海外メディアの靖国参拝報道——情報鎖国による国内世論と海外世論の大きな乖離という危険性 | Down to the river......

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個人的なメモ程度の更新をしようと思ったのですが、次に紹介する動画をたまたま観て、日本の認識不足という課題は、3.11以降も何も変わっていないのだなと痛感させられました。

動画の内容は、アメリカ在住の記者が世界(特にアメリカ)が捉える「靖国参拝問題」の見方を解説しているのに過ぎません。

ところが、東京のスタジオにいる某キャスターがその解説に猛反発するという「尋常ではない反応」を示し、これが日本人の限界(欠陥)なのだろうと落胆しました。

繰り返します。

哲学者「ソクラテス」は「無知の知」——無知であることを知っていること——の大切さを説いています。

海外メディアの報道に触れる機会が極端に少ない現在の日本人は、さしずめ「無知の無知」に陥ってはいないでしょうか?

これは「海外の日本への認識の間違い」以前の、基本的な問題です。

人類の歴史を見れば、正しいことよりも間違ったことの方が遥かに多いのではないでしょうか?

つまり、「間違うことの方が当たり前」のことだと思います。

また、ある人が「人間は(自分に都合の良い)自己解釈や誤解の連続」を繰り返す生き物、だと指摘しています。

人間関係における「究極の誤解」で生じるのが「戦争」ではなかったでしょうか。

そもそも相手(諸外国)に対して「正しい認識」を求めること自体に無理がある——という哲学や理念を日本人は持てないのでしょうか?

そして、出来るだけ誤解を最小化するために「対話(コミュニケーション)が必要」だということも……。

まず大切なのは、「相手(が自分たちをどのように認識しているか)を知る」ことのはずです。




朝まで生テレビ 20140101






「相手(世界)を知らないので、アベ・ラディン首相は靖国参拝が出来た」のではないかと、僕は思っています。

簡単に言えば「アベ・ラディン首相の国際的にKYな姿勢」に対して、かつてないほどの批判が集中した原因なのだろうと思います。





3.11のフクシマ(福島第一原発事故)以降、海外メディアと比べて、日本のメディアの報道は「殆ど役に立たない」という認識を持たざるを得なくなりました。

例えば、メルトダウン報道も、海外では既に事故の翌日から報道されていました。

日本では5月に入ってから、だと記憶しています。

被曝を避けるために逃げる必要があった人たちにとって、日本のメディアも「不要な被曝の共謀者」と同じではないでしょうか。

それ以来、「なぜ日本には海外メディアからの情報が少ないのだろう?」と、ずっと疑問に感じていました。

日本のメディアが「情報統制」して流さないだけ——としか考えられません。

一方「受け身ではなく」、能動的にインターネットを活用して情報収集すれば、容易に海外メディアの情報に触れることができることも、3.11以降に経験して来ました。



新年、これもたまたま観た次の動画で、これまでこのブログで再三と日本は情報鎖国 (国際社会からの隔離)だと指摘していたことが、無関係の第三者によって裏付けられたことを知りました。

ある意味、現代の国際社会にとって「大変恐ろしい」事実を暴露する内容ですが、次にご紹介します。




日本は情報は溢れてません/外から見えている姿と国内の自己認識の尋常でない乖離/戦場で銃を持つということ-高遠菜穂子






ちなみに、3.11以降僕も「アルジャジーラ」の英文情報を(何か起きた場合)すぐにチェックできるように、スマホを設定しております(^_^)v。




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上述したように、情報鎖国 (国際社会からの隔離)による国際的な危険性を日増しに大きく感じて来たところ、ある意味「決定打」となったのが、「アベ・ラディン首相の靖国参拝」による国際的な批判の包囲網の形成ではないでしょうか。



【関連エントリー】

◆ 日本は今でも〝情報鎖国〟——世界中から批判を浴びる安倍政権は「危険水域」に入ったのか?|Down to the river......


◆ 世界の潮流に逆らい国際的孤立を深めるアベ政権——冷戦型の発想から抜けきらない時代錯誤ぶり|Down to the river......


◆ 「世界の流れに逆行する安倍政権、日本孤立化の恐れ」|Down to the river......









今更ネトウヨ(ネット右翼)の大きな事実誤認に対して、何か反論する気はないのですが、情報鎖国 (国際社会からの隔離)の中で、多くの日本人が「国際社会からの孤立」という危険性について、自覚すらしていないのではないかという恐れを感じざるを得ないのも事実です。

そこで、熱心に海外メディアの報道を日本語訳をなさっている方がいるので、僭越ながらそれを以下に列挙したいと思います。

「人間は間違える動物」なので誤訳があるかもしれませんが、気になる方は原文(英文)の方もチェックしてみて下さい(^^;。




最初に『ワシントン・ポスト (The Washington Post)』紙の2013年12月28日の社説「Japanese prime minister’s visit to war memorial was provocative act (日本の総理大臣の戦争追悼施設参拝は挑発的な行為)」から——。



◆ Japanese prime minister’s visit to war memorial was provocative act - The Washington Post






論説委員会 / ワシントンポスト 12月28日

2013年11月中国は東シナ海において、日本と韓国に一部重なる形で一方的に防空識別圏を宣言しました。
これに対しアメリカ合衆国は、中国政府に通告する事無くB-52戦略爆撃機2機にこの防空識別圏内を飛行させ、一方的な力の行使は認められないという無言の威圧を行いました。

そしてこの問題はアメリカと日本の間の、安全保障協力関係の強化を促すはずでした。
そして場合によっては、日本政府と韓国政府の関係改善にまでその影響が及ぶ可能性もありました。

12月末、日本の安倍晋三首相は日米の軍事同盟を強化するためには避けて通れない、長年の懸案となっていた駐留アメリカ軍の新しい基地の建設に向け、沖縄県において必要とされた措置をとりました。

しかしその一方、安倍首相はただでさえ日米に対し好戦的ともいえる態度を隠さない中国に対し、無用の挑発を行いました。
小泉氏以来、7年ぶりに東京にある靖国神社に参拝し、今後のアジア情勢をより混沌とさせてしまったのです。
靖国神社には一般戦没者だけではなく、第二次世界大戦後の裁判で戦争犯罪人とされた戦時指導者も合祀されています。

この行為は国際社会における安倍首相の評価をいっそう悪いものにし、日本の安全保障すら脅かす結果となりました。

靖国神社は戦争犯罪人だけではなく、戦争の犠牲者である数百万人の日本人を慰霊するための施設です。
アメリカ大統領が国際社会からの非難を避けるため、国立アーリントン墓地に墓参する事を取りやめる事は考えられません。
しかし戦後日本の歴代の指導者は、第二次世界大戦中の日本の侵略行為、そして植民地化した各国から女性を挑発し、『従軍慰安婦』として性的奴隷として使役したなどの戦争犯罪について、綿密な調査はもちろん、事実を明らかにすることもしませんでした。
こうした態度に対する中国や韓国、さらには他の侵略された国々の反感が、戦争犯罪人とされた戦時指導者をも合祀する靖国神社に向けられる事になったのです。

安倍首相は国際社会では、特に歴史を書き換えてしまおうとする歪曲主義者として、悪名高い存在です。

そして常に軍備強化を指向し、軍備について厳しい制約を課す現在の平和憲法を改定する事を最終目標としている事についても、各国は警戒しています。

中国と北朝鮮の軍事的脅威を口実に、安倍首相は日本の軍備拡張と憲法改定の地ならしを進め、アメリカとの軍事同盟強化のための道筋を探り続けてきました。

しかし靖国参拝に象徴されるように、戦前の軍国主義国家・大日本帝国への個人的ノスタルジーを直接政治の場に持ち込む事をすれば、安倍氏が首相である事の大義は徐々に失われていく事になります。

事前に予想はしていたはずですが、靖国参拝は中国と韓国から激烈な反発を引き出しました。
しかし安倍首相の行為は、両国のナショナリストを利するだけに終わりました。
中国が一方的に防空識別圏を設定した事に正当性を与え、韓国のパク・キョンヒ大統領が日本との首脳会談を拒否し、日韓の関係改善のため何も行わない事についても支持が強まると見られます。

もう一方の側ではアメリカのオバマ政権は、沖縄の米軍基地問題の進展を喜んだ直後に、安倍首相の行為を厳しく批判する公式声明を発する必要性を認識させられる事になりました。
声明はアメリカ大使館から発せられた後、国務省声明に引き上げられました。

「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。」

日本国内には、中国と韓国との間には一定の緊張関係を維持する事の方が安倍首相にとっては有利だとの見方があります。
安倍首相が進めようとする憲法改正、そして軍備強化のための格好の口実となるからです。

しかし安倍首相のやり方は中国・韓国の反感を買うだけでなく、アジア地区で日本を孤立させてしまいます。
そして日米の同盟関係の強化も難しいものになります。

安倍首相の政策は外交的に、日本にどのようなメリットももたらす事は出来ないのです。








次に『インデペンデント (The Independent)』紙の2013年12月26日の社説「The next Asian crisis: Shinzo Abe’s visit to the Yasukuni shrine has aggravated China and increased the chance of a calamitous conflict (次のアジア危機:靖国神社へ安倍晋三の訪問は中国との関係を悪化し、悲惨な衝突のチャンスを増加)」です。



◆ The next Asian crisis: Shinzo Abe’s visit to the Yasukuni shrine has aggravated China and increased the chance of a calamitous conflict - Editorials - Voices - The Independent






ザ・インデペンダント社説(英国) 2013年12月26日

通常であれば「聖地」という言葉には穏やかな、そして人の心をいやす語感が込められています。
スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼の路、あるいはイタリアの聖フランチェスコ聖堂のような場所で、ろうそくの明かりに照らし出された聖像の前にたたずみ、しばし瞑想に耽るイメージが思い浮かびます。

しかし日本では「聖地(神社)」という言葉が、それとは異なる意味を暗示します。
そしてそれこそが日本の首相が靖国神社を参拝した事に対し、東アジア地区において大きな動揺を、場合によっては最強の2カ国間の武力衝突にすら発展しかねない緊張を引き起こした理由でもあります。

日本の戦没者の慰霊するために建立された靖国神社がことあるごとに議論の的となるのは、数えきれないほどのサムライ戦士の骨が安置されているからではありません。
最も間近に起きた戦争、すなわち第二次世界大戦中、日本の占領下にあった中国と韓国における残虐行為、そして日本の戦時指導者であった事により、戦争犯罪人として有罪とされた数百名もこの場所に祀られているからなのです。

中国国内では第二次世界大戦中の南京における強姦を始めとする、日本軍の数々の残虐行為に対する記憶が薄れる事はありません。
それが安倍首相が靖国神社を参拝した事に対し、中国がきわめて厳しい姿勢で非難をする理由です。

東アジア最大の2カ国間の関係がすでに悪化していなかったならば、局地的な紛争はそれほど重要ではないかもしれません。
しかし実際には安倍首相の行動は、日本と中国の負の歴史に、新たな悪意の1ページを書き加える事になったのです。

尖閣諸島を巡る中国と日本のにらみ合いに一向に改善が見られないのと同様、今回の靖国参拝は両国の関係悪化を象徴する出来ごとに新たな一行を書き加ただけでした。

中国と日本は誰も住んでいない尖閣諸島を巡り、何十年もの間争ってきました。
日本は19世紀にこの島々の実効支配を確立しましたが、国有化はしていませんでした。
昨年個人所有者から買い取り、国有化に踏み切りました。

中国は今年11月23日、対抗手段に打って出ました。
尖閣諸島上空を含む東シナ海の大部分に、突如中国の防空識別地帯を設定した事を宣言したのです。

この一方的な決定に対する日本側の反応の少なさは、意外なほどでした。

日本の主な航空会社2社がまず最初に反応しました。
中国当局との正面対決を避けるため、旅客機の飛行ルートを変更しました。
しかしアメリカはそうではありませんでした。
11月26日、中国側に通告する事無く、2機のB-52爆撃機を中国が防空識別圏を宣言した空域を飛行させました。
幸い中国は緊急発進などの措置は行いませんでした。

非がアジア地区において力づくでの影響力行使を強める中国に対し、警戒し懸念を深めているのは日本だけではありません。
その事実こそは、安倍首相の今回の靖国参拝が、日本の外交戦略にとっていかに愚劣な対応であったかを物語っています。

ベトナムは言うまでもなく、中国の一方的な自己主張に対しては、韓国も台湾を懸念を深めています。
しかし、一方で韓国人は第二次世界大戦の最中、日本の統治により数々の苦痛を強いられました。
韓国の人々は、日本が第二次大戦の戦時指導者たちの行為を正当化する事については、中国の横暴に対するのと同様の怒りをつのらせています。
そして安倍首相の靖国参拝は韓国政府と台湾政府から対立感情を引き出し、中国の横暴にも増して日本に対する対決姿勢の必要性を認識させました。

直接の当事者でない限り、中国と日本という2つの強力な国家が2、3の無人島を巡り、これほどまでに対立感情を剥き出しにする事は考えられない事かもしれません。
しかし世界史を振り返ると、もっと考えられないような事が現実になっています。

1914年夏、ハプスブルグ家の広大な領土の辺境で人気のなかったオーストリア帝国の皇太子が暗殺された事が、ヨーロッパ全土を巻き込み、徹底的な破壊をもたらした戦争にまで発展すると考えた政治家は、当時全くいなかったのです。
わずか100年前、1914年にヨーロッパで現実となった事態が、今日の東アジア地区で再現される事は別に意外ではありません。
今必要なのは、そうさせないための努力です。

いずれにせよ、安倍首相は靖国参拝について、もっと思慮深くあらねばなりません。








次に『ガーディアン (The Guardian)』紙の2013年12月26日の記事「Japan's Shinzo Abe angers neighbours and US by visiting war dead shrine (日本の安倍晋三は戦没者の神社を訪問して隣国および米国を怒らせる)」です。



◆ Japan's Shinzo Abe angers neighbours and US by visiting war dead shrine | World news | The Guardian






ジャスティン・マッカリー / ガーディアン 12月26日

日本の安倍晋三首相は論争の的となっている、東京都内の戦争の聖地への参拝を行いました。
そして中国からはきわめて厳しい反応を引き出し、アメリカには深い危惧の念を抱かせることになりました。

安倍首相はちょうど一年前に自身として二期目の首相に就任しましたが、当時の小泉首相が7年前に訪問して以来、靖国神社を公式参拝した初の首相となりました。

保守派の権化とも言うべき安倍首相は、第二次世界大戦中日本がアジア各地で行った振る舞いに関し、『自虐的』歴史観を捨て去るべきだと主張し、第一期の首相就任期間に靖国神社を公式参拝しなかったことについて「痛恨の極み」と言い表していました。

予想できたことですが、26日の参拝は中国と韓国から最大級の反発を引出しました。
中国も韓国も靖国神社については、日本の軍国主義の象徴のひとつと考えており、その場所を政治家が参拝するという事は20世紀前半に日本が中国大陸と朝鮮半島において行った数々の非道な行為について、充分な反省も検証も行っていない事を証拠立てるものだと考えています。

「中国政府は、日本の指導者が中国とその他のアジアの被害国の国民の感情を踏みにじり、公然と歴史の公正さと人類の良識に挑戦したその行為に対し、強い憤りを示す」
中国の外務省は声明の中でこのように述べました。

中国外務省の秦剛報道官は
「侵略と植民地支配を美化するものであり、国際社会の日本の軍国主義に対する正義の審判を覆そうと企んでいる」
と語り、以下のように付け加えました
「我々は日本の指導者の今回の行動に強く抗議するとともに、深刻に非難します。靖国神社への日本の首相の訪問の本質、軍国主義による侵略と植民地支配を行った日本の歴史を美化しようという意図が現実になったものです。」
中国政府は北京駐在の日本の木寺大使に「強い抗議」を行うことにより、今回の問題に対するより一層強硬な姿勢を明らかにしました。

韓国の報道官を務める劉震竜文化体育観光相は安倍首相が靖国神社を参拝したことについて
「時代遅れの行為」と非難し、次のように続けました。
「日韓関係に深刻なダメージを与えただけでなく、本当アジアの安定と協調のための基盤を根本から破壊してしまいました。」
「近隣諸国の懸念と警告にもかかわらず安倍首相が靖国神社への参拝を行ったことに対し、遺憾の意を持たざるを得ず、かつ怒りを表明せずにはいられません …」

靖国神社は、19世紀後半以来、戦争によって命を落とした約250万の日本人を祀っており、その中には第二次世界大戦後、連合国による裁判によってA級戦犯として有罪判決後に処刑された戦時指導者も含まれています。

安倍首相は中国や韓国の人々の感情を傷つける「意図は毛頭ない」と主張し、記者団に次のように語りました。
「戦犯を崇拝する行為との誤解に基づく批判があるが、政権が発足してから1年間の安倍政権の歩みを報告し、二度と戦争の惨禍で人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓い、決意を伝えるために靖国神社に参拝したものです。」
「尊い命を犠牲にされたご英霊に対して、哀悼の誠をささげるとともに、尊崇の念を表し、御霊(みたま)安らかなれとご冥福をお祈りしました。」
「残念ながら首相による靖国神社参拝は大きな政治問題、外交問題になってしまいました。
しかし私は、中国や韓国の人々の感情を無視するつもりはありません。」

日本軍が中国大陸と朝鮮半島を占領していた当時の残虐行為に対しては言及しなかったものの、安倍首相は靖国参拝は過去に対する真摯な反省に基づき行ったものだとして、批判的な世論をかわそうとしました。

「日本は、二度と戦争を行ってはなりません。」
安倍首相はこう語りました。
「これは、過去に対する厳しい反省に基づく私の信念です。」

安倍首相は中国と韓国からの強い反発を覚悟していましたが、アメリカが異例の深刻な懸念を表明したことは予想外でした。
アメリカ政府は在日大使館のウェブサイトに以下の声明を掲載しました。
「日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかしながら、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。」
「米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。」

日本の岸田外務大臣は、新任のキャロライン・ケネディ駐日大使に、安倍首相の靖国参拝の意図について電話で説明しました。

しかし今回の参拝は、日本と近隣諸国との間に出来た溝を一層深めることになります。

日本は現在中国との間には尖閣諸島(中国名 : ダイユー諸島)、韓国との間には竹島(韓国名 : 独島)をめぐる領土問題を抱え、双方ともこう着着状態に陥っています。

何人かのアナリストは、今回の参拝が安倍首相の国家主義者としての行動に懸念を抱く各国政府や国際世論に、歴史を恣意的に書き換えようとする意図を持つ人物としての懸念をも抱かせることになりました。

上智大学で政治学を専攻する中野孝一教授が次のように語りました。
「安倍氏はおそらく、歴代内閣の中で比較的高い人気を保持している上、靖国参拝については個人の信念の問題であり、一定限度以上の問題にはならないと考えていたと思われます。」

「しかし安倍首相と小泉元首相とは違う、そのことは誰もが知っていたのです。小泉氏は歴史までも書き換えようとする国家主義者ではありませんでした。自分に都合良く歴史を歪曲してしまう、この点に関し、一部の人々が安倍首相に疑問を持ち続けてきました。」

「そしてついに、その答えがはっきりしたのです。」








最後に『エコノミスト (The Economist)』紙の2013年12月27日の記事「Japan's shrine and regional tensions: See you at Yasukuni (日本の神社と地域の緊張:靖国で会おう)」です。



◆ Japan's shrine and regional tensions: See you at Yasukuni | The Economist






エコノミスト 12月27日

7年という時間、日本の首相が論争の的となっている靖国神社を訪問することはありませんでした。
そして靖国は神道の考え方によれば、約250万人の戦争犠牲者に加え、14人の最高レベルの戦争犯罪人の魂を祀っています。

しかし12月26日、報道陣のカメラが靖国神社の神官の後に従い、聖域とされる場所を進む安倍晋三首相の姿をとらえました。

ニュースは日本国内にいる右翼の国家主義者たちを喜ばせる一方、中国と韓国を激怒させることになりました。
さらにはアメリカも非難する声明を発しました。

「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。」

日本の事情に通している人にとっては、安倍首相の靖国参拝はさほど驚くべき事ではありませんでした。
安倍首相は首相としての最初の任期である2006-07年、靖国に参拝できなかった事について強い遺憾の意を表明していたからです。
当時、それ以前総理大臣を務めていた小泉純一郎氏による参拝の繰り返しは、中国との外交関係を著しく損なっていました。

隣国にとって、靖国神社は過去の日本の軍国主義の象徴とみなされています。
そしてそう考えているのは、日本国外の人間だけではありません。
多くの日本人もまた、靖国神社とそれが象徴するものを非難しています。
その一方で何万人もの日本人が特にA級戦犯の合祀を意識する事なく、ただ戦争の犠牲者となった家族や友人を悼むためだけにその場所で祈りを捧げています。

昨年政権への復帰を果たした記念日に靖国神社を訪問した事は、2007年に政権から滑り落ちた後も安倍氏を支持してきた人間たちを安心させましたが、一方で参拝は彼らの要求でもあったのです。

就任1年目、安倍首相は何より経済の復活に専念する事を公約していたはずであり、これほど早く挑発的な行動に出ると予測されてはいませんでした。
この直前まで安倍首相は靖国神社の儀式には、供物だけを贈り続けてきました。
一年も押し詰まったこのタイミングでの安倍首相の信念の発露は、日本の外交に大きなダメージを与えましたが、しかしこのタイミングは周到に計算されたものだったのです。

〈後編に続く〉







〈前編からの続き〉〔引用者注〕

エコノミスト 12月27日

今年11月、中国は東シナ海において防空識別圏を設置したと発表しました。
しかしその範囲は日本が実効支配する尖閣諸島上空を含め、日本が設定していた防空識別圏と大きく重なり、東アジア全体において厳しく批判される事になりました。
この時点で安倍氏に近い国家主義者たちは、自分たちの立場が一躍有利になったものと考えました。
そして、たとえ中国や韓国との関係が現在のまま悪化し続けたとしても、もはや日本の国益が損なわれる事はほとんど無い、日本政府はそう考えるに至ったのです。

この数年間何度も、政治家による靖国神社参拝やその他日本の国家主義的な行動について、中国政府当局者と国営メディアが国民の怒りを一層かき立てるような発表を行うと、北京の日本大使館周辺では大規模な抗議行動が起きました。
今回の安倍首相の訪問の翌日、中国の当局は大量の警察官を日本大使館周辺に配置しましたが、今回は目立った抗議行動は発生しませんでした。

韓国は中国政府が明らかにした抗議に同調しました。
バククネ大統領は日本との関係を改善するようアメリカから圧力をかけられていましたが、今や安倍首相との会談を拒否し続けた態度の正しさを証明されたようです。
安倍首相は韓国政府とパククネ大統領、そして中国政府と習近平国家主席と『いつでも会談する用意がある』と繰り返し表明していますが、以前にも増してその可能性を遠ざけているように見受けられます。

しかし何と言っても日本にとって最大の懸念材料は、アメリカが非難を公にした事でした。
これまで首相を含めて首相閣僚が靖国神社を参拝しても、この最大の同盟国から非難される事はありませんでした。

小泉首相は複数回靖国神社参拝を行いましたが、今ほど外交的に日本を孤立させる事はありませんでした。

しかし安倍首相の行動は、その国家主義的政権が東アジア地区において外交関係を悪化させ、緊張関係を高めてしまうのではないかというアメリカ側の懸念を現実にするものだったのです。

アメリカ外交は、日本の閣僚級政治家がどんな形であれ靖国へ参拝すれば、国際的に問題を引き起こしてしまう事を日本にわからせようとしていました。
10月に東京を訪問したジョン・ケリー国務長官とチャック・ハーゲル国防長官は、靖国に代わるべきものとして東京の千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝し、戦争の犠牲者を慰霊するのであればどうすべきか、無言の提言を行いました。

しかしアメリカはこれ以上、この問題には踏み込まない可能性があります。
安倍首相の靖国参拝のタイミングは、沖縄県のアメリカ軍空軍基地を反対の多い普天間から移設するため、名護市辺野古の埋め立て許可を仲井真沖縄県知事から取り付けたのと同時であったからです。

12月27日、仲井真沖縄県知事はアメリカ軍空軍基地移設開始のため、辺野古の埋め立て作業を公式に認可しました。
一部の観測筋は安倍首相は靖国参拝を可能にするため、アメリカ軍における沖縄の戦略的需要性を利用したのだと分析しています。

安倍首相の政治顧問の一人がこう語りました。
第二次世界大戦で日本が降伏した8月15日のような、国内が注目する日を避ける事はあっても、安倍首相が靖国神社を毎年参拝するようになる可能性は今や高い。
例えば一年を締めくくるタイミングで。

ここに改めて、木々に囲まれた一見静寂な聖地が、東アジアの平和を危険に陥れる存在として浮かび上がってくることになったのです。








最後の「おまけ」として、その他の海外メディアの報道へのリンクを2つご紹介します。

日本語訳をした方がいないみたいで、原文(英文)のみですが、翻訳サービスやソフトを使用すれば、大枠の概略は理解できるはずですm(_ _)m。

これ以外でも、探せば「切りのないくらい」インターネット上で見つけられると思います(^▽^;)。



◆ Asian aggravation - Telegraph


◆ An avoidable crisis - Indian Express