第215回_その道のエキスパートを目指せ | 【松下幸之助、創業者、名経営者、政治家に学ぶ】          

第215回_その道のエキスパートを目指せ

「下足番(げそくばん)を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」阪急グループ創業者 小林一三(いちぞう)


大正元年、原安三郎(はらやすさぶろう)という男が早稲田大学商学部を首席で卒業した後、日本化薬の前身である日本火薬製造会社に入社した。化学会社に就職したのに、配属された先が飯場の炊事係であった。思ってもなかった職場であるが原という男は腐らず逆に徹底的に勉強した。米の仕入れ一つにしても「どこの米がうまいか」「米の値段にどういう違いがあるのか」「品質の違いとどう関係があるのか」「どういう流通経路で来るのか」「肥料には何をつかっているのか」等々、調べる気になれば勉強する材料はいっぱいあった。そして、勉強していくと、次から次へと、また勉強の材料が出てくる。最初はつまらないと思っていた日々の仕事にもはりが出てきたという。


この原という男は後に日本化薬の社長になり会長になるまでの38年間社長を務めるというレコード記録をつくり、また幾多の経営不振の会社を再建し、「会社更生の名医」とも賞賛された人物である。


4月になり毎年の光景ではあるが、この時期に電車や街中でまだ着慣れないスーツを身にまとった、いかにも新入社員と思われる人達に出くわす。彼らの初々しい姿を見るといつも思い出すのがこの原安三郎のエピソードである。


相変わらず新人の離職率が高く新卒者の3割は3年以内に会社を辞めてしまうという。このことは非常にもったいないことに見えてならない。女性で結婚したら仕事を辞めるというのであれば別であるが、この先40年、50年、働こうと思うのであれば、どんなにつまらないと思える仕事であっても、どうせやるならその道のエキスパートを目指して最低でも3年、5年くらいは徹底的に打ち込んでいくほうが、将来道が開けるのではないかと思う。


そのことはわれわれの先輩達の生き様をみていくと自ずと頷けることだと思う。このブログでも会社を辞めずにエキスパートを目指し成功した人物を何人も取り上げたが、そういった事例は数限りなくある。


旭化成中興の祖といわれた宮崎輝(みやざきかがやき)は東京帝大(現・東大)法学部を卒業して旭化成に入社したが、配属先は子会社の庶務課であった。仕事はソロバンであったが、学生時代に法律書しか読んでいなかった宮崎は、ソロバンは不慣れであった。廻りは商業学校出の即戦力となる人達ばかり。東大出は宮崎一人だけ。「東大出の法学士なのに仕事は何も出来ない」と皆に馬鹿にされ、会社を辞めようと何度も思うが宮崎は思いとどまり「得意の法律を勉強して、会社で一番の法律通になって、まわりを見返してやる」と逆に奮起した。仕事が終わってから遊ぶ同僚を横目に民事、刑事、特許の出願手続など猛勉強をはじめた。3年も勉強を続けると社内で「若いけれど法律をよく知っている、恐らく会社で1、2の法律通だ」と評価する人が出てくる。そしてこの努力が意外に早く報われる時がきた。同社が開発した「旭ダイヤライザー」というカセイソーダの回収装置をめぐって帝人と特許紛争がおき、この交渉の責任者に宮崎が抜擢された。ここから大きく道が開けていった。

詳細参照 http://amba.to/oGmP96


また、ホテルの清掃員として雇われた人が支配人に大抜擢されたケースもある。詳細参照 http://amba.to/hT35p7


東芝本社の部長であった岩田弍夫(いわたかずお)は上司と激しい口論となり子会社の副部長に左遷させられたことがあった。廻りからは再起不能と見られていたが、岩田は腐らなかった。元々得意であった経理、財務のスキルを東芝で誰にも負けないぐらいになろうと徹底的に磨いた。それから数年が経つと東芝本体が一時財政危機に陥る。すると今度はこの危機を救えるのは岩田しかいないということになり、急に本社に呼び戻され財務部長に抜擢される。その後、岩田は社長になる。


会社を辞め転職して成功したケースもあることは知っているが、今までの先輩達の事例をみる限り、やはり辞めずに頑張って道が開けたケースの方が圧倒的に多いだろう。


そして最初の小林一三の名言と類似の言葉を残した先人が多くいるので幾つか紹介して終わりたい。


「一芸は万芸に通づる」世阿弥


「その道の第一人者になれ」

平岩外四(経団連第7代会長)


「与えられた仕事の分野では、世界一になるんだという意気込みを持て」

賀来龍三郎(キヤノン名誉会長)


「なにか一つをマスターすることが大切だ。技術屋なら製造技術とか設計技術とか、事務屋なら人事でも経理でも。その職種では社内はもちろん、業界全体でも『これならあの人』と評価されるくらい一つの職種を極めるべきだ」

石原俊(日産自動車元社長)


関連サイト

小林一三(阪急グループ創業者)語録集(仕事編)

http://bit.ly/yMvvrW

宮崎輝(旭化成元社長)語録

http://bit.ly/z5EX3r

石原俊(日産自動車元社長)語録

http://bit.ly/pek7lV

平岩外四(東京電力元社長)語録(教育編)

http://bit.ly/A9bYCz