岡村靖幸を、初めて聴いた。

靖幸の大ファンである友人と、いつもは「互いのアーティスト自慢」をし合うのだが(というよりもむしろ「互いのアーティストへの自分の想い自慢」だ)靖幸の曲は一度も聴いたことがなかった。

岡村靖幸がデビューし、音楽界を席捲したと言われている年代は、丁度、角松敏生最盛期と被っている。私が角松の曲を聖書のように聴いていた頃、彼女もまた、岡村靖幸の曲をバイブルにしていたのだろう。

私が岡村靖幸を最初に明確に認識したのは、まだ「裁判傍聴」が手の届かない場所にあると大多数の国民に思われていた頃、後に訪れる裁判員裁判制度を前に、裁判を傍聴することをひたすら「趣味」としていた人々の手記が脚光を浴びる、その黎明期に出版された「霞っ子クラブ」という本の中でのこと。

ご存じの通り、岡村靖幸はクスリで三回、逮捕されている。チャゲアスのASUKAと同じクスリだ・・・というのもそもそも岡村靖幸を知らなかった私には、その本に触れて初めて知ったわけなのだが。
その、2度目の事件の時の公判の模様が本に記されていて、これが、岡村靖幸を全く知らない者にとっては、抱腹絶倒モノに超絶面白かったのだ。不謹慎と言われようが、とにかくひたすら腹を抱えて爆笑したのを記憶している。
その裁判傍聴記、霞っ子クラブのブログにそのままアップされていた

何を笑うかといえばそれは唯一点、司法権という、三権のうち最も国民にとって厳粛な存在として今なお畏怖の念を起こさせる権力を担う者たちと、ミュージシャンとこれを支えるファン、その両者の極端な温度差だ。
その温度差と言えば100℃とマイナス100℃くらいの差がある。そりゃ最早温度差じゃないな。人間、降り立つ世界が違うと、こんなにもちぐはぐになってしまうのかと痛感させられる。それがまた裁判という厳粛な場で繰り広げられるから、滑稽の極みなのだ。

で、当然のことながら傍聴席にはファンの姿が見られるのだが、被告人質問の時、ファンも泣くのだ。その姿に霞っ子クラブは「ええっマジで!?」と驚いているが、当たり前だ。ファンってそういうものだから。でも、裁判官とか弁護士とか、裁判傍聴を趣味にしている司法かぶれには理解出来ないのだろうなぁ。

で、当然のことながら友人は三度の逮捕よりずっと前からファンなので、三度の逮捕を経てもファン度に変化なし、だ。周りもそんなファンばかりなのだそう。

まぁ元々覚醒剤取締法違反の罪というのは、誰かの命や物を取ったとか、誰かを傷つけたとか破壊したという罪ではなく、特に「自己使用の罪」はあくまでも自分自身に対する加害を罰するものに過ぎない。自分自身の身体に取り返しの付かない程のダメージを与えるずっと以前に発覚、逮捕されるような場合は、まだ周囲は何のダメージも負っていない状態だ。誰に迷惑も掛けていない。発覚して初めて、周囲に取り返しの付かない大ダメージを与えることが多い。
そのような意味では死刑になるような応報刑ではなく、社会秩序維持目的も含めた「予防」「みせしめ」としての刑を与えられる。全てはその人の弱さのみが原因だから、熱烈なファンにとってはその弱さを赦すことなど容易いことなのだ・・・と、私は思っている。


その友人から昨日改めて、靖幸が11月に新曲を出すとか、昨年7年ぶりに出した曲が泣けるとか、ファンになったきっかけは高校生の時にテレビで見て、余りに気持ち悪い踊りに目が釘付けになり、その気持ち悪い踊りの虜になって以来だとか、毎度のことながら熱い靖幸トークを猛プッシュされた。

というわけで昨晩、「ニコ動で見て!」と一押しされた、昨年の新曲「ビバナミダ」を聴く。
うう。こりゃ凄い。及川光博が岡村靖幸をリスペクトしており、彼の楽曲に影響を与えているという話は前から知っていたが、影響された音楽関係者はミッチーだけじゃなく数多存在するらしい。というよりも、岡村靖幸を称する言葉が「天才」「奇才」で溢れかえっているという理由、この「ビバナミダ」を聴く(見る)ことで理解した気がする。





ついでに前から気になっていた長ったらしいタイトルの曲「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」を見る。





これは、1990年のオリジナルバージョンを、2011年にリアレンジしたバージョンの、公式ライブ映像だが・・・正直、鳥肌が立った。ここ十数年間で、角松敏生関連ではない音楽を購入したのはCOLDPLAYの「美しき生命(Viva La Vida)」と、ドラマ「SPEC」の主題歌であるTHE RICECOOKERSの「 NAMIno YUKUSAKI」の2曲だけ、という私が、思わずDLしてしまったほど。

聞き比べると2011年のリアレンジバージョンの方が断然良い。それに、この映像。岡村靖幸のライブビデオはいつも観客を映しすぎるらしいのだが、確かに全編、熱唱する岡村ちゃんのステージと盛り上がる観客席を半分ずつ映していると言っていいほど。なんというか、3度の逮捕を経て、このファンの皆さんの姿ですよ。岡村ちゃんを全身全霊、命を賭けて支えてるって感じがビンビン伝わる。

凄いな、靖幸ファン。幸せそうなファンの姿を見ていたらナミダが出てきた。