降臨-5- | 妄想★village跡地

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「リク魔人」の妄想宝物庫 』のseiさんよりお預かりした、お題です。

長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。

魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~


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ふうっと、深呼吸を一つ。

勝手知ったるキッチンで、深めに落としたコーヒーをマグに移して。

茶請けにと、たまたま持参していたクッキーを添える。


「敦賀さんは、ブラックだものね」


自分のマグには砂糖を少しと、ミルクを少し。

甘い色に変わったそれを、蓮のマグの隣に置いて、また深呼吸。

心を落ち着かせて、蓮と向き合う準備を整える。


「よし…」


はふはふと、何度か呼吸を整えてからお盆を手にリビングへ向かう。

蓮へ声をかけながら、ローテーブルの上にそれらを広げて。

ソファに座った蓮の、筋向いに腰を落とす。

彼に向けた視線は、耳の当たりに照準を置いて、決して絡まないように。

細心の注意を払う。


(折角封じ込めてるんだもの…。気を付けないと…)


ざっくりと傷つけられても、ほの淡く灯っている恋心。

それをぎゅっと閉じ込めた箱を開けられないように。

触れられないように。

出来うる限りの防御策を取る必要がある。


(これ以上迷惑がられたら…、私…)


尚に付けられた時より、酷い自分になってしまいそうだから。

出来うる限り逃げて、守らなければならない。

傍にだけは、いたいから。


そんな思いにとらわれて、薄氷を踏む様に距離を測っていたキョーコ。

けれど、そんな彼女の努力もむなしく…。

その視線一つで、その指先一つで、キョーコを翻弄する男は簡単に、キョーコの引いた境界線を踏み荒らす。


「うん…。美味しいよ。流石最上さんだね」


そんな些細な一言で、耳の当たりに合わせていた視線を上げてしまった。

現場でも沢山の人が言ってくれた。


『美味しい』


の一言。

けれど、彼の口から出ると全身が震える程、嬉しい。

うっかり涙が出そうなほど、嬉しくて、嬉しくて。

ぱっと合わせてしまった視線。

ほんの一瞬絡まったそれは、


(うにゅ…)


思った以上に熱くて…。

想像していた以上に、粘度が高くて…。

勘違いしてしまいそうになる。

彼はただ、美味しかったから、そういう反応をしているだけなのだから。


(あぁ…、やっぱり近づいちゃいけないんだわ…)


じゅくっと熱くなった、指の先。

僅かに震えるそれを誤魔化す為、溶けて固まった口を無理やり開く。

「あ、…の。参考になりそうなもの、あ、ありましたか?」


どもりながらここに来た目的を言うと、頬に刺さっていた熱視線の気配が消えた。

今度突き刺さったのは、冷たい冷気を纏った視線。


「…これ…。思ったより少なかったけど…。参考になるかな?」


差し出してくれたのは、数冊の雑誌。

男性系向けの、それら。

中にはアルマンディのカタログもある。


「ありがとうございます!! 助かります」


それを丁寧に受け取って、一番上に合った雑誌をめくる。

ワンランク上のアイテムをメインに取り扱ったそれは、どれをプレゼントに選んでも遜色がない。


「色々あるんですね…」


ぱらぱらとめくりながら、キョーコはどれを贈ろうか悩む。


「男性物は拘ると、天井知らずだからね」


少し開いた膝の上に腕を付き、少し身を乗り出してキョーコと一緒に雑誌を眺める蓮。

テーブル一つ分空いていた距離が、半分消える。

紙をめくる音と蓮がコーヒーをすする音が室内に響く。


「・・・・・・・・・・・・・・どんな人なの?」


それを割ったのは、蓮の声。

少し強張っているように聞こえるのは、気のせいだろう。


「…やさしい、ひとですよ」


まだまだ新人の域を出ないキョーコにも、優しくしてくれる。


「色々気遣ってくれます。現場でも、人気なんですよ」


「ふぅん…。手作りのものを贈ろうとは思わなかったの?」


「ん…、それも考えたんですけど…。ご迷惑かなぁって…。まだ好みとか分からないですし…」


ぱらぱらと雑誌をめくり進める内に、蓮が現れた。

雑誌のコンセプトである、『ワンランク上を歩く男』に蓮はぴったりだ。

上質の腕時計を嵌めて、ほほ笑む蓮。

髪の上で笑うそれに、指を這わせて…。


(この雑誌、バックナンバーあるかしら?)


手に入るのなら、なんとしても入手したいと思う。

この魅力的な蓮が欲しいと思ってしまった。

鍵が壊されたしるしだ。


「手土産にお菓子は持ってゆくつもりですけど、プレゼントは『既製品』の方がいいかなって…。思ったんです」


「そう…」


写真の蓮と視線を合わせながら、言葉を紡げば刺さっていた視線が少し緩んだ…、気がする。


「煙草を吸う方ですから、ライターとかシガレットケースとかがいいかなとも思うんです…」


「拘りとかあるかもよ?」


「やっぱり、そうですか? ネクタイとか…、靴下は失礼ですよね」


「靴下は失礼だね。ネクタイはいいアイディアだけどやめておいた方がいい」


「?? 何ですか?」


本当に意味が分からなくて、キョーコは微妙に視線をそらしながら蓮を仰ぎ見る。


「男が女性に服を贈ると、『下心がある』って教えただろう? それと同じで、女性が男性にネクタイを贈ると『首輪をかける』っていニュアンスがあるんだよ」


「くびわ…?」


「拡大解釈して、『貴方は私のものよ』ってことだね。気にしない男もいるけど、気にする男もいるから贈り物選びは慎重にした方がいいよ。ハンカチとか酒とかもお勧めだよ。リカーショップに行けば、おすすめのもの選んでくれるから」


「なら…、ネクタイを贈ろう…かなぁ…」


ぱらぱらと捲っている雑誌の、ネクタイ特集。

綺麗にまかれたそれを眺めて、漏らしたそのセリフ。

その一言で、また蓮の視線が凍りついた。

いや、視線だけではなく…。

部屋の空気そのものが、凍りついた。



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