合同展工燈 ・ 中将 | 面打 能面師 新井達矢の制作日記

面打 能面師 新井達矢の制作日記

日本の面に向かう日々

今年は木々の色付きが今一つ冴えないように感じます。



そんな近所の公園を散歩中に記念写真、昨年も撮影しました。

今年で八回目となった巣鴨とげぬき地蔵様での合同展は、それなりの盛り上がりで終えることができました。


毎年恒例?出品した作品を少し載せてみます。




これは小面、多少特色のある名物面の雰囲気を取り入れたつもりですが、恥ずかしいので書きません。



実はこの面は数年前に制作したものの、一度も舞台に上げてもらえず、見向きもされなかった面を改良?したもの。
上の画像は改良?前。

最初は仕上がった面の彩色層に直接刀を入れ、彫刻の気に入らない2,3カ所を直して、その部分のみ補彩して元に戻すつもり・・・・
ところが修正点が全体に広がることが予想されたので、水に浸けて彩色全てを洗い流しました。

美大予備校生や学生時代に木炭デッサンや彫塑の授業の中では度々「壊せ」と指導されました。

目の前にあるモチーフやモデルさんと対峙して表現したものを、更に観察を繰り返し、否定すべきは否定して違うと感じたものは躊躇なく壊して、新鮮な目で再び立て直し少しでも真実に近づける・・

こんな感じに理解はしていましたが、木彫に慣れていた小生にとっては青天の霹靂!一度作り上げたものを壊すなんて!

しかし、可塑性のある塑像などの製作においては殊に、この感覚を身に着けないと生命感のある造形には近づけないのだなと、勘付くようにはなりました。
大きく見る、掴むように包むように大地を感じて対象の存在を捉える!


今回の小面の改作?をしていてその当時の先生方の言葉が少し蘇ってきました。
彫刻的に間違っていると気づけた目に嘘を付かないことは勿論、
苦労して自ら炊きだした煤液を沢山使った古色、必死に書いた三本の毛筋を勿体ないなんて言っているのは堕落している証拠でしょう。

正直結果はどうか自ら判断するのは難しいですが、舞台で日の目を見てくれたら嬉しいなと願うばかりです。





この十六も数年前に打ったものに手を加えたもの。
肌の色が単調すぎたと感じ、今までに殆ど使ったことのない色を入れたり研ぎ出したり。
少し雰囲気は変りましたが、突貫工事なので消化不良気味だったのが反省点。




これは黄不動と呼ばれる面。
お元気な長澤氏春先生に見て頂いた最後の面かもしれない19歳の頃の作。
市内の方に納めたものなので拝借し展示しました。

珍しい面なので何人かの方に「創作面?」と聞かれましたが、これは歴とした写し面。
氏春先生が所蔵されていた面裏に吉満と書かれていた古面が原面です。
吉満の銘から是閑作と云われていましたが、おそらくは寿満あたりが打った江戸中期頃の創作面ではないかと考えています。
顔面は宝生型の小獅子のようですが、繊細な表現の髪と湾曲した犬歯や豊な耳タブが印象的で仏体を感じさせ、変化に富んで江戸期の風を反映した面白みのある造形ではないでしょうか。

しかしながら、この手の装飾過多で末端的創作面は何の曲に使うのかという最大の問題があります。

國栖、雷電、調伏曽我、小獅子の替わりに石橋でも可能か?




この姥が純粋に新作と呼べるものの一面。
某名家より拝借した面の写し、皺が少なく艶めかしささえ醸し出すお婆さん。
本面は関寺小町などの老女物に掛けられています。




最後は前にも掲載したこの般若。
般若坊型、河内写といった類のもの。





最後はシツコイ制作工程の画像。





本面(手本面)がある場合は通常型紙を取ります。
正面の面型、側面(横顔)の縦型、時間と手本面の重要度により横断面の型などを多数作ります。
厚紙をカッターで切りながら合わせる実に地味で陰気な作業。まる二日ぐらい掛かることもあります…
最後に各部分の厚みや距離を測って書き込み記録、型紙一式が出来上がります。

拝借は勿論、長時間の拝見が適わない場合、やむおえず3D計測をお願いしたこともありました
が、費用が膨大に掛かり大変苦労しました。当然真っ赤です・・・






木曽檜の板目材です。古面の中には案外板目を使用した例が多いので最近試したのですが、やはり変形やひび割れの心配が拭えないので、充分に乾燥した材以外は使わないようにします。





面裏側に鉋を掛けて面型で輪郭を描き、正中線を引きます。





面表の左右を鉈で割り、はつって整えます。
これは氏春先生の方法ですが、鑿で割り取る先生もいらっしゃいますし、全く違う手順でされる方もいて其々です。




裏から鋸で余分なところを切り取り、表へ返した画像。





周囲をザット叩き鑿で落とし、正面の輪郭を平鑿で正確に出して、鼻下と眉間辺りに鋸で切り込みを入れます。





確かこの画像は縦型(横顔の輪郭)が出来たところ、鼻梁を意識して鼻口顎の盛り上がりを残し、両頬を落とします。





眉骨と眼球、頬から顎の繋がりに特に気を配りつつ全体を叩き鑿で荒彫りします。





少しだけ骨格が感じられるようになりました。




特徴的な眉間や目鼻口を鉛筆で描き込んで表情を確認し、更に絞っていきます。





肉付きや表情を捉えつつ、横断面の方が9割以上合って、中彫り完了というところ。






口と目等の細部の表情を出して、目鼻口に錐をして穴を開けます。
同時に本面と充分に見比べながら、型紙では追い切れない全体の肉付きを調整、追い込みます。





何とか良いと決めたところで、鉛筆を用いて各部分の彩色を再現し完成の雰囲気を出します。


多く見る中将は面長で如何にもお公家さんという面相ですが、手本にした面は小ぶりで引き締まり目鼻立ちがハッキリしています。特に口の開きが大きいのが特徴にも感じますが、この方が舞台で効くのではと仰る先生もいらっしゃいます。是閑、友閑作とされる面に多い型のようです。







工程が前後しますが、縦型合わせが完了したところ。





少し恥ずかしいですが、今回合同展の打ち上げの記念写真?

金春宗家のご嫡男、憲和さんと高校の先輩で仏師の山口さんをお誘いして呑みました。
お二人ともとにかくお酒が強いのです。

こんな長い駄文を全て読まれる方は少ないかと思いますが、小分けにして頻繁に投稿するマメさがないのです。
だからノッた時に一気に書く・・・仕事と一緒です。