よるくま/酒井 駒子(偕成社)
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「夜」って、それだけでフシギな、

未知の世界のようなイメージがありますね。


一日の終わりを告げるはずの「夜」だけど、

「朝」や「昼」とはちがう顔をもっている。

なにかが起こりそうな予感。


ピーターパンがウェンディーのところにやってきたのも、夜。

シンデレラがお姫様になれるのも、夜。


夜をテーマに描いた作品は、たくさんあります。



「よるくま」は、子どもたちも大好きな絵本ですが、

大人にとっては、また別の視点から、好きになるポイントがたくさんある作品です。



夜、「ぼく」のところに、

「よるくま」がやってきます。


夜みたいに真っ黒だから、「よるくま」。

このネーミングのかわいらしさと、酒井駒子さんの描く、よるくまちゃんのキュートな表情はたまりません。


夜中に目が覚めたら、おかあさんがいなかったという、よるくまのために、

「ぼく」は、いっしょにさがしにでかけます。


二人でギュッと手をつないで、

公園に行ったり、お店に行ったり、

「もう帰っているかも」と、よるくまの家に戻ってみたり。


でも、どこにもいないんです。


とうとう泣き出した、よるくまちゃん。



そんなとき、流れ星が!!

二人がつかんだお星様は、じつは、よるくまちゃんのおかあさんが釣っていた、釣り糸でした!



「おかあさん おかあさん どこいってたの?」


「ごめん ごめん。おかあさん おさかなつって おしごとしてたの。


ほら ごらん こんなにつれた。 あしたのあさ たべようねえ」



ああ、よかったね、よるくまちゃん。

「ぼく」も、にっこり。



「のこりの さかなは おさかなやさんに うりましょう。


そのおかねで なにかおうか、おまえに じてんしゃ かってあげようか」


よるくまちゃんのおかあさんは、よるくまと「ぼく」を、軽々とだっことおんぶしながら、

もちろん、釣った魚と釣竿もひょいと持って、軽快な足取りで家路を急ぎます。





私は、よるくまちゃんのおかあさんの、この大らかさと温かさが大好きです。


おかあさんに出会うまでの、ちょっと不安な気持ちが、

いっきに吹き飛ぶような爽快感。


私自身も、わが子を0歳児のころから保育園に預けて働いた、

ワーキングマザーですが、

働く母はこうでなくちゃ!!!と思わせられます(笑)。



子どもが不安に思ったり、ときに、さびしい思いをさせることもあるかもしれない。


でも、そんな気持ちを忘れさせてくれるほど、


あふれるような愛情と、おひさまのような笑顔がある。


何より、人生を楽しく生きていこう!という、パワーに満ちているのがすばらしい!




この本では、もう一人、重要な登場人物がいるんです。

「ぼく」のおかあさん。



夜、ベッドのなかで

「ねえ ママ、きのうのよるね、うんとよなかに、かわいいこが きたんだよ」と

話しかける「ぼく」に対して、



「なに言ってるの!早く寝なさいっ」

なんてことは言わず、


「あらそう。ママしらなかった。どんなこが きたのかな?

おとこのこかしら おんなのこ かな」


と、「ぼく」の話にきちんと向き合い、


この二人の会話をベースに、絵本が進行していきます。



さいごの「お や す み」は、「ぼく」のおかあさんの声と


よるくまのおかあさんの声が重なって・・・


もう、「ぼく」とよるくまは、スヤスヤと夢の中へ。


そして、読んでいる私も、それを聞いていた子どもも、スヤスヤと夢の中へ・・・。



素敵な夜のファンタジー作品。


ちょっと疲れた一日の終わりに、


なんだか眠れないなーという夜に、


いかがでしょうか。