園子温監督最新作『希望の国』鑑賞。実にパワフルな作品。3.11という衝撃が園子温というクリエイターに創造の力を与えた。以前のエロス+暴力の世界から、前作『ヒミズ』では、3.11を契機として彼の才能の昇華を感じたが、この作品もその延長にあるもの。
舞台は、地震によって原発事故が起こる「福島アゲイン」。福島原発事故が過去にあったという設定だが、それは福島の追体験であり、3.11をそのまま扱っていると言ってもいいだろう。
作品全体は実に素晴らしい出来(そして残念ながら予告編はその素晴らしさを伝えていない)。それだけにラストシーンは納得できない。「愛があればなんとかなる」というのは実に安直な発想だし、「一歩、一歩」の伏線のリフレインもいかにもダイレクトすぎる。土地に縛られた老夫婦の絶望と、新しい命を身ごもった若夫婦の希望の対比をテーマとするなら、車で大橋を渡りながら髪に風を浴びるシーンで終わりでよかったのではないか。
とにかく夏八木勲と大谷直子の演じる老夫婦の愛情が心を打つ。ゆえに原発というテーマに関わらない普遍的な価値を作品に与えている。
作品の水準は『ヒミズ』を越えるものではないが、原発の問題を扱うフィクションの作品として今という時間軸で観るべき必見の作品。この作品が商業ベースに乗らない日本の原発産業擁護の実態にも危機感を覚える。
とにかく観て損はないと思う。園子温、今が旬の監督。
★★★★★★ (6/10)
『希望の国』予告編