3.隣のスーパーレディ
バスが止まり、ドアが開いた。
降りる者も、乗る者もいない。
なぜ、ここで、止めた ?
さっきから、運転手がマイクで何やら。
めっちゃ早口、ぼくの英語力で理解不能。
周囲の視線につられ、最後部を見た。
何やら盛り上がりまくる黒人男3人組。
プロレスラーか何か ?
全員、身長2m体重100kgはありそう。
問題は、彼らが飲んでるコーラのよう。
ロサンゼルス地区のバスは飲食禁止。
運転手はコーラを捨てろと言ってる。
それで、外にゴミ箱のある場所で停車を。
3人は、口々に何やら怒鳴ってる。
「 ここは、自由の国だ !」
などといってるヤツも。
運転手も負けずに、
「 バスは、カフェテリアではない !」
などと、マイクで怒鳴り返す。
コーラを捨てるまでバスを動かさない?
だいじょうぶ ?
運転手は、白人の小柄な中年男。
なぜコーラぐらいでそこまで頑張る ?
こんな連中を怒らすと、マズイのでは ?
あんな暴動があったばかりなのに。
( 暴動については、下記・補足2参照 )
突然、隣のデミ・ムーア似が叫んだ。
どうも、運転手に味方、彼らに抗議?
スゴイと思う反面、隣、気が気でない。
ニュースで見た数々の場面が浮かんだ。
黒人が白人の頭を壁にぶつける場面とか。
が、前の黒人婆さんまでが叫び始めた。
他の乗客もそれに呼応し、口々に。
たぶん日本語なら「そうだそうだ」?
殴り合いにでもなれば凄絶なことに。
乗客全員が束になるも彼らにかなうまい。
ヤバイことにならなければいいが !
が、男たちは、開いたドアのところへ。
「 ガッデム !」
と吠えコーラを外のゴミ箱に捨てた。
「 おまえたち自身もゴミ箱に捨てろ !」
運転手がマイクで叫んだ。
オイオイ、それはさすがに言い過ぎ。
逆切れしたらどうするんだよ !?
突然、男たちが、銃を取り出し乱射。
なんてことにでもなったら。
自由の国ならぬ「銃の国」アメリカ 。
が、事態は、意外な展開に。
男の一人が運転手に向かい何か大声で。
するといっせいに乗客の明るい笑い声。
どういうこと ?
「プレジデント」がどうとか言ったが。
ぼくのリスニング力では聞き取れず。
バスは何事もなかったように走り出す。
ま、とにかく犠牲者が出なくてよかった。
が、男が何を言ったか気になりモヤモヤ。
勇気を出し隣のスーパーレディに質問。
「 すいません、私は英語が下手です。
なぜなら、普通の日本人なので。
あの男は私にはあまりに速く話した。
彼が何を言ったか教えてくれませんか?」
彼女は、ファンタスティックな笑顔を。
ベリースローリー英語で教えてくれた。
あの男は運転手に、こう言ったそうだ。
「 次の大統領選挙に立候補しろよ。
俺は、おまえに、投票するぜ。」
( 完 )
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< 補足1 > ロサンゼルスバス その2
ロサンゼルスのバスには、車椅子の人が一人で乗れる装備がついてる。
ぼくの地元、広島にも、 「 バリアフリー・ノンステップバス 」 ならある。が、ぼくは、車椅子の人が、それに乗るのを見たことがない。さらに、日本全県旅したが、路線バスに車椅子の人が乗るのを見たことがない。
が、ロサンゼルスでは、一週間に、三度も車椅子の人が路線バスに。三人とも、介助の人はおらず、バスに乗るのに、単独行動なのにも驚いた。
ドアの所に、電動で、頑丈そうなリフトが出、人が車椅子に乗った状態のまま持ち上げ中へ。バス内では、入り口付近の人が、車椅子をすばやく専用スペースに固定。明らかに、初めて感はなく、実に手慣れてる。
車椅子の人、固定を助けた人、共に笑顔で、「 Hi !」 とあいさつ。日本なら、「お手伝いしましょうか」「すいません、ありがとうございます」とかのやりとりが目に浮かぶ場面だが。すべてが実にすばやく行われ、他の乗客も、いつものことといった感じ。
マジ、カッコイイぜ !
行く前より、アメリカが、好きになった。
<補足2> 「 ロサンゼルス暴動 」について
この初めてのアメリカ旅行は、「 ロサンゼルス暴動 」 があった1992年。
ロサンゼルス暴動は1992年4月29日にロサンゼルスで発生した。死者50名に及び、警察隊だけでなく軍隊まで出動、3日後ようやく鎮静化した。
きっかけは、白人警察官たちがスピード違反で逃げ回った黒人犯を逮捕。その際、抵抗できない状態の犯人に、殴る蹴るの暴行をしたとの告発が。暴行場面を、ビデオ撮影した人がおり、その映像がテレビで放映され問題化。
その黒人犯は、白人警察官たちを訴え、裁判になったが、警察官たちは無罪に。黒人たちは、ビデオという明白な証拠がありながら無罪になった事に激怒。無罪は白人陪審員たちの不当な人種差別であるとして抗議行動を展開。
その抗議行動の際、一部黒人たちが暴徒化。白人通行人への集団暴行、商店襲撃、略奪、放火等が行われたと報道された。白人商店だけでなく、在米コリアン商店もターゲットにされ、事態は複雑化。暴徒の襲撃に対し、一部白人・在米コリアンは報復行動を展開、大暴動に。
日本のテレビでは、暴動時の衝撃シーンが繰り返し、繰り返し、放送された。一番多く放送されたのは、黒人たちが集団で一人の白人の頭を壁にたたきつける場面。次に、在米コリアングループと黒人たちの真昼の銃撃戦。どの放送局でも、全く同じ映像が用いられ、今思えば、明らかに偏った報道だったが。
何れにせよ、アメリカへ出発の際、テレビで見た衝撃シーンが、頭に焼き付いた状態での出発だったが、実際行ってみると、街中で黒人と白人のカップルが、あちこちで抱き合ってたりして、あの数々の映像は何だったんだ、といった感じだった。
が、ロサンゼルスに宿泊した1週間、夜は、毎日、ヘリコプターの音がうるさかった。聞いてみると、強力サーチライトと機関銃を装備、治安維持で飛んでいるのだと。パトカーだと、襲撃される危険があるということらしい。念のため、治安が良いと評判の地域に宿泊したが、夜、銃声としか思えない音も聞こえた。
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