「…ん?」
人の多い表通り。杏子は刺すような視線を感じた。
(誰だ? この感じ…普通の人間じゃない…)
魔女の口づけを刻まれた者か? いや、そうでは無い。
それならばもっと陰湿でドス黒い気配である筈だ。
(あたしの後をついて来てやがる…もしかして、縄張りを横取りしようとしてる魔法少女か?)
早足になれば、向こうも早足に。完全に杏子に狙いを定めている。
(フン、いい度胸してるじゃんか。この杏子様に喧嘩売ろうってさ)
杏子は再び人の目に付き難い狭い路地に入り、
「…!」
腕組みをして、後を尾けてくる者を待ち構えていた。
「誰だよ、てめえ? コソコソ人の事をストーキングしやがって」
深めに被ったフードを剥ぎ取り、その素顔が顕わになった。
黒ずくめの服装に一際映えるシルクのようなキメ細かい金髪の少女。
「何だァ? あたしよりガキじゃねーかよ」
「…あなた、魔法少女ですか?」
少女は尋ねる。開口一番、名乗ってもいないのに杏子に魔法少女であるか否かを。
「だったら何だよ?」
杏子も自分が魔法少女である事を否定しない。そんな質問をしてくる奴の素性は決まっている。
「バルディッシュ、セットアップ」
【Yes,Sir.】
首から提げた金色の宝石が発光し、少女の体を包む。
「うっ!?」
その姿はまるで美しき死神。全身から電光を発し、従えるは光の鎌。
「やろうってのか?」