『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』 (2013) コーエン監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~



1990年代に秀作を立て続けに作っていたコーエン・ブラザーズだが、2000年の『オー・ブラザー!』以降はスル―していた監督。最近の作品を劇場公開で観たのは『バーン・アフター・リーディング』で、それはなかなかの出来だと思ったものの、一時期の熱は冷めていた。

そのコーエン・ブラザーズ監督作の最新作『ヘイル、シーザー!』(低評価ゆえ観る予定なし)の前作がこの『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』。

舞台は1960年代のグリニッジ・ヴィレッジが中心。うだつの上がらないフォーク歌手、ルーウィンの、不運続きの一週間ほどの日々を描いている。ルーウィンは、転々と友人宅に居候をする。コーヒーハウスで歌っても、さほどの評判にはならない。そして歌手仲間の女性を妊娠させてしまう。レコーディングの話が来ても、自らの信念を貫いて迎合しない。大物プロデューサーとのオーディションでも、ソロにこだわって売るためのグループ・デビューは拒否する。相変わらず、コーヒーハウスで唄うしかない。そして時代は、どんどん移り変わっていく.....

『オー・ブラザー!』はギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原案にしたと言われるが、この作品はその『オデュッセイア』のパロディであるアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの1920年代の小説『ユリシーズ』を下敷きにしている(らしい。『ユリシーズ』は未読なので比較できず。登場する猫の名前がユリシーズではある)。

冒頭のシーンとラストシーンがつながる円環構造で、最後まで観ることでストーリーがつながる部分はあるが、あまりストーリーは重要ではないという映画。とにかく、売れないミュージシャンの本来辛いはずの日常を、ウィットをもって描いたもの。

フォーク・ソングが劇中で何度も登場人物によって演奏され、音楽映画としての要素もあるので、その手の音楽が好きであれば、それはプラスの要素(自分にとっては、全く趣味ではないので加点材料にはならず)。

場面、場面で猫がそれとなくいい味を出してからんでくるので、猫好きにとってはプラス(これは自分にとっての加点材料)。

じんわりとしたいい感じの映画ではあるが、ルーウィンが妊娠させたキャリー・マリガン演ずる女性歌手が、ギグの出演のために枕営業するところなど、実のところかなり世知辛い現実を描いているということもあり、すかっとしたカタルシスが得られる作品でないことは確か。

これからコーエン・ブラザーズの映画をということであれば、やはり1990年代の作品を観るべきだが、これはこれでまあいいかなといった感じ。

★★★★★ (5/10)

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』予告編