イギリスが生んだ最高のロック・アーティストと言えば、ビートルズであることに異論はないだろう。そのほかにと言えば、ローリング・ストーンズ、クイーン、U2ということになるだろうか。しかし、イギリス国内のアルバム・チャートで言えば、間違いなくオアシスである。なにしろ、デビューアルバムから解散するまでの7枚のアルバムを全て1位にしているのだから(ちなみにそれに匹敵するのはビートルズのみ。デビュー・アルバムから7枚のアルバムの1位の数は、U2が4枚、ローリング・ストーンズが3枚、クイーンは2枚である。そして、オアシスのリードオフマンであったノエル・ギャラガーは、グループ脱退後のソロの2枚もチャート1位に送り込んでいる)。彼らのセカンド・アルバム『モーニング・グローリー』が、28年ぶりにビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の英国内アルバム売り上げを抜いたことは有名な逸話である。つまりイギリス国内では、リアルタイムで売れに売れまくったのがオアシスであり、国民的バンドの称号がふさわしいのが彼らである。
日本でもこの12月に公開が予定されている彼らのドキュメンタリー映画。プロダクション・チームはエイミー・ワインハウスの伝記映画『AMY エイミー』と同じ(『AMY』のアジフ・カパディア監督はエグゼクティブプロデューサー)。
映画では、彼らのライブ映像やプライベート映像がふんだんに使われている。ノエル加入前のオアシスとしてのファースト・ギグの映像まであったのには驚いた(リアムの兄のノエルはこのライヴを見に来て、リーダーシップを自分に委ねることを条件にバンドに加入したのは有名な話)。
構成は、1996年の伝説的なロンドン郊外ネブワースでのコンサート(2日間で25万人、チケット申し込みは250万人に達した。イギリス内での野外コンサートの動員記録)の映像から始まり、それから子供時代まで遡り、最後はやはりネブワースのコンサートで終わるというもの。つまり映画でカバーしているのは、彼らのキャリアのまさにピークであり、3枚目のアルバム『ビィ・ヒア・ナウ』の発売前というところまで。まさか続編があるわけでもないだろうに、その後のバンド内(特にノエル、リアム兄弟間)の確執といったところを掘り下げていないのが大きな不満が残るところ。
オアシスを知らない人にとっては、「こんなすごいバンドがいたんだ」なのかもしれないが、そうした人はこの映画を観ることはないだろうし、オアシスをよく知るファンにとっては、1991年のデビュー以来、2009年にノエルが脱退を表明して事実上解散するまでのバンドとしてのキャリアのうち、最初の1/3の5年間しかカバーしていないというのは少々物足りない。なぜ解散後何年も経ったこのタイミングでこの内容なのか理解に苦しむところ。
映像にかぶせて、バンドのメンバー本人のインタビューが存分に聞けるのはよかった(但し、訛りが強すぎて、理解不能な部分多し)。またリアムが、最初は眉毛のつながった田舎のあんちゃんだったのに、売れるに従ってお洒落になっていくのも面白かった(後には、自分のファッション・ブランドも立ち上げるほど)。映像も加工がされたものをつなぎ合わせて、飽きがこないように編集されていた。
ということで、同じプロダクション・チームのミュージシャンを扱った作品としては『AMY エイミー』の方が内容的に意味があったと言える。オアシス入門には悪くないが、それ以上ではないかなという感じ。
★★★★ (4/10)