“GIGS”BOX


アメブロで音楽記事を書くようになって久しいが、氷室京介のソロ活動について書くことはあっても
自分がバンドを始めるきっかけになったBOφWYについては意外と書いていない。
そして今回アメブロがスクラップブックを終了させるということで、どうしても終わる前にこのスクラップ
ブック「BOφWY」に記事を書いておきたいと思う。その理由の1つは、このブックを立ち上げた
hiderock さんの存在である。彼はいつも自分の書く氷室記事に「Good!」を下さる。
それがどれだけ励みになっていることか。
自分もスクラップブックのBOφWY記事をよく拝見している。
でもなぜか遠慮してコメントを書いたりGood!したりということからは遠ざかっていた。
その自分の心の壁を破って今回は思いっきり書いてみたい。
ネタバレが相当あるので、読む方はそのつもりで。


まずはこの『GIGS BOX』に対するファンの反応について。
以前からBOφWYの未発表映像についてはネットに流出していたり、海賊盤が出回っていたりして
ファンの間では正式なリリースを求める気持ちが強かった。
そして元BOφWYのマネージャー土屋浩氏らスタッフの力もあり、今回のBOXセットの発売が
決定した。ファンは当然のごとく上記のような映像の多くが収められると思い、期待は高まった。
しかし詳細が明らかになるにつれ、既存の映像も多く含まれ、貴重な映像の多くは含まれない
ことがわかると、ファンからの厳しい意見が多く聞かれるようになった。そしてそれは、過剰だった。
土屋氏のブログにはBOφWYとは関係ない記事にも荒らしのように抗議や誹謗中傷のコメントが
連日寄せられたのである。そして土屋氏は、ブログを閉じた。

確かにこのBOXセットについては、自分も不満はある。内容の割りに値段も高い。
豪華なパッケージングを削ってでも値段を下げて多くの人が手に入れやすいようにするべきだったと
思う。また貴重なライブの多くが完全収録されていないことも不満の1つである。
噂によると、BOφWYとして最後に行われたライブ『LAST GIGS』の完全版がこの4月に発売される
可能性があるという。この『LAST GIGS』は2001年に初めてDVD化され、国内の解散したバンド
としては異例の大ヒットを飛ばした。しかしそれは1988年にリリースされたCDの曲順、つまり
完全版ではなくダイジェストだったのだ。自分は『LAST GIGS』を大学時代に後輩から借りて
見ていたし、ネットでも手に入れていた。最終日の全曲が収録された完全版だ。
アンコールで氷室が涙声でMCするところも、メンバー一人ひとりに花束を捧げるところも、
全部知っている。日本のロック史上に残る名ライブ。ただ単純にBOφWYの映像としてだけではなく
後世まで伝えるべき歴史としてこのライブは完全版として正式にリリースされるべきものである。
解散宣言の『1224』と同様に。

8枚組BOXの8枚目に、BOφWYのブレイク前の貴重なライブ映像が収録されている。
新宿ロフトでのパンキッシュな時代のライブ。ジミ・ヘンドリックスらが出演したあのロンドン
マーキークラブでのライブ。それらがダイジェストで収められている。
この8枚目は非常に出来が悪い。というのは、スタッフ側の思い入れが大きすぎて、過剰な演出・
編集がされているからである。BOφWYの本当の姿を伝えたければ、余計な虚飾をはずして
生のライブを見せるのが一番である。彼らがかつてステージでそうしてきたように。
そしてエンディングロールの最後に、1986年の武道館公演など今回収録されていない貴重映像が
ほんの少し出てくる。いかにも「まだまだネタはありますよ」と言わんばかりに。
いずれそれらの映像もDVD化、またはブルーレイ化して(東芝の流れがあるからHD DVD化?)
リリースされることであろう。
そうした切り売り商法が、ファンの批判の対象になっている。

しかし自分から言わせてもらうと、ずいぶん贅沢な批判である。
なぜなら海外ではLED ZEPPELINといういい(悪い?)例を知っているからである。
ハードロック史上最強のバンドである彼らの活動は1968~80年の12年間。
メンバーの死により解散を余儀なくされたのだが、解散後のリリースは徹底的に残ったメンバー
によりコントロールされた。彼らの残した音源・映像は無数の海賊盤として出回っているが、
公式にリリースされたのはBBCラジオのライブ音源、初期のアメリカツアーの音源、そして
2枚組のDVD。それも1枚目はフルレングスのライブだが2枚目は貴重なライブのダイジェスト。
それでも世界中のファンを狂喜させた。これまで待ちに待っていた映像だからだ。
しかもその内容は期待を裏切るどころか、伝説を裏打ちする凄まじい演奏であった。
こうしたリリース・コントロールによって彼らの神話は今も保たれているのである。
そして昨年12月には再結成ライブを行い、素晴らしいパフォーマンスで神話を守った。
まあZEPの場合ベスト盤は多く出すぎだけど、その時代時代で新たなファンを生み出すためには
必要なのかもしれない。

同じく海外の例になるが、ジミ・ヘンドリックスは全く逆である。
生前残した音源が多くオフィシャルとしてリリースされているが、質が悪く手に入れるだけ金の無駄、
マニア向けの海賊盤まがいのものばかりである。それは彼が黒人だったことも関係している。
生前彼にむらがる白人たちが彼をドラッグ漬けにし、不利な契約を次々と結んでいったのである。
その結果、遺族がコントロールできないまでに彼の作品は溢れ、かえって本当の彼の姿を伝える
のを難しくしているのだ。質のいいライブ作品もあるが、彼の残した音楽界への貢献に比べれば
その評価はむしろ小さすぎると言っても過言ではない。

BOφWYについても、いろいろな批判はあれど、一応のリリースコントロールがされているのは
評価されるべきだろう。BOφWYから影響を受けた日本のミュージシャンは数知れず、その存在
自体が伝説あるいは神話となっている。それはメンバー自身の想像以上のものだ。
そして昨今のレコード業界の不況。デジタルコンテンツへの移行もまだまだ時間のかかる現状で
既存の販売形態の範ちゅうでいかにレコード会社ならびに著作者の権利および利益を守りつつ
伝説を伝えていくかという難しい瀬戸際で、このBOXはとにかく日の目を見ることができた。
それだけでもありがたいというものである。

ぶっちゃけ、ソロ活動が順調な氷室と布袋はともかく、インディーズに下った松井常松とDe+Lax
を再結成したりしてドラムを叩き続けている高橋まことは、BOφWYの印税がかなりの助けに
なっていることだろう。ベスト盤や『LAST GIGS』に「Dramatic? Drastic!」が収録されているのが
象徴的である。なぜならこの曲は高橋まことが唯一作詞を手がけた作品で、正直この曲以上に
BOφWYにとって重要かつ人気のある曲があるにもかかわらず収録されている。
彼に印税を落とすためだと考えざるを得ないだろう。BOXに先駆けてリリースされた2枚組のベスト
のタイトルもこの曲から取られていた。このベスト盤は、自分にとっては全く意味の無いものだった。
BOφWYの音の変遷を全く無視した選曲、リマスターで少しばかり音を良くしただけのもの。
しかもBOXの発売を直後に控えながらもそれを公表する前のリリース。BOXの存在を知ったら
買い控えたであろうファンは大勢いるだろう。これに関しては全く弁護の余地が無い。
これを許可したメンバーはカッコ悪い。まぁ契約に入っているのであれば仕方ないが、
このリリースがBOXに対するファンの過剰な反応の遠因になったのではないか。
それぐらい納得のいかないベスト盤である。「THIS BOφWY」だけでベストは十分だ。

では、BOXの内容に移ろう。
1~3枚目は1987年夏に行われた「CASE of BOφWY」というスペシャルライブの完全版である。
正確に言うと、このライブは2箇所で2回にわたって行われているので、「完全」ではない。
しかしとにもかくにも未発表であった曲が収録され、このライブの全貌が明らかになった。
特に「16」「Oh My Jully Part 2」など初期の隠れた名曲が発表されたことは大きい。
1987年は彼らが解散を既に決めていた時期で、このライブも記録的な意味合いが強かった。
メンバーも当初はなぜ昔の曲をやるのかと異論があったという。それを説得したのも土屋氏である。
このライブが当時4本組のビデオでリリースされ、それぞれが安価であったことがファンの手に
BOφWYの姿を届きやすくしたのは言うまでもない。この販売戦略は非常に効果的で、自分も
このビデオでファンになった一人である。彼らの生の魅力がパッケージングされた素晴らしい内容
である。
上記の初期作品を、すでにバンドサウンドが熟成した87年に演奏したのも大きい。
タイトで、洗練されていて、今聴いてもフレッシュな印象を与える。この作品がきっと後々にも
新たなファンを生むことになるだろう。
しかしそれならBOXじゃなくて別リリースでもいいのではと思う。まあ以前に中途半端に2枚出した
からしょうがないけど。この「完全版」はCDでもリリースされ、3枚組である。DVDもそのCDに
合わせてなのか、3枚目。しかしこれはちょっとどうか。なぜなら2枚目以外片面1層で、しかも
3枚目などはアンコール分、約20分しか収録されていない。このスペースに未発表の映像など
入れられるはずである。これでは単なる枚数かせぎと批判されても仕方が無い。
またMCのほとんどがカットされているのは納得できない。時間は余ってるだろうが!!
おまえらライブでMCを楽しみにしたことはないのか!?
いかんいかん、結局批判してしまってるw

4枚目は同じく87年に行われた「BEAT CHILD」というイベントへの出演時の映像である。
このライブこそ、伝説のライブと言える代物。自分は雑誌でこのライブのレビューを読んでいたが、
今回初めてそのライブの全貌がクリアな映像で明らかになり、その凄まじさに息を飲んだ。
8月の終わり、熊本の阿蘇で行われたこのイベントは台風の接近による雨にたたられた。
BOφWYが出演時にそれは豪雨と化した。1曲目のイメージ・ダウンでまず氷室がいきなり
マイクスタンドからマイクを奪い去ろうとしてマイクがすっぽ抜ける。
立てた髪の毛は3分でへたんとなり、氷室はそれなりに見れるが布袋はただの落ち武者と化す。
布袋がギターソロで足を滑らせステージ上で転倒する。それでもギターは弾いたまま。
雨の影響でワイアレス電波が届かずギターの音が途切れ途切れになる。
ベースの松井は雨の中微動だにせずダウンを刻み続ける。
ドラムのまこっちゃんはPAの不調かスネアの音がキンキン鳴りながらもパワフルに叩き続ける。
氷室は雨の中息が苦しそうになりながらも、完璧な音程を維持する。
それどころか、雨を利用してマイクをスライディングしながら取ったり、MCでは「大丈夫か?」
「足元はぐちょぐちょだろうけど・・・」「(機材の不調に)悪いな」と、全く悪条件を言い訳にしない
すさまじいパフォーマンスを繰り広げる。布袋らメンバーも触発されたのか、キレにキレた演奏。

途中、さすがの氷室もこの悪条件で肉体的に弱ったか、思わず本心を明らかにする場面がある。
それは「Dreamin'」のMCの際。「4人それぞれも成長して考えることもあって、何が夢なのか
正直わからない」という、解散を意識しているとしか考えられない発言をしている。
そう、すでに87年はBOφWYは解散を決めていた時期で、氷室はツアーを続けながらも
オーディエンスに「また来るぜ」とウソをつかなければならないことを悩んでいたという。
自分の心に正直であるためにバンドを結成し、そして解散させる。つかんだはずの夢が
崩れ落ちていく刹那。そのギリギリの中で歌い、演奏し続けたBOφWY。
彼らの美学がこのディスクにつまっている。このライブが見られただけでも、BOXを手に入れた
価値がある。そしてこのライブ単体でのパッケージングではリリースは難しいということも容易に
想像できる。このライブの発掘についてはスタッフに大いに拍手を贈りたい。

5枚目はロックステージ新宿。現在の東京都庁のある土地で行われたライブイベント。
これも雨にたたられながらの素晴らしいパフォーマンスである。逆境に強いバンド、BOφWYの
面目躍如である。しかしながらこれも完全収録ではない。
吉川晃司を迎えた「1994-Label of Complex」も無いし、山下久美子らのバックをBOφWYが
務めた映像も収録されていない。まあ、高橋まことの著書「スネア」によればBOφWYの解散の
真相は布袋が山下久美子のツアーバンドに松井とまこっちゃんと迎え、氷室抜きのBOφWYに
しようとしていたためだったことを考えれば、収録されるわけは無いか。

6枚目は2001年にNHK BSで放送された「BOφWY PERFECT LIVE~FINAL伝説」そのまんま。
この番組には貴重なライブ映像が収められており、これが全て完全版で見られることをファンは
期待していたのだ。しかしそれがこういう結果になったことを嘆く気持ちはわからないでもない。
日比谷野音でのライブで氷室が歌詞を間違え自分の頭をポコポコ叩くシーンとか、
初めての渋谷公会堂でのライブで花火とともにヤンキーくずれの氷室がジャンプして登場する
シーンとか、いわばダサい場面が多く、そのためメンバーが公開を許可しなかったのかもしれない。
しかし、そうだとしたら自分は中指を彼らに立てたい。
もともとパンクなんだろ?と小一時間問い詰めたい。守るものなんて何もないじゃん。
もしかしてLAの豪邸かい?今のイメージかい?自分の誤解であることを祈る。

7枚目はこれまた87年の北海道と86年と87年の仙台のイベント出演時の映像。
北海道の方は、正直あまり大したパフォーマンスではない。氷室は必要以上にテンションを
上げようとしてから回りしている。すでに解散に向けてひた走っていたバンドの状態を表すように
なにやらギクシャクしたような印象を画面から受ける。
最後、氷室は「また来るぜ!」ではなく「また来たいと思います」と発言してステージを終わる。
解散と言う言葉が現実を帯びてきたことに、気持ちの面が整理できていなかったのではないか。

仙台の方はまず86年。客が寿司詰めになっているのが印象的。
上半身裸で汗だくになって拳を振り上げる男性ファンが濃い。女性ファンも相当気合が入っている。
しばしば客席が大写しになるのだが、誰もかれも皆ロック好きのちょっとイカレた奴らに見える。
87年はナレーターによる紹介からステージに登場するまで舞台裏で待機するメンバーの貴重な
姿が納められている。それにしてもこのナレーターのつるっぱげぶりには驚く。
BOφWYを「ビー、オー、オー、ダブリュー、ワイ BOφWY~!!」と気合たっぷりに紹介するが、
おっさん間違い。「φ=ファイ」と読むんでっせ。
INTRODUCTION~IMAGE DOWNの黄金パターンでの登場。猛獣のような氷室が登場するシーン
には震えが来る。しかしその後黄色い声で合唱する観客に、86年との大きな質の違いを感じる。
すなわち、全国的にブレイクした後のBOφWYには、新たなオーディエンス層の開拓に成功した
ものの、いわばアイドルを見るような目で彼らを見ていたファンが多く出てきたのではないか。
そう感じさせるシーンである。しかしながらBOφWY自身のパフォーマンスはキレている。
ステージから客席に伸びた花道で氷室と布袋が交差するように絡むパフォーマンスは、燃える。

ただこれらも完全収録ではない。またもともとの映像を編集し無理にアップにしている箇所が多く、
画像のアラが目立つ。もっと生っぽくても誰も怒らないぞ。

8枚目は前述の通り。スタッフによる「BOφWYの思ひで物語」と化していて、ウザい。
感動の無理強いは白ける。「そして彼らは、生きながら伝説となった」なんてテロップ出されても…。
宗教じゃないんだからw
BOφWYってそんなに神様みたいな存在?たしかに彼らの業績は凄い。彼らの成功が日本に
ロックを根付かせたのは間違いない。しかしそれまでの土台を築き上げたのはそれ以前のバンド
CAROLやRCサクセションなどであり、BOφWYは一種のブレイクスルーであったに過ぎない。
またビジュアル系と言われる、ファッション性のみを強調した亜流を生んでしまったことは彼らの
功罪の罪とも言える。もっとも彼ら自身にはそういう自覚は全く無かったわけだが。
補足するが、ビジュアル系と括られるバンドの中にも素晴らしいものはたくさんある。
しかし消えていった多くのビジュアル系バンドの多くが中身が乏しく見た目重視だったのも事実だ。
AURAとかクスクスとか・・・。
8枚目の目玉は何と言ってもロンドン・マーキークラブでのライブである。BOφWYを全く知らない
聴衆が徐々に彼らの演奏に飲まれていく様は快感である。まだノリの悪い観客に向かって
You Are Young?」と皮肉っぽく控えめに煽るヤンキー氷室が最高におかしいw

さあ、書き残したことは無いか自分?w
最後に、BOφWYの残した財産はやはり多くの人に親しんで欲しいし、ポップでありながらロックの
真髄を確かに持っていたバンドの姿を、後世にちゃんとした姿で伝えてもらいたいものである。
87年の洗練された姿ばかりじゃ、ブレイク前および直後のBOφWYの姿はわからない。
ダサダサなところも、あっていいじゃないか。裏GIGS BOX的なもののリリースを強く望む。

あと、リリース情報は早めに出してねEMI。Amazonで注文して日本の口座から引き落としている
自分にとっては、残高とのにらめっこは大変なのである。
以上。