バンコク緊張、クーデター前夜さながら | ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

ホーチミン市(旧サイゴン)在住・証券アナリストのタイ株、ベトナム株、日本株ブログ

ホーチミン市(旧サイゴン)在住の証券アナリスト・竹内浩一が、ベトナムを中心に世界の金融市場を見渡すブログです。

 昨日のバンコクは緊張がみなぎっていました。各新聞社には、問い合わせや新情報提供の電話が殺到したようです。

 首相辞任やアヌポン陸軍司令官解任の噂などが流れるなど、情報は錯綜していました。またバンコク市街、とくにテレビ局周辺には武装車や戦車もみられたとのことで、クーデター前夜さながらの様相でした。タイは最近76年間で18回のクーデター(未遂を含む)を経験しています。そして今回の混乱は、タクシン政権を打倒した「2006年クーデター続編」と考えてよいと思います。

スワンナプーム空港でのチャムロン将軍の演説



空港を占拠するPAD



ホテルで待機する観光客




 PADは、ソムチャイ首相打倒を目指したスワンナプーム空港占拠を「最後の戦闘(final battle)」と称しているそうです。ソムチャイ現首相はタクシン元首相の義理の弟。つまり、3年間同じ構図の「政治闘争」が続いているわけです。その構図は、

●「反政府派=既存エリート層・都市部の上層・中産層=反タクシン派」VS「親政府派=新興エリート層・地方部全般・都市部低所得者層=タクシン派」(実際には軍部、警察、王族も絡み複雑)

 というもの。現行憲法下で総選挙を行えば、人口の多い北部・東北部に票田を持つタクシン派が勝利するというところに都市エリート層の「苛立ち」があります。

 一方政府は、スワンナプーム空港閉鎖で立ち往生の観光客の一部を、バンコク120キロ東にあるウタパオ空港に移送予定。ウタパオ空港はベトナム戦争時以来の繁忙になりそうです。とはいえ、大型国際空港のスワンナプーム空港の代替は無理。観光客にはとんだとばっちりになってしまいました。
 
 タイの経済損失は多大です。政府側スポークスマンは「空港封鎖が月末まで長引けば、タイ経済は少なくとも1000億バーツの損害を蒙ることになる」とコメント。また、タイ商工会議所大学は「12月まで空港閉鎖が続いた場合は経済損失は1340億~2150億バーツに上る」と試算しています。これは現在の2008年GDP成長率予想4.5%を大きく引き下げるインパクトを持ちます。

 ただし、「月内に空港閉鎖が解除されれば経済損失は730~1300億バーツで2008年GDP成長率は4.5%達成可能」とも言われています。加えて、政治混乱による「メガプロジェクト(超大型公共投資)」の実施遅れも気になります。来年も政治混乱が継続するようなら2009年GDP成長率は2~3%にまで落ち込むとの予測も出ています。

 空港閉鎖によって、電子部品産業は1日当り20億バーツの売上を失っているようです。10社の電子部品企業(HDD、ICなど)は「これ以上出荷が遅れると契約を失ってしまう」と悲鳴。

 通常、景気後退時には政府が公共投資や減税またはなんらかのインセンティブで景気を刺激します。しかしタイでは、景気後退の悪影響を政治混乱が後押ししているのが現状です。残念でなりません。