「グランド・ブダペスト・ホテル」を観た。 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。





グランド・ブダペスト・ホテル
6月9日(月) 16:40~ TOHOシネマズシャンテ




好き度: ★★★★☆ /5点


物語を語ること


大好きなウェス・アンダーソン最新作、今回は世界的に超大ヒットのようでどんなもんかと楽しみにシャンテに行ってきましたよ~。余談ですが、シャンテはほんとにシートが大嫌いだったんですよ。でも今年からシートが固めのふつうのシートに変わりまして、前みたいな不快感はなくなりましたというどうでもいいことをご報告しておきます。


というわけで、グランドブダペストホテル。ウェス・アンダーソンの集大成と言われているのが物凄くわかる映画でした。いつものようなウェス的としか言い様のない画面設計と色彩設計は健在。時代ごとに画面設計を変えるというこだわりもあり、ストップモーションアニメも使い、確かに今までやって来たウェス・アンダーソンの要素をすべて持ち込んだような映画で単純にファンとしてとても楽しかったです。

久々に良いシアーシャ・ローナンを見たなぁ


僕が考えるウェス・アンダーソンの魅力って、おとぎ話のような、絵本のような、ファンタジー的な世界が、現実の生身の感触になる瞬間のカタルシスだと思うんですよね。非現実な世界観から不思議と出てくる現実的かつ普遍的なカタルシス、これが生まれる瞬間の魅力というか。ほとんどのウェス・アンダーソン作品の魅力、カタルシスの置き場はそこだと思うんですよね。で、今回はそれを突き詰めた結果、行き着いた先は現実であるなかの最悪のリアル、『戦争』を取り入れ、ファシズムへの怒りをかなり直接的に描いていて、そういう意味でも行き着く先までいった感、集大成感を感じました。この世界観だからこそ、バイオレンスそして戦争の痛さがより伝わってくるというホントに不思議なバランスですよね。そういう意味でもウェス・アンダーソン作品のなかでも最も尖っててかつ、メッセージ性の非常に強い映画だと思いました。そういう意味でもちょっとワンランク上のレベルにいった作品だと思うし、こんな世界観の混同した不思議なバランスはウェス・アンダーソンにしかとれないわけですから、やっぱすごですな。


そしてこの映画のもうひとつの要素は、ウェス・アンダーソンなりの『物語論』であるということだと思います。何重にも回想に回想を重ねていて、その伝えかたも時代によってさまざま、口で直接伝えたり、観客側に直接喋りかける映像であったり、そして本であったり。戦争、ファシズムなど、これらを経験していない世代に語り継がなければならないものってあるじゃないですか。日本だって戦後はだれもがもう戦争はしないと思っていたと思います、でも今現在日本の空気はどうなっているか…。それってやっぱり語り継ぐことができていないからなんですよねたぶん。ウェス・アンダーソンの本作はそういう歴史を物語ることそ自体がものすごく大きなテーマになっていると思います。

しかも、それがまったく関係ないといえば関係のない遺産相続をめぐるドタバタコメディの影に据え置くことで、間口は広く楽しく見れる作品のなかに、確かにそこにある戦争の歴史というものを観客は楽しさと同時に持ち帰るわけで、これってこの作品のメッセージとしてものすごくまっとうだと思うんですよね。物語ることそのものについての映画としても何重にも深い映画であると思います。しかも、なによりこれを間口の広いエンターテインメントにしたことが素晴らしいですよ。伝えていかなければならないものってやっぱあるんですよ。それは映画館でこの映画を観ている僕らにとっても、あのピンクの本を開いたあの少女にとっても、話を聞かされたジュード・ローにとっても、みんな一緒なんですよね。


正直、はじめは説教臭いなぁってのはちょっと思ってて。。あとはメッセージ性の正しすぎる姿勢というか、ど真ん中ストレート感にちょっと引いちゃった部分もあったりもしたけど、今考えるとそうでもなかったかなぁとか思ったり…。

個人的に考えるウェスアンダーソンのもうひとつの魅力は、正しくないことのなかにある正しさの再発見っていうか、端から見たら正しくなくても君にたとってはその選択が正しいってこともあるんじゃないかな?っていう優しい視線だったりしたので、今回は明確な悪がドーンとあるぶん(実際超悪だから)、やっぱちょっと直接的すぎるというか、ちょっとウェス・アンダーソンのいい意味でのめんどくささというか、気持ちのいいイビツさがなくなっててやっぱ全体的に説教臭いなぁって感じちゃうし、ウェス的なあのイビツなカタルシスがなかったのはちょっと残念でした。。まぁでもやっぱ今回はテーマ的にもしょうがないとは思います、このバランスこの題材で形にできるのはウェス・アンダーソンだけでしょう。見てないかたはぜひ!




個人的に好きなウェス作品ベスト3を挙げて、おわりにします。
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スタッフ

監督
    ウェス・アンダーソン 
製作
    ウェス・アンダーソン
    スコット・ルーディン
    スティーブン・レイルズ
    ジェレミー・ドーソン
製作総指揮
    モリー・クーパー
    チャーリー・ウォーケン
    クリストフ・フィッサー
    ヘニング・モルフェンター
原案
    ウェス・アンダーソン
    ヒューゴ・ギネス
脚本
    ウェス・アンダーソン
撮影
    ロバート・イェーマン
美術
    アダム・ストックハウゼン
衣装
    ミレーナ・カノネロ
編集
    バーニー・ピリング
音楽
    アレクサンドル・デプラ
音楽監修
    ランドール・ポスター

キャスト

    レイフ・ファインズ ムッシュ・グスタヴ・H
    F・マーレイ・エイブラハム ミスター・ムスタファ
    マチュー・アマルリック セルジュ・X
    エイドリアン・ブロディ ドミトリー
    ウィレム・デフォー ジョプリング
    ジェフ・ゴールドブラム 代理人コヴァックス
    ハーベイ・カイテル ルートヴィヒ
    ジュード・ロウ 若き日の作家
    ビル・マーレイ ムッシュ・アイヴァン
    エドワード・ノートン ヘンケルス
    シアーシャ・ローナン アガサ
    ジェイソン・シュワルツマン ムッシュ・ジャン
    レア・セドゥー クロチルド
    ティルダ・スウィントン マダムD
    トム・ウィルキンソン 作家
    オーウェン・ウィルソン ムッシュ・チャック
    トニー・レボロリ 若き日のゼロ


作品データ
原題 The Grand Budapest Hotel
製作年 2014年
製作国 アメリカ
配給 20世紀フォックス映画
上映時間 100分
映倫区分 G