――恭介の病室。
「さやか…」
「あのね、お店でレアなCDを見つけたの。だから、一緒に聴こうと思って」
「そう…」
恭介の様子がおかしい。入院していたため、
さやかがこの数日行方不明になっていた事は恭介の耳には届いてなかったようだが。
「? 恭介…どうしたの?」
「…さやかはさ…」
「え?」
「僕をいじめているのかい?」
一転。恭介の形相が変わった。
いつもは優しく、お見舞いに来るさやかに微笑んでいた恭介がまるで別人のように。
「ど、どう言う事…!?」
「いつもいつも音楽のCDなんて持って来て…」
「だ、だって…音楽は恭介が大好きだったじゃない。今だってそのためにリハビリを」
「無駄なんだよ。何もかも」
「きょ、恭介…」
「こんな手…もう何の役にも…!!」
恭介は左手を大きく振り上げ、CDケースに打ち付けた。流血が散る。
「もう痛みも感じない…」
「!? 駄目ッ!!」
さやかは咄嗟に駆け寄り、恭介を止めた。さらに左手を傷つけようとしたためだ。
「治らないって…言われたんだよ…もう…バイオリンは弾けないって…だったら僕は…もう…」
さやかが訪れる前、恭介が主治医から受けた辛い宣告。
数日前までは恭介も積極的にリハビリに取り組んでいた。
さやかが持って来る音楽CDを聴きながら、あの頃のようにバイオリンを自由に演奏出来る事を夢見て。
しかし。
「現代の医学じゃ治せないって…それこそ、奇跡か魔法でも無けりゃ…」
「あるよ」
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
さやかは知っていた。その存在を。目の前で苦しむ恭介を救う事が出来る術を。
「さやか…何を言って…」
病室の窓の外。赤い瞳を光らせる小さな影がその様子を見つめていた。
「恭介…」
さやかは恭介の手を取った。
「大丈夫だから。絶対…恭介の手は絶対に治るから。だから諦めないで」