あたしは会社に着くと、まずポットに水を入れに行く。
給湯室は、寒かった。
蛇口をひねって、水をだした。
段々と溜まっていく水を見る。
結局、ケイゴさんから『付き合ってほしい』と言われたまま、ほったらかしだわ。
出会った時は、彼に何かを感じた気もしたのに・・・・、いざとなると付かず離れずの関係が心地良くなってしまった。
それでも、彼にすがりたい気持ちもある。
新町くんに対してもだ。
『僕の事も、すきになって』と言われて、自分に向けられた好意にどうしたらイイかわからなくて、避けていた。
彼は、とうとう・・・そんなあたしに愛想をつかしてしまった。
もう、あなたの事を諦めますと言われてから、自分の気持ちを知った。
あたしは・・・・。
どっちつかずね。
ポットに溜まっていく水を見ながら思った。
ポットは、水が溜まると以外に重い。
持てなくはない重さ。
でも、ずっと持って移動するには苦労する。
「大丈夫か??」
あたしのすぐ後ろから、声がした。
あの・・・声がした。
振り向かなくても、誰かわかってしまう。
立ちどまって振り向こうか、振り向かないで歩いて行こうか悩んだ。
もう、別にイイやぁー。
あたしは、立ち止まって後ろを振り返る。そこに、シンジョウさんがいた。
やっぱり、彼か。。。。
「大丈夫か??って、何が大丈夫??」
彼は、あたしのかわいくない返答にふんと鼻をならす。
相変わらずだなぁ、そう言いたげだった。
そんな思いを声には出さずに、シンジョウさんはあたしの右手からポットを取る。
あっと、声が出た。
彼は、気にせずポットを持って廊下を歩く。
左手に、書類。
右手に、ポット。
その・・・優しさが罪なのに。
わかってないなぁ。
「どっちみち、戻る所は一緒だからな。俺が持ってく。」
彼は少しだけ歩くスピードをゆるめて、あたしが追いつくのを待った。
「・・あ、ありがと。」
一応、言わないとね。
一応だからね!
あたしが、少しだけ不服そうに言うと、彼はへぇっとおどけた顔をした。
「どーいたしましてー。」
思うんだけど・・。
優しさを使い間違えたらイケないんじゃない?
ホント、わかってない。
営業部の部屋に入ると、シンジョウさんはポットを台に置く。
ポットの事は、彼に任せてあたしは席に着いた。
内線電話の音。
上司の話し声。
後輩のキーボードを打つ音。
その中に。。。
新町くんの視線があった。