月曜日、ショウ君は仕事を休んだ。
休まなくていいよって言ったんだけど……。
マネージャーって言っちゃったんだから、そう言うわけにはいかないって、
ショウ君が……。
「サトシ、こっちとこっち、どっちのがいい?」
ショウ君は、両手にネクタイを持っておいらに見せる。
一本はグレーにカラフルな細いストライプ。
もう一本は赤地に小さな馬がいっぱいついた小紋柄。
「そんないいネクタイじゃなくていいから。」
どっちのネクタイも、普段はあんまり使わない高級ブランドのやつ。
「そうはいかないでしょ?ここから戦いは始まっている。」
「戦いって……おいら、仕事に行くんだよ?」
「わかってるよ。」
ショウ君は、鏡の前でネクタイを交互に当てて、首を捻る。
「早く決めて、朝ごはん食べちゃって。」
おいらは丸めたシーツを持って寝室を出る。
「すぐ行く~!」
ショウ君の声がしたけど、着いてくる様子はない。
おいらは溜め息混じりに階段の途中から二階を見上げる。
「ショウ君、今日、大丈夫かな?」
もう一度息をつき、また階段を下りた。
おいらも洗濯しなくっちゃ。
欠伸をしながら、洗面所に向かう。
昨日のショウ君、過去最高の膨張率!
だから、おいらもショウ君も少々寝不足。
ショウ君……大丈夫かな?
ショウ君と一緒に美術館に着くと、この間の撮影でも見かけた、
SHOさんのマネージャーらしき人がやってくる。
「今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
ショウ君がにっこり笑う。
おいらも笑って挨拶する。
「よろしくお願いします。」
「SHOは今、準備してますので、大野さんも。」
マネージャーさんらしき人が、階段の奥の方を指し示す。
「はい。」
ショウ君が着いて来ようとすると、
マネージャーさんらしき人に呼び留められて、振り返る。
「あ、すみません、櫻井さん……。」
「はい。」
「今日なんですが……。」
話し始めたショウ君に、用意に行くねと目で合図して、
言われた通り、準備に向かう。
今日のことを田村さんと類さんにメールしたら、
二人から、映画の宣伝して来いって言われた。
みんなが頑張ってる映画。
おいらでも役に立つのかな?
控室と張り紙された部屋に入ると、SHOさんはメイクしながら新聞を読んでいる。
こういう感じ、ショウ君にとっても似てる。
「おはようございます。」
笑って挨拶すると、鏡越しにSHOさんも笑顔を返してくれる。
「今日はよろしくお願いします。」
「僕でお役に立てるかどうか……。」
「大丈夫ですよ。思ったことを思ったままで。」
メイク途中でも、さわやかなイケメンはやっぱりさわやか。
でも、ちょっと寝不足そう。
メイクさんが目の下のクマを念入りに隠してる。
アイドルって、本当に寝る間もないくらい忙しいんだ……。
デビューしてから10年?20年?
ずっと忙しいままなんて、おいらには絶対無理。
おいらもメイクさんに言われて、ちょっと離れた椅子に座る。
「ちょっと待っててくださいね。すぐ終わりますから。」
「はい……。」
「あ、そこの衣装、着ててもらっていいですか?
そのカーテンの向こう、使ってください。」
言われた衣装を持って、メイクさんに見せると、メイクさんがうなずいてくれる。
おずおずとカーテンを開けると、ただ仕切られただけの空間。
おいらはきっちりとカーテンを閉めて衣装に着替える。
シャツのボタンを外しながら、まだ来ないショウ君のことを思い出す。
ショウ君、大丈夫かな……。
ショウ君なら、何の心配もないと思うけど……。
何の心配もないはずなのに、一抹の不安が過る。
取りあえず、早く着替えちゃおう。
おいらは手にした、白いセーターを広げた。
着替え終わって出て行くと、SHOさんは髪をセットしてるとこだった。
おいらに気付いて声をかけてくれる。
「いいね。白いセーター、似合ってる。」
「あ、ありがとうございます。」
褒められて、ちょっと照れる。
だって、大人気のSHOさんだよ?
会えることだってすごいよ。
それが二度も!
おいら、ファンだし、やっぱりテンションは上がる。
「……眠そうですね。」
SHOさんがおいらを見て、意味深に笑う。
「あ……よく言われます。いつも眠そうだって。」
おいらは、ちょっと離れた椅子に腰かけて順番を待つ。
「SHOさんも、眠そう……。アイドルって忙しいんですね。」
「そんなことないですよ。今日はちょっと寝不足で……。」
また意味深に笑うSHOさん。
なんだろう?
何か言いたいことがある?
おいらが首を傾げると、クスッと笑う。
その顔が色っぽくて、思わずドキッとする。
ショウ君の昨日の顔を思い出して、思わず赤面。
クスクス笑うSHOさんに、恥ずかしくなって下を向くと、SHOさんが立ち上がる。
「さ、終わりましたよ。どうぞ。」
SHOさんが椅子の背もたれを持って立っている。
メイクさんも、化粧水を手の上で広げてる。
なぜか、ドギマギしながら、SHOさんの椅子に向かう。
なんだか……SHOさんの手の内に行くような気がして……。
おいらの気のせい?