降臨-4- | 妄想★village跡地

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「リク魔人」の妄想宝物庫 』のseiさんよりお預かりした、お題です。

長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。

魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~

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もう定位置と言っていい、エントランス脇の生垣。


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そこに隠れるように、キョーコはいた。

冬の終わりのこの時期、大分暖かくなったとはいえまだまだ冷える季節。

彼女の吐き出す吐息は、白く舞い上がって空に消えて行った。


「まったく…、あの子は…」


蓮のマンションがある辺りは、比較的治安がいい方だが夜遅い時間に女の子が一人でいて良い事なんか何もない。


駐車場に入る前に、キョーコに合図をしてエントランス入る様指示を出す。

手早くハンドルを切って、車を収めるとはやる気持ちを足に乗せてガラスの向こうにいた彼女を迎え入れる。


「いつから待ってたの?」


蓮の声が険しくなったのも、当然の事。

さり気無く肩に回した手が、ひんやりと冷えてくる。


「ちょっとだけですよ? 暖も取ってましたし…」


そう言って、手の中にあった缶コーヒーを見せてくれた。

両手で包めてしまうような、小さなそれで一体どんな温もりが取れるというのだろう?


「事務所で待っててって、言ったのに…」


車で迎えに行くからと、言ったのに彼女は聞き入れてくれなかった。

『先輩にこれ以上迷惑はかけられません!!』と言って、蓮の自宅前での待ち合わせになったのだ。

恋しい少女の鼻の先が赤くなっているのを見て、深くため息をつく。


「迎えに行くのが駄目なら、家の鍵を預けておくよ。そうすれば、俺も気を揉まなくて済むし、最上さんも寒い思いをしないだろう?」


エレベーターに乗り込みながら、会話を続ける。

キョーコの少し伸びた髪の影に隠れて、表情はうかがえない。

上へと動く箱にに乗り込んだ時、肩に回していた手はさり気無く外されてしまった。

一歩下がった彼女の肩。

その距離が、何よりも遠い。


(そう言えば…、目合わせて貰えてない…?)


ぐんぐん上昇する箱の中で、蓮は気づいてしまった。

烏滸がましいから鍵は預かれない、という彼女の視線は、蓮の耳のあたりを見ていた。


「ですから、私にそんな気遣いは無用です!! 頑丈ですし!!」


にっこりと向けられた笑顔も、何処となく強張っている。

寒かったからと言われれば、そんな気もするが。

蓮の勘が、違うと告げている。


(君は…、誰なんだい…?)


蓮の困惑は深まるばかり。

それは部屋にたどり着いても、同じ。

きちんっと靴を揃えて上がって、蓮がカタログや雑誌を探している間コーヒーを落としてくれている。


「あとは…」


適当に放り込んでいた紙類を抜き出しながら、キッチンにある気配を探る。

微かな水音と、漂いはじめた薫り高い匂い。


「一体…何してるんだ…俺は…」


手にした紙の束が、やけに重い。

彼女が『プレゼント』を贈る相手は、誰なんだろう。

自分の知っている人間なのか。

自分より、親しい立ち位置にいるのだろうか?


「彼女を、変えたのは…そいつなのか…?」


まるで自分が道化に思える。


それでも。

それでも。


「頼られたら…、断れないんだ…」


さり気無く取られる距離。

空いた隙間に流れ込む空気は、冷たくて。

キョーコのお蔭で新しく歩みだすことの出来た蓮は、本当に感謝している。

誰より幸せになって欲しいのだ。

その為なら、どんな道化にもなるのだ。


「敦賀さん? コーヒー入りましたよ」


寝室とリビングの境目から、そう声が掛かりそれ以上の雑誌の捜索をあきらめて、キョーコの元へ戻った。


「はい、どうぞ・・・・、っていうのも変ですね…。敦賀さんのお宅なのに…」


蓮の前にコーヒーを差し出してくれながら、キョーコははにかむ様に笑った。

コーヒーと共に差し出されたのは、美味しそうな色のクッキー。

こんなの有ったかな? と首をかしげつつ手に取ると。


「あ、それ。私が作ったんです。現場に差し入れしようと沢山作ったら、作りすぎちゃって…。部室に差し入れようかと思って、持ってきたんです」


「俺が食べちゃっていいの?」


「お口に会えばいいんですが…。千織さんもモー子さんも暫く来ないみたいなので。良ければ、食べてやってください」


何時もと変わらない気がするけれど、やっぱり視線が、絡むことがない。

その小さな顎を掴んで、問いただしたい気分になるが今はぐっとこらえて。


「うん…。美味しいよ。流石最上さんだね」


サクサクとした歯ごたえと、練り込まれたバターの風味が美味しい。

濃いめに落とされたコーヒーとの相性も抜群だ。


「よかった…」


ほわんっと蕩けた一瞬だけ、視線が絡む。

ほんの一瞬。

一瞬だけの、交わり。

そこに、熱量を感じたのは…、


(俺の思い違い…? 本当の君は、何処にいるの…?)


また伏せられた視線。

その落ちている先を、蓮は捉えることが出来ないでいた。



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