27日(日)は三旗塾新第四クラスの勉強会。この日は心脈痹阻(心血瘀阻)証の翻訳を行いました。
心血瘀阻はその主要症状から読み取れるように、狭心症(あるいは軽度の心筋梗塞も含むだろうか)を包括する概念です。
さて本タイトルと今回の勉強会がどう繋がるのか?
実は数年前、ある高齢の患者さんの治療をしていた時のことです。
向かいのアパートにお住まいの方で、主訴は右腰背移行部あたりの動作時痛でした。
なぜうちに来院されたかというと、私が治療院の前の道路を掃除する姿を部屋から目にしていたから、とのこと。何気ない行動が患者さんの来院動機になるのだなぁと痛感しましたね。
物腰の柔らかなかたで、お話を伺うとひとり人暮らし。どことなく寂しげな雰囲気のかたでした。
週に1回のペースで来院してくださったのですが、必ず予約時間5分前にいらっしゃるかたで、一度も遅刻やキャンセルもしませんでした。
ところがある日、予約時間になっても一向にいらっしゃらず、どうしたものかと思っていたら20分ほど遅れて来院されました。
・・・が、玄関の扉が開いたと思ったら、顔色が真っ青、息も絶え絶えで左胸に手を当てながら苦悶の表情を浮かべているではありませんか。
その瞬間、以前治療中にお話されていたことが頭に浮かびました。
「いつも朝起きてしばらくすると胸の辺りがね・・・5分くらいかな、なんとなく圧迫される感じがするんだよ」
その時からこの患者さんは狭心症の気があるから注意が必要だと意識はしていたのですが、まさか発作を起こした状態で来院されるとは思いもしませんでした。
「水を1杯飲ませてほしい」とかすれるような声でおっしゃるので水を持ってきたものの、口に含んでも飲み込めずこぼしてしまう状態だったので、とにかく救急車を呼ぶことをお伝えしたら、
「病院だけは勘弁してください。鍼治療を受けたいんです・・・」
このように患者さんはおっしゃったのですが、この状態が私の鍼治療でどうなるものとは考えられず、何とか説得して救急車を呼ばせてもらいました。
説得している際ご家族の連絡先を伺おうとしたら、実は家族と長年連絡を取っていないことがわかりました。きっといろんな事情があったのでしょう。
救急車を待っている間、少しでも意識が途切れないように背中をさすり声をかけつつ左の脈を取ってみると殆ど触知できず、かなり危険な状態であることが伺えました。
電話をしてから10分ほどして救急車が到着し、その患者さんは無事に病院に搬送されました。
しかしその後、患者さんがその部屋に戻ることはなく、約1ヵ月後、住んでいたアパートの部屋に清掃業者が入り、部屋の物がすべて出され中が綺麗に掃除されているのを目にしました。
恐らく心筋梗塞だったと思います。
日常臨床において患者さんが訴える何気ない症状が、実は大きな病気の前兆だったりするケースが少なからずあります。
鍼灸師、というか市井の臨床家にとって最も大事なのは、病気を治すこと、あるいは進行を抑える事。
もうひとつは鍼灸などの対応範囲を超える状態の患者さんについては、きちんと医療機関を受診させられるようにするための知識を備えておくこと、ではないかと思うのです。
そのためには中医学に限らず西洋医学の知識も十分に備え持ち、それぞれのメリットを把握したうえで患者さんに対応できる臨床家を理想像として目指していかなければならない。そう強く思いました。
もう数年前の出来事でしたが、今でもその場面ははっきりと脳裏によみがえってきます。
勉強会のあとは井田先生のクラスの生徒さんと一緒に食事会。いつもの張喜さんで。
楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございます。
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