
  「人は口でしゃべる」
  メイキングから「働いている人たち」を想像する
  安心して見ている方が情報を吸収できる
  テレビの中のパターンを知り、カテゴリーの階層構造を知る
  テレビから現実の世界のパターン探し
  自力で気づく
  生きている人間の「性格設定」を知る練習
  ノベライズという架け橋
  現実はもっと複雑



青年期 - 学校生活で生き残るために


 あんな支援・こんな支援 in 中学高校 ・・・・ 榎木 たけこ


   就職してからの一年でわかったこと
   中学校での思い出
   高校での思い出
   学校での支援あれこれ
   まとめ


 大学でのサバイバルスキル ・・・・ 榎木 たけこ


   単位の取り方をマスターする - 「自閉さん的な時間割のつくり方」
   授業の選び方
   自分の居場所を確保する
   専門以外の授業を賢く履修する
   講義ノートを確保しよう!
   文系も理系も人間関係がポイント
   自己決定する力を身につける
   私の失敗 - 大学に入ることが目的ではない
   アセスメント - 自分を客観的に知ること
   周囲に自分の障害を伝えることについて
   苦手なことを代わってもらうというスキルとギブ・アンド・テイク
   障害を受け止める
   話を聞く訓練 - 耳の痛い話でも
   身勝手な非現実的自己像
   おわりに



成人期 - 就職、結婚、そして子育て


 ASD者の結婚生活 ・・・・ Rosamonde(佐々木 加奈)


   逆告白。ダンナは全然気がついていなかった
   ダンナとの恋愛生活
   自閉さん的理想な結婚式とは?
   卵焼き事件 弁当箱事件
   ゆで卵事件
   なかなか「食卓に着かない事件」
   「僕はおこたで丸くなる?!」
   自閉症スペクトラム的なダンナ」
   万能主婦をめざしたけれど
   料理の流儀は悩ましい
   主婦業あれこれ
   良き妻をめざすよりも
   体調管理のむずかしさ
   ダンナは「戦友」


 発達障害者の結婚生活、および就労支援についての提言 ・・・・ 忍


   自己紹介
   結婚生活の支援について
   金銭管理ができない
   献立がむずかしい
   生活環境の構築
   不安にさせない生活環境をつくる
   就労上の支援について
   対人関係を乗りこえるコツ
   就労について支援してほしいこと
   発達障害を生かす職場環境を望みたい


 ASDをもつ妻として、母として ・・・・ 空音


   ASD主婦の困難さ
   主婦業は大忙し
   使える福祉支援制度が少ない
   物の支援ではなく、人の支援が必要
   大阪府堺市の制度
   私への支援の始まり
   支援内容を整理して取り組む
   「ファミリー・サポート・センター」の活用
   支援を受けることに慣れる
   休息があるから頑張れる
   金銭管理を学ぶ
   近所とのつき合いや学校の行事を調整する
   支援センターを利用する
   地域でのカムアウト
   誰にカムアウトするか
   これからのこと


解説 ・・・・ 服巻 智子