かた | 妄想★village跡地

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アメンバ様100人突破記念祭、リクエスト第2弾は
sei様より キョーコちゃんが、「勝手にキッチリ失恋気分。恋心よ、さようなら」「恋愛感情は否定しなくなったので次の恋へ走れるなら走りたい」「そんな時に好青年の相手役(見た目は宗像;クレパラ参照)に出会い、その人柄の良さや、やさしさに癒やされちゃったら?」
必死になる蓮くんと、キッチリ諦めてある意味スッキリしちゃたキョーコちゃん。(こういう切り替えは女性のが早い)
ヘタレ似非紳士は、キョーコの蓮への恋心を取り戻せるのか。


と頂きました。
sei様に捧げます

オリジナルキャラがいますので、苦手な方はご注意ください


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(寝れないわ・・・)


雪山での収録も残すところ半分。

今日は共演者の一人がクランクアップし、山を下りて行った。

送別会は、ハルが企画したかまくら鍋会。

大きなかまくらを、みんなで作って。

大きなお鍋をみんなで囲んで。


「楽しかったな・・・」


かまくらがあんなに温かいのも知らかかったし、大勢で食べるお鍋があんなに美味しいのも知らなかった。

楽しかった余韻が、体の中に渦巻いていてとても寝られそうにない。


「ココアでももらおう」


こっそり部屋を抜け出して、ストールを纏いなんとなく持ってきてしまった、携帯を手に静まり返った山小屋を進む。


「さむ・・・」


びゅうびゅうと風が小屋にぶつかる音だけが、響くキッチン。

ミルクパンを火にかけて、シンクに持たれながら冷たくなり始めた手をこする。

そのたびに、手にした携帯のストラップがちゃらちゃらとなった。

雪花を演じたときに着けていた、ピアスを記念に貰って。

改造した世界に一つしかない、トクベツなストラップだ。


「・・・・・・・」


フラップを開けて、電源を入れてみる。

表示されるのは、『圏外』の文字。

メールも、電話も。

『あの』ニュース以降、止まったまま。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よかった」


圏外であれば、期待しないで済む。

電話を、メールを。いつ来るのかと、はらはらしながら待つこともない。


「何が良かったの?」


「ひっ!!」


暗闇の中から、突然声がかかりキョーコは小さな悲鳴を上げる。


「寝れないの? キョーコちゃん」


「ハルさん・・・」


暗がりから現れたのは、ハル。

どてらとマフラー姿で、巷をにぎわせている面影はあんまりない。


「何つくるの?」


近づいてきたハルはミルクパンを覗き込み、次にキョーコの顔を覗き込む。


「ココアを・・・。なんだか今日が楽しくて、終わっちゃうのがちょっと嫌になったんです」


「そう? そういうことにしておこうか。ねぇ、俺にもココア頂戴?」


時々、ハルには全てを見透かされてるような気がする。

普段は軽い感じなのに、時折怖い目をするのだ。


(この目、苦手だわ・・・)


覗き込まれるような、探られているような。そんな眼差しにさらされるのが怖くて。

コンロに向かい、手早くココアを作るとハルに手渡す。


「はい・・・。どうぞ」


「アリガト。キョーコちゃんほんと料理上手だよね」


にこにこと、受け取る彼の顔には先ほどの『怖さ』はない。


「ココアなんて誰でも作れますよ?」


「下手な人が作ると、水っぽくなって美味しくないんだよ。キョーコちゃんのは花丸二重丸だよ?」


「はぁ・・・」


しばしの間、ココアをすする音が響く。緩やかな沈黙が落ちる。

そこには気まずさも、苦痛も何もなく。緩やかな、穏やかな会話の隙間。


「ご馳走様。すっごく美味しかった。お礼にイイトコロに、連れて行ってあげよう!!」


それを破ったのは、ハル。


「イイトコロ?」


雪山で行けるところは、限られている。


「うん。寒いからこれ着てね」


そういわれて、彼のマフラーとどてら巻きつけられる。


「外なんですか?」


「うん、そう」


「でも、ハルさんだって寒いですよ?」


「キョーコちゃんは長居するけど、俺は長居しないからヘイキ。さ、いこ?」


腕をとられ、外へ続く扉を開ければ。


「さむっ!!」


天気がいい故に、空から冷たい空気が降ってくる。それをまともに浴びて、身を小さく縮めれば。


「やっぱり、足りないか。ちょっとまってて」


もう一度室内へ引っ込み、バタバタと自分の部屋の方に走りたくさんの布を持ってくる。


「これも着て。これもこれも」


ばっさばさと渡されるそれらは、ハルの服だ。

セーターにイヤーマフ、スタッフジャンパーまで。ぐるぐると着せられて、もこもこと着ぶくれるキョーコ。


「ハルさん!?」


ハルが、そのにある何かをキョーコに見せたいのは分かる。

でも、何でここまでもこもこさせる必要はないのではないか?

さすがに、抗議しようとキョーコが心に決めたら


「あ、あと大事なもの忘れた」


台所に置き忘れていたキョーコの携帯も、持ってくる。


「忘れ物」


「これ・・・」


持って行っても、電波がないここだとただの時計だ。


「見つけたんだ。電波があるとこ。連れてってあげる」


「えっ!?」


「ほらほら、早くっ!!」


再び手をひかれ、外に連れてゆかれる。


「こっちこっち」


薄着を気にすることもなく、ハルはキョーコと手をつなぎ、外へ飛び出してゆく。

向かうのは、今日鍋パーティをしたところから少し下ったところ。


「ここだよ。この前、りっちゃんが見つけたんだ。たしか、この辺・・・」


携帯を空にかざし、右に左に振ると・・・。


てりれり・・・。


(あ・・・)


聞きたかったけど、聞きたくなかった着信音が響く。

彼だけの、トクベツな音。


「はい、待ってたんでしょ?」


新着メールのお知らせが、明滅する携帯を差し出され・・・


「・・・・・」


明滅するそれがとても恐ろしいものに思えて、受け取ることができない。


「なんで、わかったんですか?」


キョーコが、連絡を待っていたこと。

その連絡を、待ちたい自分を封じ込めていたことを。


「ん? ずっと見てたからかな?」


「え? お会いするの、初めてですよね?」


「キュララのCM出てたでしょ? あと、よくピンクのツナギ来てTV局に出入りしてたよね?」


「・・・よく、ご存じで・・・」


「ちっちゃな役も、雑誌ももれなくチェックしてたもん。ずっと見てたって言ったでしょ? 今回の映画も、君が出るって聞いたから出演することにしたんだもん。俺さ、ホントにキョーコちゃんが好きなんだ。だから、ちゃんと俺だけを見てほしいんだよね」


とても、とても。大切なことを言われているのは分かる。

でも、頭がついていかない。


「俺、まだ待てるから。これと、決別出来たら俺んとこ着て? ね? 約束だよ?」


ぎゅ。

携帯を手に握らされ、小さくおでこにキスされた。


「じゃぁね。明日も、一緒にお芝居楽しもうね」


来た時と違い、ハルは一人で小屋へと帰ってゆく。

その背中は一度扉の中に吸い込まれるが、再びひょっこり顔を出す。


「あ、忘れてた!! たまには空を見て見るといいよ!!」


大きく手を振ったハルは、そう大声で言って今度こそ室内に吸い込まれてゆく。


「そら・・・・」


言われて、見上げたそれは。

ベルベットの濃紺に。

宝石のような星々。

東京では決して見れない奇跡の空。


きらめくそれらに見守られて、恐る恐るフラップを開ければ。


「・・・・・・こんなに・・・」


蓮から。沢山の留守録と、沢山のメール。

仲は良かったけれど、こんなに沢山連絡を貰ったことはない。

試にメールを開けてみれば。


『話したいことがります』

『いつ帰ってきますか?』

『撮影は順調ですか?』


さまざまな言葉。

多くはないけれど、蓮の気持ちがこもっていた。

一番新しいメールには、一言。


『あいたい』


「・・・・・・・・・・・・・・ずるい」


本当に、簡単に。

蓮はキョーコの心を揺らして歩く。


「・・・・・・・・・・・・・・・・ずるいわ」



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ありがちで、ごめんなさい