『汐汲』、『四千両小判梅葉』2012年11月南座 夜の部その2 | はじめての歌舞伎!byたむお

はじめての歌舞伎!byたむお

  ◆「興味はあるけどみたことない」、「何回かは観たことあるけど」
  という人のための歌舞伎案内のページです。
  観劇日記や歌舞伎の情報のまとめの他に
  グルメ、国内観光、温泉情報などもあります。

今年の観劇日記なので、今年のうちに。
まだ書けていなかった観劇レポート。
来年になる前に。


11月新橋演舞場での、顔見世大歌舞伎、
夜の部では、仁左衛門さんの『熊谷陣屋』のあと、
坂田藤十郎さん、中村翫雀さん、親子による


『汐汲(しおくみ)』


でした。




すいません、舞踊はきれいだな~、
とむずかしいことも考えず、
ぼけーっと見てるので、たいしたことは書けません。




さて、最後の演目は



『四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめは)』

です。
河竹黙阿弥さんの作です。


タイトルの四千両という金額は、盗んだお金。
泥棒がテーマです。


泥棒といってもケチな泥棒とはちがって、スケールがデカイ。
なにしろ盗むのは、江戸城から。
なんとお上のお金に手をつけるんです。


現代だったら見事に盗んで、海外にでも逃亡して豪遊、
なんてお気楽、ハッピーなストーリーでもアリかもしれませんが、
黙阿弥さんの時代は、お役人が芝居の内容をチェックして、
ケシカラ~ンということになるでしょうから、
泥棒は捕まっちゃうんですが。
しかし、「敗者の美学」ってヤツをいかに楽しませてくれるか、
そう期待して観ることにします。


この芝居もめったにかからない演目。
なにしろ前回が15年前です。
役者さんも思い出すのも大変でしょうね。
初役の人も多いでしょうし。






いきなりおでん売ってます。
江戸城のお堀の近く屋台でおでんを売ってるのは、
尾上菊五郎さん扮する富蔵さん。


「おで~ん。甘いの~に、辛いの。おで~ん。」


こんな呼び声です。
あんまり人通りのないところでおでん屋やってても、
もうからないよ、なんて心配になります。


そこに籠にのってやってきたのは、
中村梅玉さんが演じる浪人の藤十郎さん。


籠かつぎの二人にこのあたりでおろしてくれ、
と言って籠を降ります。
「こんなところで降りても何にもないですよ」
と言われますが、
「いいんだ。ここで降りる」
と、なにやら訳ありの様子。


それを見ていて不審に思ったおでんやのオヤジ富蔵さん、
近づいていくと、
「あっ、藤十郎さん」
と気付きます。
二人は知り合いでした。
どうやら藤十郎さんのお父さんに富蔵さんは、
昔にたいへん世話になったようです。


「なんでこんなところで、降りなさった?」
「実は…」


実はこの藤十郎さん、廓の遊女にお金を使いすぎて
困ってます。しかも同じ遊女に入れあげている、
商家のボンボン(尾上松也さん)が商売のお金をもって
このあたりを通るという情報をキャッチ。


『くるわの恋の かたきから
 金を奪って 蹴落として、
 ついでに自分の ふところも
 これでようやく あったまる、
 一石二鳥の 大作戦。』


黙阿弥さんにインスパイアされて、
七五調に挑戦してみました。


藤十郎さん、実は悪い人でした。
恋のライバルから泥棒しようとして、
人のいなさそうなところで待ち伏せしようと
考えていたんですね。


梅玉さん、源義経のような品行方正なお役もいいですけど、
こういう悪役も上手に演じますね。


それを聞いたおでん屋の富蔵さん、
腕をまくって、


「旦那、もっとでけぇ仕事しませんかねぇ。」


腕まくりすると、そこには入れ墨。
富蔵さんも前科があって、入れ墨をいれています。
実は、富蔵さんも泥棒でした。


「もっとでかい仕事ってなんだ。」
「へえ、あそこをねらうんで。」
「あそこってどこだ。この辺にはお城くらいしかねぇじゃねえか。」
「あああ、声がでかい。声がでかい。」


なんてこと言ってんだ~、もう。警固の役人とかいたら、
いっぺんに捕まるじゃないか。


はい、富蔵さん、江戸城にある四千両の大金を狙っていました。
そりゃあ、百両は小さい仕事ですよね~。


梅玉さんの藤十郎さん、ドジッ子キャラです。
一番周りには聞かれたくないNGワード、
「お城」、思いっきり言っちゃいました。


そこへ走ってきたのは、ボンボン(松也さん)と、
スリの寺島長太郎(尾上菊之助さん)。


「寺島」って尾上菊五郎さん、菊之助さんの名字ですから、
黙阿弥さんが、菊五郎家のために書いた芝居ってことが、
わかりますね。


ボンボンはここに来る前にすでに
スリに百両のお金すられちゃいました。
暗い道を走ってくるところ、
富蔵がすっと足を出すとスリの長太郎、
足を引っかけて転びます。
ふところから百両の金が落ちますが、
気付かずにボンボンに追われているので、
そのまま花道を走って行っちゃいます。


落ちた百両を手にした富蔵さん、
「こいつぁ春から縁起がいいわぇ」
とはいいませんが(これは別の芝居でしたね)、
棚からぼたもち、もうかりましたね。


 


ここで最初の幕が降ります。


 


次の場面、藤十郎さんの家です。
暗い夜道を千両箱を抱えて帰ってきた二人、
富蔵さんと藤十郎さん。
そうです、江戸城から四千両奪っちゃいました。


どうやって盗んだのかも気になりますが、
肝心のところを秘密にしておくのも歌舞伎の手法ですよね。


「四千両盗ったど~。よっしゃぁ、明日から豪遊するぞ~。」


という藤十郎さんに対して、プロの泥棒の富蔵さん、


「すぐに金を使っちゃなりません。しばらくは今までどおり貧乏暮らし。
 しばらくしたら少しずつ金を銀に替えましょう。
 突然に羽振りがよくなったら、怪しまれます。」


と冷静にマネーロンダリングの指示をします。


その落ちつきっぷりにビビッてしまい、
なんて恐ろしい悪党だ、と思った藤十郎さん、
刀を抜いて殺そうとします。



う~ん、「ザ・小悪党」



やることがセコイですね~。



刀をかわされて、富蔵に説教されます。


「落ち着け。そもそもお前の家に隠しておこうということで
 四千両を全部持ってきたんじゃないか。
 こっちが騙し取ろうなんて考えていないのがわからないのか。
 もしそうだったら、こっちで金を預かったり、お前を殺したりするものだろ。」


藤十郎さん、その親に富蔵さんが恩義があるようだからいいですが、
そうじゃなかったら殺されてますよね。


梅玉さん、こういった小心者キャラもやるんですね~。
ちょっと意外。


「スイマセ~ン。私が間違ってました。」


謝りまくって、家の床を掘って、そこに四千両を隠すことにします。


 



さて、次の幕がスタート。


なんと、富蔵さんつかまってます。
なんでも加賀の国(金沢)でつかまってしまって、
裁判のためにお江戸につれていかれるところ。
場所は熊谷(埼玉県)ですから、『熊谷陣屋』の熊谷ですね。
唐丸籠(とうまるかご)という籠にいれられて、
雪道の中を運ばれてきます。


そこにやってきたのは富蔵の家族たち。
お母さんと女房、そして一人娘のお民の三人です。


本来なら家族との面会とかは禁止なんですが、
お役人も温情をかけて、
ちょっと腹が痛くなった、トイレ、トイレ、
みたいなことを言って、ちょっとの間は
席をはずしてくれます。


「あんた、いままでありがとう。」
「達者でくらせよ~。お民、父ちゃんみたいな悪いやつになっちゃだめだぞ~」


と涙のお別れ。


ちなみにツイッターでつぶやかれていましたが、
坂東亀三郎さん、十五年前の『四千両~』では
この娘さん、お民ちゃんの役を勤められたとのこと。


 


さて、次の幕。
江戸時代の牢屋の様子を再現しています。
当時の人々はびっくりしたでしょうね~
というか、現代のたむおもびっくりしてます。


刑務所の中、完全な階級社会です。
まず一番偉い人、牢名主(ろうなぬし)、
続いて、頭(かしら)、二番役、三番役、四番役。
名前を忘れちゃいましたが、
その他大勢の囚人はAランク、Bランク、Cランクみたいに
格付けされてます。


格付けはどう行われるか?


◆ポイント1
つかまった「犯罪のスケール」
どれだけ悪い犯罪で捕まったか、悪ければ悪いほどランクは上。
スリとか軽犯罪だったら、しょうもないことして
捕まりやがってとランクダウンです。


◆ポイント2
「牢屋にこっそり持ち込んだ賄賂の金額」
こっそり服の襟元に縫い込んだり、
髷の中にかくしたり、
とあの手この手で賄賂を持ち込んでます。
その賄賂は牢名主が没収します。


たとえば「強盗」で賄賂が「〇両」ならAランク
のように、牢名主さんが決定します。


「窃盗」で賄賂とか全然知らなかったから、
もって来なかったという人はCランクですね。


一面に敷いてあったはずの畳はあげられ、
牢名主や偉い人は無駄に何枚も畳を重ねてその上に座っています。
Bランクの人やCランクの人は板張りの上に直接正座です。


Cランクの人とかは、上のランクの人に逆らえません。
板で打ち据えられたりの体罰が待ってます。
余興に「踊れ」と言われたら、「すってん踊り」という
奇妙な踊りを踊らないといけません。



牢名主は市川左團次さん、貫禄たっぷり、
頭(かしら)は坂東亀三郎さん。


そう、十五年前に「悪いやつになっちゃいけないぞ~」といわれた娘(亀三郎さん)は、
悪いことしちゃって牢屋で頭におさまっているのでした(笑)。



そして、二番になっているのは富蔵(尾上菊五郎さん)さん。
やはり「犯罪のスケール」の大きさは抜群。
江戸城から四千両の強奪ですから。
もちろん、賄賂もだいぶ持っていったんでしょうね。


教育係というポジションでしょうか。
新入りの囚人に牢屋のしきたりを教えます。


『ここは地獄の 一丁目、
 地獄の沙汰も 金次第』


七五調の長セリフです。


終わった頃に牢屋の役人がやってきます。
決定したのは富蔵さんの死刑執行。



牢屋の中は、
『俺達のヒーローがこれから一世一代の晴れ舞台を迎えるぜ。
 見事な死に様をみせてくれよ。』
という、いわばお祭モードになります。


牢名主がはなむけに富蔵さんに渡したのは、
新しく仕立てた着物と博多帯。
『これに着替えて行ってこい。』


なんでこんなの持ってんの?
って、もちろん銭をもってますから、牢名主は牢屋の役人に賄賂をわたして、
あれこれと融通を利かせてもらったんでしょう。



幕がかわって、富蔵さん、いよいよ引き立てられていきます。
別の建物からは、藤十郎さんも登場。
暗~いそれまでの舞台から、
ぱっと明るい場面に変わります。


辞世の句を詠んで、牢屋の建物の中から囚人たちが
お題目をめいめいに唱える声が響くなか、
二人は引き連れられていくのでした。



いやあ面白かった。




ブログランキング登録しました。


     人気ブログランキング

              blogramによるブログ分析




歌舞伎の輪を広げていきたいので、ポチッと押してくださいませ。