【第34話】驚愕②
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「ヨーコ、それって…どういう意味?」
リョーコは彼女の言っている言葉が理解できずにいた。
「私は生きていられないかもしれない」
理解できないというより、リョーコの頭がそれを拒絶してしまっているようだった。
「この子がお腹にいるってわかった時には、つわりがひどくてね。
その前からずっと胃の調子が悪かったんだけど、妊娠がわかってからは何も食べられなくなったし、食べても戻してばかりいたの。ある日吐いたものの中に血が混ざっていたから、びっくりして病院で調べてもらったの。そしたら…」
ヨーコはワインのコルクを指先で弄りながら、リョーコの目をじっと見た。
「胃癌だって…。」
リョーコは信じられなかった。
「妊娠中に癌?そんなことってあるの?」
「私も最初は信じられなかったわ。何かの間違いだろう、って。
でも、まれにあるらしいの。先生が言うには10万人に7人くらいの割合だって言ってたわ。」
「じゃあ、手術は?治療とかはどうしてるの?薬は?」
「そんなこと、できるわけないじゃない。お腹に赤ちゃんがいるのよ。」
「何言ってるのよ!あなたが死んじゃったら何もならないじゃない。残念だけど、赤ちゃんはあきらめて…」
「そんなの、嫌よ」。
ヨーコはピシャリと言った。
「妊娠中の胃癌はね、進行が早いんだって。それに…もう肝臓に転移してるかもしれないって言われた。
先生の話じゃ、今手術や放射線治療しても、1年後に生きている保証はないって言われたわ。
だったら、私、死んでもいいからこの子を産みたいのよ」
「リオは?リオはどう思ってるの?あなた、ヨーコが死んじゃってもいいの?」
リオは、黙ってふたりの話を聞いていたが、リョーコの目をまっすぐ見つめて言った。
「ボクは、ヨーコの好きなようにさせてあげたい。」
「何言ってんのよ。死んじゃうかもしれないのよ。子供はまた元気になったら作ればいいじゃないの」
「ボクも最初は反対したよ。ヨーコにはおばあさんになるまで生きてて欲しいから。
無理矢理病院に連れて行こうとしたけど、ダメだった。
それで、何日もかけて、ふたりで話し合ったんだ。
ボクたちは、その何日かの間で一生分くらいの話をしたよ。それで、決めたんだ。
…もしもヨーコがいなくなっても、ボクがパパになってちゃんと育ててあげるって約束したんだよ」
リョーコは体が震えていた。
「あたしは…あたしはそんなの嫌よ!ヨーコが死んじゃうなんて、そんなの…」
リョーコはその場に泣き崩れてしまった。
ヨーコはそっとリョーコの傍に座り込むと、ごめんね、と言って震える彼女の体をそっと抱きしめた。
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