降臨-17- | 妄想★village跡地

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「リク魔人」の妄想宝物庫 』のseiさんよりお預かりした、お題です。

長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。

魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~


この回あたりが、最もお題にそった部分かと思います。

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「お邪魔します」


約束通りにやって来た彼女。

一足先に帰宅していた蓮は、出迎えの為に玄関へやって来た蓮の顔は『キョーコに会えて嬉しい』という満面の笑みから、『キョーコに集る羽虫を見た』時のような無表情に取って代わった。


「どうしたの? それ…?」


別れて1日と数時間。

撮影現場から直接やって来たキョーコの手には、大きな花束と有名なブランドの紙バック。

今撮影している映画のクランクアップは、まだ先のはずだ。

誕生日でもないし、何かの記念日でもない。

傾いた蓮の機嫌に気付いたのか、ブーツを脱ぎ框へ上がったキョーコは困惑したように顔をこわばらせた。


「これ、ですか?」


「うん。随分と立派な花束だね」


何時もならコートを受け取って、優しくエスコートしてくれる蓮。

なのに今は壁に肩を預け、高い位置から睥睨してくる。

何故そんな態度を向けられるのか、全く分からずおどおどと蓮を見上げながら花束を抱きかかえ直した。


「あ、綺麗ですよね。スタッフの方がくださったんです。共演されてる方が、番組に出演された際にお花を沢山いただいたらしくて…。現場に持ってきてくださったんです。スタッフの方が生け直してくださって、皆で持って帰って来たんですよ」


キョーコの腕から零れる花束。

真っ白なカラーの花をメインに薄いオレンジの薔薇と淡い桃色のガーベラの花弁が、キョーコの頬を擽る。

何処までも淡く、優しい色彩の花。

今のキョーコを移したかのようなそれに、蓮の心はささくれる。


「…それ作ってくれたスタッフって、男だろう?」


「?? そう、ですけど…。どうしてわかったんですか?」


可愛らしく気品あふれる花束。

自分が贈るのであれば、こういうものを作り贈るであろうなと言うものを体現した花束を作り出せるのは、自分と同じ気持ちでいる人間しかありえない。


(…羽虫めっ…)


つまりこの花束を贈った人間も、キョーコに思いを寄せているのだ。


「で、その紙バックは?」


世界に名だたるメーカーの、ショップバック。

有名で愛好家も多いが、パッケージのシンプルさ故にキョーコの琴線を擽らなかったそれ。

キョーコが買ってくるとは思えないので、これも現場で貰ったものなのだろう。


「試供品を一杯貰ったんです!! スタイリストさんが沢山貰ったそうで…。分けてくれたんです!!」


花束から話がそれたことで、少し安心したのかキョーコの顔が綻んで少しあった距離が詰められた。

中身を見せてくれようと、ごそごそとするが大きな花束の所為で、上手くいかない。

蓮は花束をキョーコの腕から抜き取り、動きやすいようにしてやると、小さな声で恥じらう様に礼を言われた。


「ね? 綺麗でしょう?」


小さなそこには、色んなメーカーのアイテムが揃っていた。

チークにアイシャドウ、つけまつ毛にマスカラ、そして口紅。

大胆な色、綺麗な色、淡い色、夢見る色。

雑多な色が詰まったその中から、蓮は夢見る様な淡いピンクの口紅を取る。


「ほんとだ…。君に似合いそうだね」


小分けになったパッケージの口を切ると、小指に掬い取りキョーコの唇の上に置いた。

キョーコには大きな花束でも、蓮には何の問題もない。


「……これを選んだ人間の目は確かなようだね」


小指でルージュを引き、載せたその色が白い肌に映えることに目を細める。


「え、ぇ…」


唇に指を乗せたまま、話辛そうにしながらも言葉をつづけた。


「現場の皆さんも頼ってますよ。センスもいいですし、器用ですし…」


キョーコが言った名前は、蓮も知っている人物だ。

業界内でも、評判の男性。

乗せたままだった指に、力がこもる。


(本当に…)


撓んだそれを見つめ、胸の奥から湧き上がってくる苦いものをなんとか飲み干す。

誰彼かまわず魅了して回るキョーコ。

自慢であり誇らしくあり、憎らしくあり腹立たしくある。


「ぜんぶ試してみようか? 似合う色があったら、贈らせてくれ」


唇から手を離し、そのまま肩を抱くとキョーコを部屋の奥へ案内する。

蓮から与えられた温もりに、安堵した色を浮かべて身をする寄せてくるキョーコが愛おしい。


ソファの上に花を投げて、キョーコのコートを脱がす手伝いをする。

コートの下から現れ、濃い緑色のカーディガンに守られた細い体を背中から抱きしめる。


「結婚、しようか?」


「え?」


「婚約でもいい。誰が見ても、君は俺の物だっていう証を…刻みたい」


すんなりとした首筋に顎を埋めて、腰に滑らせた腕で強く引き寄せる。


「…お付き合い…、始めたばかりですよ…?」


困惑しいる色が強い、キョーコの声。

散々傷つけて泣かせた自分が、こんなことを言い出すなんて信じられない気持ちがどこかにあるのだろう。

困惑だけではない、色も微かに滲んでいた。


「付き合う時間は短くても、知り合った時間は長いだろう?」


「そう、ですけど…」


「夏に、旅行に行こう。過ごしやすい、北欧かどこかに…。その時に、世間に公表しよう?」


そうすれば、キョーコに群がる羽虫も減って、蓮だって少しは安心できるだろう。


「…わ、分かりました。とりあえず、夏に婚約……、だけでもしましょう…。でも、約束してくださいね。今から夏までの間に…、嫌になったらちゃんと言ってください。嘘や義務で私と結婚しようとするのはやめてくださいね」


「……そんな事、あるわけないのに…。じゃぁ、俺からも約束。全力で愛するので、ちゃんと受け止めてください。それと、不安になるので…。男からでも、プレゼントをもらうのはやめてください」


耳の後ろに小さく吸いつく。

ほんのりついた紅色に、少しだけ不安が和らぐけれど…。

こんなのは数日しか持たないのは、経験上知っている。


「……………よく、分からないですけど…。努力はします」


「うん。夏の旅行、何処に行こう? 今度パンフレット貰ってくるから、一緒に選ぼうね」


反対側の耳裏にも印をつけて、腕の中から解放する。

くすぐったそうに身を捩ったキョーコは、キスマークを付けられたことに気付いていないらしい。


「…行けると、いいですね」


振り向いたキョーコは、少し悲しい色の混ざった笑みを浮かべていた。

まだどこかで、信じ切れていないのかもしれない。

夏までにこの笑みを、もっと明るいものに染め変えようと誓いを新たに。

また一歩、新たな道を歩き始めたのだ。




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次辺りが最終回…かなぁ…


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