第121回_田中角栄_お金の使い方で分かる人物の大きさ | 【松下幸之助、創業者、名経営者、政治家に学ぶ】          

第121回_田中角栄_お金の使い方で分かる人物の大きさ

お金の使い方によってその人物の大きさが分かと言われるが、やはりケチケチしている人には人はついてこない。太っ腹な人についていく。自分の上司がケチであればその上司は生出しないだろうし、自分も太っ腹にならなければ出生できないともいえるかもしれない。



故・田中角栄元首相は人を泣かせるお金の使い方をしたことで有名である。 例えば田中派以外の代議士で、選挙の後始末でどうしても最低でも300万円が必要だった人物がいた。300万円にいくらかでも上乗せがきくなら、なおさら助かる。彼は考えた。大平正芳(元首相・故人)のところへ行けばどうなるか。「300万円」と切り出せば、多めに見積もってきたなと思われ、たぶん200万円を出すに違いない。彼は考えた末に、大平のもとへは行かず、田中角栄の事務所を訪れた。話を聞き終わった田中は、なんとポンと500万円を差し出したのである。彼は、当然300万円と思っていたから驚きの表情を見せた。田中が言葉をついだ「残ったカネで、選挙で苦労した連中にうまいものでも食わせてやれ」と。この代議士は、夜、布団をかぶって泣いたという。


またこんなエピソードもある。田中派時代、派内の若手の議員が女の不始末の清算で、今日中にどうしても100万円が必要ということになった。ところが、すぐ現金で百万円を揃えることができない。やむなくその議員は田中のもとに電話をかけ、100万円の借金を申し込んだ。話半分まで聞いていた田中は「わかった」と一言。「カネは直ぐに届けさせる」と約束した。30分もすると、田中事務所の秘書が紙袋を届けにきた。その議員が開けてみると、本人が申し込んだ額よりも多いなんと300万円の現金が入っていた。そして田中の筆による一枚のメモが入っていた。

一、まず100万円でけりをつけろ

二、次の100万円でお前の不始末で苦労したまわりの人たちに、うまいものでも食わせてやれ

三、次の100万円は万一の場合のために持っておけ

四、以上の300万円の全額、返済は無用である。


その若手議員は、涙しながらそのメモを読んだ。そして、その後、田中派内で竹下登の創政会の旗揚げ問題がクローズアップされた時でも、ビクとも動かなかった。あの時の300万円の一件で、田中という人物に殉じるハラを固めたという。

実に粋なお金の使い方である。金権政治家と見る人もいるかもしれないが、一般社会でも実際にお金の援助で助かる人がいる。例えば商売をしている人であれば「頑張れよ」「心から応援している」と口だけで言われるのと実際に資金的な援助をしてくれるのとでは大違いである。



3代日銀総裁の故・川田小一郎(かわだこいちろう)は法皇と言われる程のワンマンであり威張りちらしていた人物として知られるがお金の使い方は実に太っ腹であった。

かつては三菱で同じ釜の飯を食った仲間の朝吹英二(あさぶきえいじ)が零落して日銀にやってきた。昔はオレ、お前の仲でも、地位に隔たりが出来ると門前払いを食わす人は幾らでもいるが、川田は快く面会した。金に困っているのを知るとなんと月給袋をそのまま朝吹にくれてやった。月給袋の中を見て何枚かを抜き出して渡す人はいるかもしれないが、袋ごとそのまま渡すとは何とも太っ腹な人物である。朝吹が喜んだのはいうまでもない。



文責 田宮 卓




参考文献

小林吉弥 「田中角栄経済学」 講談社+α文庫

小林吉弥 「田中角栄の才覚 松下幸之助の知恵」光文社

小島直記 「スキな人キライな奴」 新潮文庫