【短編小説】家族会議(前編) | たむりん日記

【短編小説】家族会議(前編)

僕の名前はサトル。

小学三年生だよ。



僕んちは父さん、母さん、姉ちゃんと僕の4人家族で、下宿をやってるんだ。

大学生のお兄さんが2人下宿してるよ。



2人とも優しい人で、森田さんなんかは僕や姉ちゃんの勉強を見てくれたりもするんだ。

だけど、最近2人の様子がちょっとおかしいんだよね。

なんか、僕んちの家族会議に森田さんたちも参加したいって言ってるみたい。



変な話だよね?

ひとんちの家族会議なんかに参加してどうするんだろう。



昨日の夜も、森田さんが父さんとこんな話をしてたよ。



「僕たち下宿人にも、家族会議に参加させて下さい。家賃を払ってるんだから、参加する権利があるはずですよ」

「何を言ってるんだ。下宿してるんだから家賃を払うのは当たり前だろう。それとこれとは話が別だ」



「となり町の鈴木さんのところでは、下宿してる学生も家族会議に参加してるそうですよ」

「あそこに下宿してるのは、みんな鈴木さんの親戚じゃないか。なんで君たち他人をうちの家族会議に参加させなきゃいけないんだ。バカバカしい」



父さんは怒ってお茶の間から出て行っちゃった。



そのあと森田さん達は、母さんを説得してたよ。

母さんは森田さんたちに甘いから、「分かったわ。明日の家族会議で議題にしてみましょう」なんて言ってたけど、大丈夫かなぁ。



------ 翌日 ------



今日は家族会議の日。

議題は「下宿人に家族会議参加権を与えるかどうか」について。



僕は反対なんだけど、僕んちでは10歳以上じゃないと家族会議には参加できない。

つまり、父さん母さんと姉ちゃんの3人で会議をやるんだよね。



父さんは当然反対。

母さんは「森田さんたちは、もう家族同然じゃないの」なんて言って賛成。



姉ちゃんは「森田さんたちは頭がいいし、私たちだけじゃ出せないようないい意見を出してくれると思う」とか言っていた。



アホな姉ちゃんにしては、意外とまともなこと言うなぁ。

母さんも「そうよねー」と調子を合わせてた。

父さんはなんとか2人を説得しようとしたけど、ダメだった。



結果は賛成2、反対1で可決。

森田さんたちも家族会議に参加できることになったんだ。



------ さらに翌日 ------



今日も臨時で家族会議をやったんだ。

森田さんたちも参加するから、5人での家族会議。



議題は森田さんが出すことになってたんだけど、それは森田さんの友達の大学生2人を、さらにこの家に下宿させたいということだったんだ。



下宿する人が2人増えたら、合わせて4人。

父さん母さん姉ちゃんの3人より多くなっちゃうよ。



これには、さすがに母さんも警戒したみたいだ。

「もう部屋も無いしねぇ……」

「部屋のことは大丈夫。僕たち2人の部屋にそれぞれ1人ずつ入れますから。それに、僕たちが払ってるのと同じ家賃を払うって言ってるんですよ」

「でも……」



しぶる母さんに、姉ちゃんは能天気に「家賃が2倍になるってことね!いいじゃない!ウチも助かるでしょ」と言ってた。

父さんと母さんは姉ちゃんを説得しようとしたけど、姉ちゃんは頑として意見を変えなかった。

姉ちゃんはいつも母さんの言うことは聞くのに、なんか変だなぁ。



結局、3対2で可決。

下宿人が2人増えることになったんだ。



家族会議の後、僕は姉ちゃんの部屋に文句を言いに行った。



「姉ちゃん、分かってるの?森田さんたちが4人になったら、森田さんたちだけで何でも決められちゃうんだよ?」

「そんなの大丈夫だよー。森田さん優しいしー」



「姉ちゃん、危機感が無さすぎるよ!例えば次の家族会議で、家賃を半額にするとか4分の1にするとか言い出すかも知れないんだよ?」

「あはははっ!下宿生が勝手に家賃を下げるなんて、有り得ないよ。そんなの父さんが認めないって」



「……姉ちゃん、父さんの性格知ってるだろ?父さんは自分で決めたルールは、どんなことがあっても絶対に守る人だよ。『家族会議で決まったことは絶対』って、父さんが決めたルールだよ?」

「……………まさか……そんなこと………さすがに無いでしょ…………」



「まぁ、僕の取り越し苦労かも知れないけどね」



僕は部屋に帰って寝ることにした。

僕の心配が現実になりませんように、と祈りながら……。



でも、次の家族会議で森田さんが出してきた提案は、僕の想像をはるかに超えていたんだ。



(後編につづく)