『道中膝栗毛』浪花見物の都市民俗のご案内(1) | 晴耕雨読 -田野 登-

晴耕雨読 -田野 登-

大阪のマチを歩いてて、空を見上げる。モクモク沸き立つ雲。
そんなとき、空の片隅にみつけた高い空。透けた雲、そっと走る風。
ふとよぎる何かの予感。内なる小宇宙から外なる広い世界に向けて。

『道中膝栗毛』浪花見物の都市民俗の
表紙が決まりました。

その表紙をブログアップする前に
下地にした挿絵の本について述べておきましょう。

その本は大阪府立中之島図書館所蔵の版本です。

それが、よくわからない代物なのです。

和装本索引カードを繰ってわかった書誌情報を記します。

書名
   『東海道中膝栗毛』
別名
 『滑稽五十三駅』
編著者
 十返舎一九編
種類
 刊行本
形態
 22冊 18㎝ 和装
注記
 改板本


刊行年は記されていませんが、
それに「十返舎一九編」とあります。

下の画像はブログアップの許可をいただいております。


写真図 『滑稽五十三駅』九編巻之上冒頭




さっそく本文を読んでみましょう。
●押照や難波の津ハ
 海内秀異の大都会にして(中略)
 殊更花のはるハ
 川船に棹さして
 天保山にあそび
 さくらの宮引舟の茶店に
 酔を催ふし(以下略)


ムムッ「天保山」が出て来ますがな。
文化8(1809)年序文の『道中膝栗毛八編』にすれば
天保2(1831)年、
「天保の大川浚」とよばれる浚渫工事で
出来た築山では年代が合いません。

和装本索引カードにたしかに「改板本」とありました。
いつ、誰が書き換えて刊行したのかは不明の書物なのです。

実際、図書館で調べ物をしておりますと
このような刊行経緯が不明の代物に出くわします。
そのような代物は価値がないのでしょうか?
気長に本文の校合をすれば、
きっと多数ある『東海道中膝栗毛』の
流布本の一つとして位置づけられることでしょう。


なぜ、この謎の本を
表紙に取り上げたのかについて述べます。
この版本別名『滑稽五十三駅』は
本セミナーでテキストとして
用いる本と
本文・挿絵に異同があります。


ちなみにテキストは
中村幸彦校注
『東海道中膝栗毛』(日本古典文学全集49 一九七五年 小学館)です。

この小学館本の底本は
平戸市松浦史料博物館蔵本及び
校注者の蔵本とあります。


テキストと比べて
『滑稽五十三駅』は、挿絵が本文に即している点が捨てがたく
セミナーでは《付録『滑稽五十三駅』挿絵》として
取り上げることにししました。
それで、
表紙に『滑稽五十三駅』挿絵を
持ってくることにしたのです。


さて、本文に即している挿絵とは
弥次喜多ご両人
どこでどうしている場面でしょうか?
まさに大阪の都市民俗が
丸見えで、
何やら聞こえてきます。
大阪らしいおいしい食い物が匂ってきます。

次回、表紙の挿絵を紹介します。


究会代表 田野 登