いつもお世話になっている『リク魔人の妄想宝物庫 』さんからお預かりした罠です。
1.5周年のお祝いと、頂いていたリクエストが上手くこなせないお詫びを兼ねてのドボンです。
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画面に映るのは、青い海と白い砂浜。
左に滑る様にカメラが動くと、夏らしいネイルを施した爪が写りこむ。
白い砂浜の上に敷かれた、ブルーのマットの上に寝そべっている女性。
するするとカメラが動くと、滑らかな肌が画面いっぱいに映し出される。
華奢な踝に、ほっそりとした脹脛。
そこから続く太腿も、健康的で魅惑的だ。
小さめの水着はエスニック柄で、彼女の体を申し訳程度に隠している。
さらに上に動くと、薄いお腹を舐めた後さらに上へと昇ってゆくカメラ。
フロントの部分がねじれたデザインのそれ。
日頃小さい小さいと、気にしているそれは下胸が零れている。
浮き出た鎖骨に零れる髪は、自然な黒髪で太陽を弾く肌とのコントラストも鮮やかだ。
小さな顔は暑さの為か、とろんっと溶け気味だ。
ちょっとだけほどけていた唇が、動いて…
『暑かったね…。よ~く、冷えてるよ?』
するっと差し延ばされた腕。
まるで画面の向こうから、抱きしめてくれようとしているようだ。
食い入るように見つめていていた男は、ふらふらとテレビに誘われる様に一歩踏み出した。
すると無情にも、悩殺的なポーズを決めていた彼女の姿は掻き消えた。
代わりに
『ソルトジェルマット、新発売。寝苦しい夜もこれで安心。ご購入いただいた方の中から抽選で、【冷やし京子】プレゼントキャンペーン中』
その文字に、男はふらふらと携帯電話を取り無表情でネットにつなぐと、【在庫僅か】という表示になっていた快眠グッズを大量購入したのだった。
届いたそれは、ジェル状のベッドマットだった。
冷蔵庫に入れて冷やし、寝る時に敷くと暑さから逃れられるというアイテムの様だった。
「なるほどね…」
説明書を見、段ボール一杯のそれを部屋の隅に投げる。
必要なのは、【応募券】なのだ。
CM上では良く分からなかったが、購入すると【ひんやりグッズ詰め合わせ】に応募できるらしい。
イメージモデルを勤めるキョーコが、モチーフになった…。
グッズそのものは、シルエットになっていてどんな仕様になっているかはわからない。
が、あのCMのように…。
男を釘付にする様な、そんなあられもない姿の彼女が他所の男の手に渡るなんて…
恋するただの男、蓮は我慢ならなかったのだ。
「ほんっと、綺麗になったよな…」
ワイドショーでもたびたび取り上げられるCM。
それを見るたび、社がそう感嘆の声を上げる。
嬉しいけれど、腹立たしくもあるその声。
苛立つ蓮に気付いているのか、いないのか…。
「誘惑されちゃうよなぁ~」
社のその言葉は、このCMを見た男すべての言葉だろう。
肌も綺麗で、スタイルもモデルの様だ。
年を重ねて、滲むようになった色香。
(…今までガードしてたのに…)
馬の骨を排除して、害虫を駆除して。
せっせせっせと、大切に育ててきたのに…。
出来れば独り占めにしていたかった、キョーコの愛らしく蠱惑的な姿。
こんなに簡単に、世間に広まってしまうのが悔しく苛立ちを覚えてしまう。
「蓮、何度も言うがな。そう言う嫉妬は、告白して恋人になってから、言う権利があるんだぞ?」
冷静の社のツッコミも、蓮の耳を素通りしてゆく。
物語は、まだ序章に過ぎなかったのだ。
今までのイメージを覆す様な、キョーコのCM。
評判は上々で、グラビアの仕事もちらほら舞い込んでいるらしい。
あまり大きくなかったその会社も、CMの評判と共に業績を伸ばしているようだ。
「あ、最上さん」
テレビ局の廊下を歩いていると、良く見慣れた人影がこちらに向かって歩いてきた。
シンプルなワンピースに、流行りのサンダル。
手にしている籠バックは、親友である琴南さんと一緒に選んだのだと、可愛らしい笑顔で教えてくれた。
何時もは元気よく、跳ねるように歩いているのに…。
(元気がない…?)
何処か迷っているような、しょぼくれた様な…。
蓮に気付かないのか、顔を廊下に落としたまま蓮の直ぐ傍にやってきたのだ。
「こんにちは、御嬢さん」
はぁっと、ため息をついたキョーコ。
そのため息がかかる位近くに立ち、項垂れている旋毛に向かってそう挨拶を落とす。
そこで初めて蓮の存在に気付いたのか
「敦賀さん!! こんにちは!!」
床を見つめていた視線は、上を向き。
蓮の顔を捉えると、弾ける様な笑顔を見せてくれた。
(気のせい…? だったのかな?)
元気がなさそうに見えたが、思い違いだったのか? と思ってしまうほど、元気な笑顔だった。
「最上さんもこの局だったんだね」
「はい!! ちょうど撮影も終わって、これから帰るところだったんです」
「そっか。じゃぁ俺と一緒だ。送るよ」
「えっ!? でも…。社さんはまだ用事を足されてる最中ですよね?」
いつも一緒にいるマネージャーの姿が見えないので、キョーコはそう思ったらしい。
「いや。今日は一緒じゃないんだ。社さん、また風邪ひいて…休んでるんだ」
「えっ!? 大丈夫なんですか?」
さり気無くキョーコの腰を攫い、蓮の進行方向である地下駐車場の方へ歩き出す。
「咳が酷くて声が出なくて…。周りにうつしても大変だから、大事を取って休んでもらってるんだ」
「そうだったんですか…。何かお手伝いできること、有りますか?」
キョーコの言葉に、
「今度聞いてみるよ。喉以外は元気みたいだから、案外平気かもよ?」
などと冷たいことを言ってしまったのは、恋する男の狭量さだ。
「そんな事より、何か悩み事?」
先ほどの元気がなかった姿が気になり、そう水を向ける。
「っあ…」
すると、また地面を見つめてしまう瞳。
蓮の見間違いではなかったようだ。
「俺でよければ、相談に乗るよ?」
「でも…」
「今日はこれで仕事終わりなんだ。今日一日、あんまり食べられなくて…」
その一言に、キョーコの視線がきつく蓮に刺さる。
「相談を乗る代わりに…、って言っては何だけど…。ご飯を食べさせてくれると嬉しいんだ」
「もう!! 体が資本なのに!! 駄目じゃないですか!!」
ぷりぷりと怒り出したキョーコ。
蓮の家に来ることは決定で、キョーコの悩みを聞くこともできるだろう。
ひっそりと嫉妬心を飼う男は、心の内側でにんまりと笑ったのだった。
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コメディ路線で、いきたいです。
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