『「リク魔人」の妄想宝物庫
』のseiさんよりお預かりした、罠お題です。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。
魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~
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夏に向かうわずかな間、蓮は濃密な時間をキョーコと重ねた。
細やかに心を砕き、繊細に愛を囁いた。
その情熱がキョーコの心を癒して、益々キョーコを磨き上げていった。
「………ごめんなさい…」
「……………」
広々とした蓮の家のリビングのど真ん中で、キョーコはしょんぼりと肩を落としていた。
その目の前に置かれた小さな箱には、珍しいブルーローズのブリザードフラワーが詰まっていた。
「どうしても、断れなかったんです…」
磨き上げられてゆくキョーコ。
それに吸い寄せられる羽虫は、後を絶たない。
彼女への贈り物も、事務所に沢山届くようになったし、共演者たちからのプレゼント攻撃も一向に減らない。
断れる限り受け取ったりはしないし、ファンから贈られてきた物は事務所で配ったりして持ち帰ってくるようなことはだいぶ減ったのだけれど。
それでも、どうしても断れない相手もいるのだ。
「………わかってる。あんな大御所からの贈り物、断れるわけがない」
映画界で頂点に立つその男性は、女性好きでも有名だった。
新人をつまみ食いするのも有名で、みんな適度な距離を保っている。
「ごめんなさい…」
小さい小箱を持ち上げて、テーブルの上に放り投げるとキョーコの前に跪いた。
「君が魅力的なのが、全部悪い…」
咲き誇るのは、嬉しい。
芸能界で知名度を上げていく恋人の存在も、誇らしい。
けれど、恋人としては中々複雑だ。
今何とかこらえていられるのも、もう少ししたら『婚約』を世間に公表できるから。
そうすれば、集る羽虫は激減するだろうし、蓮も安心を得ることが出来る。
「……私は、何も変わってませんよ?」
相変わらず自分の変化に無頓着なキョーコは、小首をかしげた。
その額に唇を落として、
「綺麗になったよ。みんなが目を離せなくなるくらいに…」
「そ、そうですか…?」
赤くなるのはキスにか、褒められたからか。
「それより、どっちにするか決めてくれた?」
蓮が用意したパンフレットは、キョーコの趣味に合わせて欧米が中心だ。
観光客の多い、メジャーな国は避けて。
ゆっくりのんびりできるところをチョイスした。
チューリップの国や、クリスマスの国。
少し離れるが、砂漠の国に、迷路の古都を持つ国。
ガイドブックも入手して、ああでもないこうでもないと二人で頭をくっつけて考えた。
その中で、チューリップの国と砂漠の国が残ったのだ。
「…砂漠を、見て見たいです…」
キョーコがそこを選んだのは、以外だった。
てっきり、クリスマスの国や白亜の城を持つ国を選ぶと思っていたからだ。
「…じゃぁ、そこにしよう。ピラミッドも見て、時間が合えばモロッコも回ってみよう?」
テーブルの上に投げて立ったガイドブックを引き寄せて、夕日が沈んでゆく砂漠の写真のページを広げた。
そこはキョーコが何度も開いていたせいで、開き癖がついている。
二人でそれを見つめていたら、キョーコが言った。
「はい…。砂漠で、星空が見たいんです」
「流れ星でも見たい? 願い事でもするの?」
蓮の問いかけに、こくんっと可愛くうなずいたキョーコ。
「何を、ねがうの?」
「………内緒、です…」
もっと可愛らしく、返事を返してきたキョーコ。
可愛くてかわいくて、食べてしまいたくなるが…。
二人とも明日の朝は早い。
ぐっと我慢して、頬を味わうにとどめた。
「行き先が決まったら、社長にも報告しないとね」
ローリィには交際をしてあることも言ってあるし、婚約発表をすることも言ってある。
旅行に出発するその日に、マスコミに伝え帰国後に会見を開く予定だ。
「はい…」
長く時間をかけて、解きほぐしていったお蔭で『私なんか』とか『私みたいなのに』という、卑屈な事は言わなくなった。
愛されることに、少しずつ慣れて言った結果だろう。
「ゆっくりと旅行の計画を、立てよう」
「はい…」
旅に出るまでには、もう少し時間がある。
その間に、もっともっと仲良く、可愛らしいキョーコになってもらうのだ。
蓮とキョーコ連名のファックスがマスコミに流れたその日、二人は広大な砂漠の片隅にある街にいた。
さらさらと流れる砂に囲まれた街は、砂漠観光の中心となっている街だ。
この国のしきたりに従って、髪を隠しゆったりとした服に身を包んだキョーコと、この国独自の民族衣装に身を包んだ蓮はラクダに揺られて、砂漠に来ていた。
「綺麗…ですね…」
「あぁ…ここまで綺麗だとは思わなかった…」
沈みゆく夕日を二人で眺め、ガイドが用意してくれた夕食を一緒に食べた。
少しずつ下がってゆく砂漠の気温。
それも、二人で抱き合っていれば気にならない。
「ふってきそう…」
人工的な明かりのない星空は、手が届きそうな位近くに見える。
蓮の膝の上に乗ったキョーコは、それを零れ落ちそうなくらい見開いた目で見つめながら吐白い吐息を吐きだした。
「…見事だね…」
蓮もキョーコを守る様に、抱きしめつつ見事としか言いようがない自然の芸術を見つめた。
「あ、流れ星…」
濃紺の夜の上を、行く筋も星がよぎってゆく。
それを見つけるたび、キョーコは目を閉じて何かをお願いしていた。
その願い事も気になったが、蓮はどうしてもやりたいことがありらしくなく緊張していたので、追求せずにいた。
「沢山、流れましたね」
びっくりするぐらい沢山の流れ星に、沢山の願い事をし終えたキョーコは蓮を見上げてきた。
「うん。願い事、全部言えた?」
「はい!! 欲張って、沢山お願いしちゃいました」
「そっか。それは良かった。じゃぁ、今度は俺の願いを聞いてくれる?」
「え…?」
「君の為に、星を一つ捕まえたんだ。受け取ってくれる?」
懐に隠していた指輪を、彼女の指に嵌める。
プラチナのリング。
表面には細かな堀が施されていて、可愛らしい。
内側にダイヤが埋め込まれており、どんな服にも似合うデザインになっている。
「とりあえず婚約指輪。そしてこれが…」
婚約指輪の上に重ねて嵌めた、シンプルなプラチナのリング。
何の飾りもない、本当にシンプルな指輪。
その内側には、二人のイニシャルが刻まれているだけ。
「結婚指輪。早く『最上』から俺の苗字になってください。お願いします」
細い指に嵌っているそれをなぞりながら、蓮はキョーコを強く抱きしめる。
「…敦賀さんは…、本当にせっかちですね」
重なり合う指輪と蓮の指を眺めていたキョーコは、ぽつりとそう言葉を漏らした。
「私、ようやく『婚約する』っていう事に慣れて…。ようやっと覚悟が決まったのに…。もう次にステップに行こうとしてる」
「不安なんだよ」
急いているのは、蓮の心が不安に揺れているから。
キョーコに群がる羽虫に、常に脅かされているから。
「……私は、…『好き』って身に沁みました。同じくらい、『好き』の気持ちを返してたつもりだったんですけど…。足りなかったですか?」
「……わかってる。知ってる。ちゃんと。でも、不安なんだ…。綺麗になった君が、どこかに羽ばたいてしまわないかって…」
「…そんなの、私も常に感じてるのに…」
「攫われないか、不安なんだ」
「……結婚したら、不安はなくなりますか?」
「無くならないけど、減るよ」
「じゃぁ…、結婚してゆっくり不安が無くなる様頑張りますね。敦賀さんは私の傷を癒してくれるために、すっごく心を砕いてくれました。今度は…、私の番です」
蓮の腕の中で伸びあがったキョーコが、キスを一つ。
それは蓮の顎の端に、落っこちた。
「『婚約発表会見』が『結婚会見』になっちゃいますね」
そう微笑んだキョーコの笑顔。
それはとても美しくて。
芸能界に、蓮の心に、全ての人々の心に君臨するであろう、そんな女神のような笑みだ。
「…本当に、ありがとう」
笑みを腕の中に抱きしめて、蓮は心からの感謝と敬愛を込めて唇に、キスを落とした。
帰国してからの二人は本当に大変だった。
マスコミに追い掛け回され、一度キョーコとスキャンダルになったあの男も再び引っ張り出されたりした。
けれど、あまりのも堂々とした二人の姿に、事態は沈静化して。
『ベストカップル賞』
何ていうものも、受け取るまでになった。
「今年は、何処に行こうか?」
「次は、湖を見たいです」
「…アメリカとか?」
「じゃなくて、湖水地方に行ってみたいです」
蓮のパートナーとして、芸能界の頂点に立つくキョーコのファンも、増える一方。
蓮もその仕事ぶりに磨きをかけて、仕事のすそ野を広げファンを着実に増やしている。
何時までたっても仲の良い夫婦の二人は、毎年の海外旅行を大事にしていた。
そんな二人が、『敦賀蓮』のもなく『京子』でもなくなる、大事な時間なのだ。
その時間に、愛を確かめ合い、互いの不安を消してゆくのだ。
「じゃぁ、そこにしよう」
「楽しみですね」
蓮に傷つけられ、蓮に癒されて、降臨した美しきキョーコ。
その輝きは、蓮の傍にあることで輝きを増す。
これまでも、これからも、キョーコは芸能界で輝き続けるだろう。
その傍らには、常に蓮がいるのだから。
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何とかかんとか!!
寄り道もいっぱいしましたが、最後は蓮キョハピエンで!!
纏まってくれました!!
魔人さん、長らくお待たせしてごめんなさい。
最後までお付き合いくださって、ありがとうございますww
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