国債整理基金とは、国債の償還を計画的に行い、財政負担の安定性と国債の信用維持を目的として設けられた特別会計で、毎年度償還資金が積み立てられる。

国債整理
基金への償還財源の繰入れは、定率繰入れ(前年度首国債残高の1.6%相当額)、剰余金繰入れ(財政法6条にもとづく)、必要に応じた予算繰入れ、の3つの方法からなっている。


さてこの国債整理基金の積立金10兆円を巡って、これを東日本大震災の復興費用に使えないかという話を高橋洋一 嘉悦大学教授や竹中平蔵 慶応大学教授が持ちだしている。


定率繰り入れが前年度首国債残高の1.6%となっているのにはちゃんと理由がある。 それは60年償還ルールに基づく。 つまり、国債は一部をロールオーバーすることで全体としては60年で償還するようになっている。 正確いえば発行後60年を経ない発行済み国債が満期を迎えた場合は、新たに国債を発行して借り換えを行う」 ということだ。 例えば、5年債であれば、5年ごとに借り換えを行って、丁度11回借換えの後、借り換えをせずに償還されると思えばよい。 国債整理基金の積立金は10兆円強あるものと思われるが、国債整理基金は毎年一般会計から約20兆円を使って、国債の利払い及び、償還を行っている。 


さて、この国債整理基金の積立金を全て取り崩すとどういうことが起きるだろう。 これは償還財源のバッファーがなくなるということだ。 つまり毎年、60年償還ルールを守るための償還財源に余裕が全くなくなるということである。  やはり1年分の償還財源の余裕は持っておきたい。 


全部取り崩せば、国債整理基金などいらなくなる。 つまり毎年、一般会計からお金をきっちり回すことができれば、償還や利払いに問題はない。 しかし、これは電子回路から整流のためにあるコンデンサーを取り除くようなものだ。  


もちろん財務省は積立金の取り崩しには反対だ。 こういう財務省の姿勢について、財務省の権益を温存するためといった意見が根強くあるが、それは間違いだ。 財務省の権益を拡大するのなら、むしろ予算を大きくした方が、権益拡大になる。 財務省は単に自分たちの仕事をしているだけで、日本経済を良くしようと努力している。 ただ一般の国民目線より少し長い目で見て財政を運営しようとしているだけだ。 


短期的利益だけ考えるなら、増税や財政再建など放棄するのが合理的だ。 しかし、財政を3年、5年、10年といったスパンで考えるなら自ずと違った結論になる。 ただそれだけのことなのだ。 


私は、人間の最大の弱点は、長期的視野で物事を判断する能力が非常に弱いことだと思う。 環境問題など、その典型例である。 人間が動物と異なる特徴の一つは、農業や林業をしていることでも分かるように、少しの長期的視点を持っていることだが、どうも現代人はそういった能力が弱くなっているような気がする。


国債整理基金を取り崩して復興財源に充てることは賛成できない。