浦江塾でオダサクの「語り」を材料に考えます | 晴耕雨読 -田野 登-

晴耕雨読 -田野 登-

大阪のマチを歩いてて、空を見上げる。モクモク沸き立つ雲。
そんなとき、空の片隅にみつけた高い空。透けた雲、そっと走る風。
ふとよぎる何かの予感。内なる小宇宙から外なる広い世界に向けて。

今回の浦江塾は
大学院で、これから文学研究を深めようとする日下宗大さんに
「中間報告」をしていただくことになりました。

それが、けっこう難題なのです。

浦江塾といった場は
きっと彼の両親よりも高齢の方々がたくさんおられる所でしょう。
そこで発表するのですから。

妙壽寺からのハガキが先ほど届きました。
いつものハラハラドキドキの思いで読みました。
以下、文面を紹介します。

写真図 浦江塾のご案内のはがき




郷土誌を見直す『浦江塾』のご案内
「夫婦善哉」の著者、オダサクで知られる織田作之助の
「可能性の文学」の論評と現代の文学論との対応関係を
みると「語り」を通して民俗学など他領域へも射程が広がる。
オダサク自身「語り」は「虚構」「嘘の話」と言う。
それでは我々日常生活の「語り」はどうでしょうか。 
 日時 11月7日(土曜日)午後7時より
 場所 妙壽寺(福島区鷺洲2-15-10)駐車可
 テーマ 「オダサクの文学論と私」
大阪大学大学院研究科
日下 宗大研究生
終了後、情報交換等の雑談を行います。ご参加下さい。


以下、田野による書き込み。
この文面を読む限り、
住職にも今回の意図が理解していただけたと思います。
毎回、間に立って伝言ゲームのような危うさを体験しています。
ボクは誰と誰の間に立っているのでしょう。
発表者、はがき発信者の間?
そこで忘れてはならないのは塾参加者です。
いわば視聴者です。読者です。


ジャーナリストの池上彰の文章に
編集することについて書いたのを
最近、国語表現という科目の教科書で読みました。
放送局、新聞社、雑誌社には、編集者がいます。
ボクが間に立っていると思うのは
この人たちとよく似た立場だと思います。

何でもかんでも、あるがまま、
自然に、ほっといたら情報が伝わるものではありません。
いくら素晴らしい情報の持主であっても
切り口一つで
視聴者・読者に受け入れられることもあれば、
そっぽを向かれることもあります。

情報を共有し合える環境が大事です。

話し手と聴き手との関係性が問題です。
その点、日下宗大さんは
「若いのに」、よう浦江塾にも顔を見せてくれてます。
彼は今まで、聴き手でいてくれました。
それだけに聴き手の方々について
まんざら知らぬ間柄ではありません。

昨日も電話で一言、相談を受けました。
いくら何でも「術語」の説明だけは
やらせてくださいよと。
ボクは余りにも
難しい専門用語を用いるのではなく、
できるだけ日常の言葉に翻訳してくださいよと
今回、言ってきましたもので。
もちろん、それで結構ですよと答えました。


またまた本番を迎えるまでハラハラドキドキです。
講演会やセミナーを企画するのは、
けっこう骨折りです。
タイトル一つ決めるのも
発表者のよい点を引き出さねばなりません。
もちろん参加者にはがっかりさせたくありません。
今回はタイトルは「私」あるいは「ボク」で行こうということで
折り合いがつきました。
それが「オダサクの文学論と私」です。
これなら彼自身のことで済みます。

何も知ったかぶりして
客観的になんぞ、力まなくてええのです。

ボクが彼に求めていますのは、
決してオダサクをめぐる
「日本文壇史」などではありません。
はたまた、ボクも若い時分、ちょっとだけ囓った
ジャン・ポール・サルトルの実存主義など
いくらオダサクが述べていようと
説明しなくてもよろしい。


オダサクを話題にして
日常生活において今まで気づかなかった
「自分」を再発見することです。

最後に念のため
ハガキの文面の
「オダサク自身「語り」は「虚構」「嘘の話」と言う」の解釈ですが、
順序を変えて
「「語り」はオダサク自身「虚構」「嘘の話」と言う」の方が
わかりやすいでしょう。

オダサクの評論には「語り」ということばが見えません。
「虚構」「嘘の話」を「語り」として解釈しているのは
日下宗大さんです。

この解釈によって話がパッと開けてきます。
皆さんも嘘をついたりはしないけれど、
お話は知らぬ間に
それなりに、こしらえたりしていると思います。
相手にわかってもらうためのことです。
それは編集して
少しばかり演出したりもします。
そんなのは、いまさら池上彰さんに言われなくても
当たり前のことですね。
「語り」 はひとつ間違えば「騙り」になります。


若い研究者の今回の発表が
お互い、頭をほぐすきっかけとなれば
大成功です。
ボクもリラックスして臨むことにします。


究会代表 田野 登