常在戦場と相続分の譲渡の話
運命をかけた決戦については、前哨戦、場外戦、小競合い、騙しあいなど、決戦に至るまでに、少しでも自分たちが優位な立場に立つために、さまざまな駆け引きが行われることが珍しくありません
幼い子供に、亡くなったお父さんの造った京都のお寺を再建したらと持ちかけて、散財させる。
練習試合で、相手チームの有力選手にタックルをして負傷させて、戦力を削ぐ
事前に実力の違いを見せつけることにより、本番前に、相手方の戦意を喪失させる
甲子園予選を見越して、春季大会では、ライバルチームに手の内を見せない
相手チームには、クーラーや風呂、エレベーターのない宿泊施設や、環境最悪の練習環境しか提供しない
屋内で、何故かいつも自分たちのチームだけ追い風
亀田志郎VSやくみつる
実は、弁護士業界においても、裁判外での駆け引きや場外戦が繰り広げられることは、決して珍しくはありません。
以前所属した事務所での話になります。
地方の法律事務所においては、訴訟に提出する証拠の分量が多いとき(ファックスで送ることがためらわれるくらい)、郵送ではなく相手方代理人の弁護士事務所に直接書類を持参するということはよくあることかと思います
当時、私は若手弁護士3名で運営する事務所に所属しており、同じくらいの年齢の弁護士が2名で運営している事務所が相手方代理人をしている裁判がありました。
私は、証拠の分量が多かったので、裁判所に出かける事務員に頼んで、相手方代理人の事務所に、資料を持参してもらいました。
外回りを終え、その事務員が事務所に戻ってきました。
しかし、事務所に戻って来た事務員は、もはや、外出前の事務員ではありませんでした。
表情は暗く、よく聞こえなかったのですが、何か「ダ・・」とぶつぶつつぶやいていました。
明らかにメンタルがやられてしまっている状態でした。
特に人を癒す力はないですが、卓越した好奇心を有する中間管理職として、その事務員に何があったのか尋ねてみました。
我に返った事務員は「なんでもないです。」と、なかなか、本当のことを話してくれませでした。
それでも、持ち前の好奇心をいかんなく発揮して問い詰めたところ、観念して、申し訳なさそうに、
「ダイソン。先生、実は、あそこの事務所の掃除機、ダイソンだったんです・・・」
と言いました。
ダイソーで買い溜めした3色ボールペンをもつ僕の右手は、震えが止まりませんでした。とてつもない衝撃です。
(勝手に)自分たちと同じくらいのレベルの法律事務所だと思っていたのに、(勝手に)事務所間の経済格差を見せつけられたのです。
してやられてしまいました。
まんまと、相手方事務所の術中にはまってしまったのです
敢えて見えるところに置かれたダイソンの掃除機により、うちの事務員は、(勝手に)事務所の経済格差を見せつけられ、メンタルを潰され、マウントポジションを取られてしまったのです。
うかつでした。
常在戦場。
弁護士同士の闘いの場所は、法廷だけとは限らない。
私には、その意識が欠けていたため、場外戦で、(勝手に)マウントポジションを取られてしまいました。
せめて、防衛措置として、三越か何かの紙袋に書類を入れて持っていかせるべきでした。
その事務員には、申し訳ないことをしました。
もう数年が経過しましたが、未だに後悔の念に苛まれています。
大阪の鶴橋では、ブランド品のバックが本物とは思えないくらい格安で売られているようなので、前の事務所に贖罪寄贈しようかなと思います。
レッツリベンジ。他の事務所に書類を持参するときに使用して、次こそは、マウントポジションを確保してもらえればなと思います。
さて、相続の話になります
「相続分の譲渡」と言う言葉がありますが、聴いたことが無い人が圧倒的に多いのではないでしょうか。
「相続分の譲渡」というのは、相続人としての地位を譲渡することを言います。
例えば、3人兄弟A,B,Cの内、Cが相続分をDさんに譲渡したとなると、相続分は、Aが1/3、Bが1/3、Dが1/3ということになります。
ここで大切なことは、相続分の譲渡をしても、譲渡人は、債権者から相続分に応じた借金を返せと言われれば、拒否することはできません。借金を支払った場合、譲渡人は、譲受人に対して、払った分返してと請求することになるでしょう。
完全に借金から逃れたい場合には、家庭裁判所で相続放棄の手続きをとる必要があります。
では、相続分の譲渡とは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
税のことは詳しくわかりませんが、相続税の控除に関してメリットがありそうな気がしますね
次に、借金もないし、相続放棄するまでもないけど、遺産に関する争いに巻き込まれたくはない言う場合に、自分の持分を他の兄弟にあげることで紛争に巻き込まれないようにすることができます。もし、相続放棄の期間も過ぎてしまっていて、遺産争いに巻き込まれたくないのであれば、相続分の譲渡と言う手段は極めて有効かと思います(受け取ってくれる人がいるなら)。
私も、成年後見人が被相続人の遺産を使い込んでいた事件や、遺産分割事件等において、相続分の譲渡により、当事者を減らした上で、裁判手続きをしたことがあります。
但し、相続分の譲渡を受ける場合には、譲渡人に対して、被相続人の遺産の範囲(借金も含めて)をしっかりと説明しておく必要があると思います。
TEL078-252-1667
FAX078-252-1680
八百万の神様と婚前契約書の話
近年、ネットニュースなどを見ていると
ちょっとしたことで直ぐに「神対応」
その連続ドラマの中で盛り上がる放映分を「神回」
少しヒットしただけで「神曲」
調子のいい広島の選手「神ってる」
本当に、神様のバーゲンセールかというくらい、「神」と言う言葉があふれています。
神様と言う言葉もインフレで価値が下がっているのではないか
正直、何でもかんでも「神」という言葉を使うマスコミにあきれていました。
しかし、良く考えてみると、古来より、日本では、神道が重んじられてきたはずです
森にも、川にも、至る所に神様がいらっしゃる、八百万の神様、それが日本の文化だったのではないか。
トイレにも、とても別嬪さんの女神様がいる、それが日本だったはず
トイレにも神様がいるのであれば、裁判所にも神様がいるはずです
おそらく、清い心の持ち主には見えるという法廷の入り口前の賽銭箱に、事件番号と、原告か被告かを書いたお札を奉納すれば、良い結果が期待できるのでしょう。
とりあえず、いろいろ旗色の悪い事件もあるけれど、裁判官の(私に対しての)神判決を期待するや切である。
さて、次は、婚前契約書に関する話になります
近年、婚前契約書という言葉をよく見かけるようになっています
芸能人でも、婚前契約書を作成していたとか、いないとかニュースになったりもしていました。
ここで、婚前契約書というのは、結婚をする当事者が、結婚前に、結婚後の家計の負担割合、特有財産の確認、禁止事項、離婚した場合の慰謝料、財産分与の方法などに関する合意内容を記載した契約書と言うことになると思います
どうして、「婚前」なのかというと、結婚後に作成した契約書は、夫婦関係が破綻するまでの間であればいつでも取消可能だからだと言われています。すなわち、「婚前」に契約する意味は、取消不可にするためといえるでしょう。
では、この婚前契約書を作成すれば、全て、この契約書に拘束されるのでしょうか、婚前契約書の効力が問題になります。
結論から言えば、当然に婚前契約書記載の条項に拘束されるというわけではなく、各条項別に有効か無効かを検討する必要があります。
例えばですが、一般的な家庭において、「浮気したら慰謝料1億円支払う」という婚前契約書があったとして、その契約書を根拠に慰謝料1億円よこせという裁判を提起しても、おそらく裁判所は、婚前契約書の条項を無効であると判断するでしょう(一般的に認められる程度の慰謝料しかもらえないと思います)。
また、「母親は父親に対して、一切養育費を請求しないこととする」というような婚前契約書があったとしても、公序良俗に反するので、効力が認められないでしょう。
また、お金さえ払えば、自由に離婚できるというような条項を設けていたとしても、そのような条項は無効であると判断されることになるでしょう。
現時点で、私は、未だ裁判例の積み重ねがないため(私が探し切れていないだけかもしれませんが)、婚前契約書に記載すれば有効と思われる条項と、記載しても特に意味がない条項の判断は難しいと思います。
仮に婚前契約書を作成する場合には、例えば、協議離婚の場合を想定した条項なのか、裁判手続きを踏んだ離婚を想定した場合の条項かなど、細部まで配慮した条項を設ける必要があるものと思われます(それでも、裁判例の集積がないため、当事者の予測していない状態が存在すると思います)。
もちろん、婚前契約書に全く意味がないとは思いません。
例えば、婚前契約書で、婚姻前の特有財産について合意した書面を作成することにより、共有財産に関する争いを防止することが期待できます。
法律的効果は別にして、当事者間で決めたことだから、その通りに解決しなければならないという心理的効果があるかもしれないですし、浮気をするとこれだけの慰謝料を請求されるかもしれないという心理的プレッシャーを与えることができるかもしれません。
ただ、注意が必要なのは、婚前契約書というものが、絶対的な効果があるのだという過信は厳禁であるということです。
負けず嫌いと相続の話
どうも長女は負けず嫌いのようです
ジャンケンでも負けるのが嫌なようです。
よく後出しをします。
友達とかけっこをして、明らかに自分の方が遅いのに、「二人とも一番」と言い張っています。
負けず嫌いなところを見ていると、自分とよく似ているなと思うことがあります。
私も子どもの頃は負けず嫌いな子供でした
とにかく諦めが悪く、友達からは、「逆転の西山」「最後まであきらめない男西山」「諦めの悪い男西山」と恐れられたものです。
ところで、皆さんは、「はないちもんめ」という遊びをご存知でしょうか
私も子どもの頃、夢中になって、遊んでいたと思います。
「勝ってうれしい、うれしいはないちもんめ。負けて悔しいはないちもんめ。・・・相談しようそうしよう」というやつですね。
お互い、「あの子が欲しい」と言って、相手チームから自分のチームに勧誘したいメンバーを一人選んで、選ばれた者同士がジャンケンをする。
ジャンケンで勝てば、ジャンケンに負けた相手チームのメンバーを自分のチームに加えることができる。
そして、相手チームが誰もいなくなれば勝負終了というルールだったと思います。
私は、チームのリーサルウェポンとして、最後にジャンケンをすることが多かったような気がします。
責任重大です。
自分がジャンケンで負ける=チームの敗北を意味します。
まあ、チームの大将のようなものだと思います。
プレッシャーに押しつぶされそうになり、諦めてしまいそうになることも多々あったと思います。
そんなときは、やっぱりあれですよね。
スラムダンクの名言
「希望を捨ててはいけない。諦めたらそこで試合終了だよ。」
胸に響く言葉です。
諦めの悪い男西山として、最後まで、逆転を信じて、戦い抜いた記憶があります。
もし、安西先生がいたら、私は、安西先生にこう訴えかけたと思います
安西先生・・・もっと早く名前を呼んでほしいんです・・・
さて、相続の話です
長年にわたり、相続の問題が解決しないという話を聞きます。
何十年にも渡り、相続の問題が解決していないという話を聞くこともあります。
私も、数十年相続問題を放置してきたため、当事者間では協議できない事案をお受けしたことが何度もあります。
もちろん、相続問題は、弁護士を頼んでも数年かかることは珍しくないでしょう。
しかし、何十年もかかっているというのは、弁護士に相談することなく、当事者間だけで解決しようとして行き詰ってしまったケースがほとんどだと思います。
もし、弁護士に相談していれば、もっと早く解決できた、と言う事案ばかりだと思います。
また、時間の経過により、より解決が困難になっているケースも珍しくありません。
実際に、数十年放置されたケースでも、依頼を受けてから1年ほどで解決できたこともあります(もちろん、数年かかったものもありますが)。
弁護士に相談をすれば、依頼人の希望や、現在の状況を聞き、当事者間での交渉で進展が図れるのか、もうこれ以上は意味がないので、裁判所を利用すべきなのかを的確に見極めてくれると思います。
相続問題は、経済的な損得だけで判断できないということも多々ありますが、何の進展もない状態で時間を費やすことは決していいことではありません。
相続問題が生じたときは、とりあえず、早めに、弁護士に相談してみて下さい。
弁護士 西山 良紀