英語で読むタオのプーさん 第7章 後編

That sort of bear 後編
by Benjamin Hoff, A.A. Milne (訳と説明:テリ)
さて、前回の2度のレスキュー劇から何が見えたかというと、
勇気と知恵。身の周りにあるささいなことを活用すること。
それを生み出すのに必要なこと。
それがタオイズムの中でもほんとに大事な言葉、「ツ = Tsu」だ。
翻訳すると「慈 」 心と言う字に乗ってるのがミソ。
これは思いやり = caring、哀れみ = compassion という意味。
道徳経第67章の中で老子は、これを第1の宝と呼んだ。
思いやりからこそ、勇気は生まれる。
そして加えて言うなら、知恵も生まれるのだと。
この思いやりと言うのは、何も親切にしたり同情したりする能動的なことだけではない。
人間を含めた他の生き物や物事を数に入れて行動する、ということ。
Count others in.
これは以前、無知の罪でも語ったことだが、
自分だけのことしか考えない人は、自分が開けっ放しにしておいたドアで
人がぶつかったり、家の中にとんでもないものが入ってきたり
大事なものが外に出て行ったり、という可能性を考えない。
思わぬトラブルや悲劇を招くことが多い。
道に落ちてる釘、突き出た棒、立てかけただけの板。
日常生活には罠ともいえるような不注意が氾濫しています。
自分の行動パターン内に他の人間を考慮しない。知恵が足りない。
知識はそう、だれでも持てる。しかし知恵を持つにはこの人を慈しむ心が必要だ。
心を表す cor というラテン語が、英語の勇気 = courage の語源となっているのも興味深い。
この「ツ」がルーを助け、ノースポールを発見させ、ピグレットを救い出しただけではなく、
ピグレットという小さな生き物に勇気を与えた。
ある日フクロウの家を訪れたプーとピグレット。
風の強い日なのに、フクロウは死んだ叔父さんの思い出話なんかしています。
そんな時、突風で彼らはフクロウの家ごと木から吹き飛ばされてしまいました。
" Are we - are we in Owl's House?"
" I think so, because we were just going to have tea,
and we hadn't had it."
" Oh!" said Piglet.
" Well, did Owl always have a letter-box in his ceiling?"
Pooh came up with a Plan.
Owl would fly up to the letter-box with a piece of string,
push the string through the wire in the basket,
and fly down again.
Then Piglet would hold onto one end of the string
while Pooh and Owl pulled on the other end.....
" And there Piglet is," said owl.
" If the string doesn't break."
" Supposing it does?" asked piglet, wanting to know.
" Then we try another piece of string."
This was not very comforting to Piglet,
but finally he nodded bravely at Pooh.
He squeezed and he squoze,
and then with one last squoze he was out.
Happy and excited he turned round to squeak
a last message to the prisoners.
" It's all right," he called through the letter box.
" Your tree is blown right over, Owl,
and there's a branch across the door,
but Christopher Robin and I can move it,
and we'll bring a rope for Pooh,
and I'll go and tell him now.
Good-bye, Pooh!"
And without waiting to hear Pooh's answering, he was off.
" Half-an-hour," said Owl, settling himself comfortably.
" That wil just give me time to finish the story about my Uncle Robert."
こんなときでも現実に対処できないフクロウをよそに、
プーたちは無事フクロウの家から救出されました。
訳
「ボクたち、フクロウの家の中にいるの?」
「だと思うよ。だってお茶をいただくとこだったのに、まだもらってないもん」
「あれ?」ピグレットが言った。
「フクロウっていつも郵便受けを天井につけてたっけ?」
プーは脱出プランを思いつきました。
フクロウが郵便受けまでひもの切れ端をくわえて飛び上がる。
そしてカゴのワイアに紐を通す。
そして降りてくる。
ピグレットが紐の端につかまって、
フクロウとプーがもう一方を引っ張る。
「そしてピグレットが上にたどり着くってわけか」フクロウさんは言った。
「もし紐が切れたりしなけりゃね」
「もし切れたら?」ピグレットはそこが知りたかった。
「そしたら違う紐を試すんだ」
この答えではピグレットはあまり安心できなかった。
でもやっと勇敢にもプーにうなづいた。
彼は体を振り絞ってワイアを通り抜けようとした。
そして最後のひと押しで外に出られた。
うれしくて興奮しながら、閉じ込められた2人に振り向いてキイキイ呼びかけた。
「ダイジョブだよ」郵便受けの向こうから言った。
「キミの木は吹き倒されてるよ、フクロウさん。
そんで枝がドアをふさいでる。
でもクリストファーロビンとボクがどかせるよ。
そしてプーにロープを持ってくる。
じゃあ、行って彼にそう言うよ。バイバイ、プー!」
そしてプーの返事を待つまでもなく、彼は行ってしまった。
「半時間くらいか」フクロウはのほほんと落ち着いて言った。
「それだけあればロバート叔父さんの話を終えられるな」
普段賢そうにしているフクロウだけど、
知識を越えた現実は苦手。
なるべく考えないことにするのが心の動揺を防ぎます。
普段は怖がりのピグレットは、
プーとフクロウを助けるために、天井から落ちる恐怖を克服し、
普段はない行動力を発揮する。
自分ひとりだったらきっと、そのまま何も考えず助けを待つだけだったでしょう。

話は、勇気に代わって人の幸せについて。
―ウォルデンの池のほとりで誰かが言った言葉を思い出す。
「多くの人が静かな絶望の中で暮らしている」
それが今では耳をつんざくばかりの大音響。
あちこちから絶望の叫びが聞こえてくる。
でもあなたはそんな仲間に入ることはない。
最初の一歩を踏み出すだけで、そんな絶望から離れ始められる。
人は幸せになるのを買いものでまかなうことが多いのでは?
履きもしない靴を何足も買ったり、あるブランドを買いあさったり。
時にこれは「雪だるま現象」を生み出すことがあります。
始めは小さな雪玉でも、転がすうちに大きくなりすぎ、もうコントロールが利かない。
いつの間にか幸せになる目的も忘れ、それに囚われるようになる。
ここでプーの作った歌を聴いてください。
The more it snows(Tiddely Pon)
雪が降ったら(ちいさくポン)
The more it goes(Tiddely Pon)
ドンドン増える(ちいさくポン)
The more it goes(Tiddely Pon)on snowing.
ドンドン雪が(ちいさくポン)降ってくる。
雪だるま方式は幸にも不幸にも通用する。
人に希望をもたらすか皮肉な冷笑を誘うか。
罪人かヒーローか。
ちいさくポンの原則を応用して、まず自分の小さな手のひらから。
やがて人まで巻き込んだ善意の雪だるまを作りたいものです。
----------------------
自分にあったやり方を見つけることと、ひとへの思いやりを持つこと。
それが勇気を与え、知恵を授ける。
その勇気がまた思いやりを生み、幸せを呼ぶ。
自分のためならあきらめる所を、人のためだからガマンできるようになる。
さて、嵐の後に、どこか抜けてるイーヨがフクロウの新しい家を見つけてきます。
なんとそれはピグレットが今住んでいる家のことでした。
" Just the house for Owl. Don't you think so, little Piglet?"
And then Piglet did the Noble Thing, and he did it in a sort of dream,
while he was thinking of all the wonderful words Pooh had hummed about him.
" Yes, it's just the house for Owl," he said grandly.
" And I hope he'll be very happy in it."
And then he gulped twice, because he had been very happy in it himself.
" What do you think, Christopher Robin?"
asked Eeyore a little anxiously,
feeling that something wasn't quite right.
" Well," he said at last, " it's a very nice house,
and if your own house is blown down,
you must go somewhere else, mustn't you, Piglet?
What would you do, if your house was blown down?"
Before Piglet could think, Pooh answered for him.
" He'd come and live with me," said Pooh, " wouldn't you, Piglet?"
Piglet squeezed his paw.
" Thank you, Pooh," he said, " I should love to."
訳
「フクロウにピッタリの家だろう。ピグレットや、そう思わないかい?」
そしてピグレットは気高いことをしました。夢見心地のような気分でしたが、
その間にもプーが彼のために口ずさんでくれたステキな言葉を思い出していたのです。
「うん、フクロウにピッタリの家だね」彼は寛大にもそう言いました。
「きっとここなら幸せに暮らせるよ」
そこで彼は2回グッと息を詰まらせました。だって彼自身、そこで幸せだったからです。
「どう思うね、クリストファー・ロビン?」
イーヨはちょっと心配そうに訊きました。何かがヘンだと感じながら。
「そうだね」彼はついに口を開きます。「とってもステキな家だね。
もしもキミの家が吹き飛ばされたら、どこかへ行かなきゃならないよね、ピグレット?
キミならどうする?もしキミの家が吹き飛ばされてたら?」
ピグレットが考えつくまもなくプーが代わりに答えました。
「きっとボクのとこに来て一緒に住むよ。そうだろ?ピグレット」
ピグレットはプーの手をギュッと握りました。
「ありがとう、プー」彼は言った。「きっとそうしたくなるよ」
知恵も幸せも勇気も、
直線上の終わりにただそこに横たわって待ってるわけではありません。
すべて今とつながっていて、ここから始まっているのです。
終わりだけでなく、始まりでもある。
善意の雪だるまは果てしなく成長してゆくでしょう。
老子は言いました。
ひとりの勇気が千の兵士を勝利に導けるという。
平凡な進歩を考える人でもそうした効果が得られるなら、
偉大なことを考える人はもっとすごいことを生み出すに違いないと。
千里の道も一歩から。
情けは人のためならず。
いろいろな格言はありますが、
今自分の持てるもの、力を使って、人を思う。人のためになる。
その気持ちが勇気となり、知恵となり、巡りめぐって幸せになる。
震災後の日本で1番必要なスピリットではないでしょうか。
そんなサイクルを人生の中に取り入れて行けたらいいなと思います。

用語の説明
ceiling 天井
string ヒモ
Supposing ~だとしたら、想定すれば
nod うなずく
bravely 勇敢に
squeeze 絞る、ギュッと握る
squoze squeeze の過去形の誤り
squeak キイキイ鳴く、キイキイ声で言う
prisoner 囚人、虜の人
off = gone いなくなる
Noble 気高い、高尚な
hum 口ずさむ
grandly 寛大に、大げさに
gulp のどを詰まらせる、泣くのをガマンする
anxiously 心配そうに
blown down 吹き倒された
