最近TPPでデフレが促進されるという暴論を目にした。 主張しているのは中野剛志、京都大学助教である。 つまり海外から安い品物が入ると、国際競争力のない日本の商品は淘汰される。 デフレがひどくなる。 だから保護主義をとった方がよいというわけだ。 この人は「TPP亡国論」なる本まで出しているので、ちょっとびっくりする。


こういう主張が成り立つなら、自由貿易を止めて、夫々の国が自国に閉じこもり、国内産業を大事にすればよいが、これは間違いだ。


TPPの目的は何か、これは、関税障壁を撤廃して国際分業を推進すること、さらに、労働市場を開放し国際連携を推進し、経済の効率化を図ることにある。

 

そもそも安い輸入品が入ってくることで、デフレがひどくなる訳ではない。 貨幣的なデフレは安い輸入品の流入では起こらない。安い商品を買うことが可能になれば、消費は促進される。 安い商品を買えるようになることは消費者の利益である。 勿論、これは一部の国内企業にとっては脅威となり得る。淘汰される企業もあるだろう。 しかし、それは健全な淘汰であって、国益に適っている。 


元々、自由貿易の目的は、各国が得意な分野で力を発揮することで、皆が豊かになることにある。 その国が得意としないことは、止めればよい。 要するに国際分業の促進ということだ。 但し、農業のように、安全保障上あるいは環境保護の観点からの問題がある場合には、各国が、農業保護など、保護策を講じればよいだけのことだ。 


自由貿易の恩恵で日本は発展してきたのに、突然、自由貿易を止め、保護主義に走ることは国益に適うとは思えない。日本だけが世界から取り残されて日本経済だけが非効率なまま、世界から取り残される。   


日本のように技術力がある国は、TPPに参加して、どんどん海外に生産を移転するべきだ。 そこから利益を還流させればよい。 さらに国際的に優れた人材をどんどん国内に移入して、技術力を高めればよい。 このまま、国内だけに閉じこもっていれば、どんなに優れた技術力を持っていても、短期間で、人材をグローバル化した国々に抜かれてしまう。


中野剛志氏の属する、京都大学工学部の藤井研究室の長、藤井聡教授もおかしなことを言っている。 藤井聡氏は「公共事業が日本を救う」という本を出している。 全面的に間違いというわけではないが、少なくとも経済学が分かっているとはとても思えない。 


公共事業で日本経済がデフレから脱却し、経済が急成長するということは考えられない。東日本大震災直後に日本復興計画(列島強靭化計画)なるものを提唱しているが、土木関係の業者の代弁者としか思えない。 

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201101-201106/presentation/20110323fujiilab_plan.pdf


こういった公共事業拡大路線を主張する人たちに聞きたいのは、巨額の費用を投じて造ったものが、どれほどの経済効果をもたらすのか、ということだ。 中国のような新興国で道路を作るのと、日本のように成熟した先進国で道路を作るのでは、経済効果は全く異なる。 ましてや、藤井教授の主張するように防波堤を造っても、造った後には経済効果はほとんど期待できない。 造成中の雇用増くらいで、乗数効果は非常に小さい。 


いくら防災上の必要があっても、こういった防波堤などの造成を日銀の国債買い切りオペまで行って無理に財源を捻出してまでやる必要性も、財政的余裕も全くない。 こういう初歩的な経済学くらい藤井教授には理解してほしい。