【E・第1話】プロローグ
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その女の子はボクの手を取ると、「ね、屋根裏部屋に行こう。」と言って天井まで伸びた梯子を指差した。
梯子が伸びた先は真四角い穴が開いていて、確かにその上にはちょっとした部屋がありそうに見えた。
「屋根裏部屋」なんて、外国の絵本に出てくるだけで、実際にそんなものがある家なんて見たことがなかったから、ボクはその言葉を聞いてワクワクした。
女の子の後ろについて梯子を昇ると、屋根裏部屋は天井が低くて少し埃の匂いがした。でも、真ん中にある小さな窓から差し込む陽の光のせいでちっとも暗くはなかった。
薄暗くて鼠が這いまわり、オバケでも出て来そうな雰囲気を期待していたボクは少しがっかりした。
部屋の中には、沢山の荷物が置かれていて、小さかったボクには宝の山に見えた。
女の子が荷物をどけて、小さなおもちゃのピアノと古いギターを引っ張り出した。
「これ、パパが私にくれたの。」
女の子はピアノの蓋を開け、小さな指でぽんぽんと鍵盤を叩いた。
キーンと乾いたピアノの音色が鳴り響いて、その度に女の子は嬉しそうにくすくすと笑った。
次にその子は古いギターをボクに見せると、ぼろろん…と弦をゆっくり弾いた。
生まれて初めて聞いたギターの音に、ボクは胸の奥がぎゅーっと絞られるみたいな感じがした。
「ねえ、ちょっと、ボクにもやらせて。」
ボクはギターを膝の上に乗せると、弦をめちゃくちゃに鳴らした。
すると、女の子はけたけたと笑い転げた。
ボクはその子があんなに笑うのが嬉しくって、どんどんギターを鳴らした。
女の子はその度に笑い、今度は一緒に弦をじゃかじゃか鳴らしてふたりで笑い転げた。
そうやってひとしきり遊んだ後に、その子はこう言った。
「ギターはママが私にくれたんだよ。」
そう言うとその子は、6本並んだ右端の、いちばん細い弦を指でそっとつま弾いた。
プーンと高い音が、狭い屋根裏部屋に響き渡った。
何度も何度も同じ弦を弾きながら、女の子は
「この音はね、ママの音。」
そう言って、指で瞼を何度も擦っていた。
あ、泣いてるのかな。ボクはその時そう思った。
ボクは彼女を笑わせてあげたくて、一番太い弦をばーんと弾いてこう言った。
「じゃあ、これは?お父さん?それとも、オバケかなあ?」
おどけた僕の言葉に、女の子はくすり、と笑った。
ボクはその笑顔に安心して、また弦をめちゃくちゃに鳴らした。
女の子はちょっと涙がにじんだ表情でまた、けたけたと笑い始めた。
その時、梯子の下から女の子を呼ぶ声がした。
「楓(かえで)~。また屋根裏で遊んでるのかい?はやく降りて来なさい。おやつにするよ。」
声の主は、女の子のおばあちゃんだった。
ボクたちはあわてて梯子を降り、居間へ駆けこんだ。テーブルの上の皿からは、甘いホットケーキのにおいがした。
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