改革の「余地」について | たまき雄一郎ブログ

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衆議院議員玉木雄一郎のオフィシャルブログです。

いよいよ、社会保障と税の一体改革の審議が山場を迎えています。国論を二分する問題であり、論点も多岐にわたっています。


この問題に関して、最もよく聞かれる議論の一つが「増税の前に、歳出削減などの改革をまず行うべし。」というものです。私も、その通りだと思っていますし、この主張に反対する人はいないと思います。


ただ、「改革の余地」、「財源捻出の余地」についての冷静な分析が行われていないと思っています。そのためには、まず、政権交代後、どれだけ歳出削減などの改革が実現したかを客観的に分析すべきです。


この点に関し、昨年、民主党で実施したマニフェストの中間検証では、政権交代から2年目の「折り返し地点」での成果として、以下のような結果をまとめています。


【平成23年度までの歳出削減等の成果】

1. 歳出削減等 2.6兆円
2. 「埋蔵金」の拠出等 3.2兆円
3. 税制改正 1.1兆円
→ 新たな財源の合計(21年度予算比) 6.9兆円


これらの内容について、もう少し詳しく解説すると、公共事業については、マニフェスト上では25年度までの4年間で1.3兆円削減する予定だったものを、初年度だけで1.5兆円の削減を達成しています。


また、いわゆる「事業仕分け」によって、22年度に0.7兆円、23年度に0.3兆円の合計1.0兆円の歳出削減の成果が出ており、その結果、国の歳出は、21年度の対象予算と比べて、合計で2.6兆円減っています。


次に、特別会計の積立金、剰余金などの、いわゆる「埋蔵金」があります。これは、毎年発生するフローの埋蔵金と一回限りのストックの埋蔵金で成り立っていますが、その額は、毎年変化します。したがって、歳出削減や税制改正のように22年度と23年度の数字を足しあわせた累計額ではなく、あくまで、平成23年度の「単年度の」数字を置いています。


さて、23年度の「埋蔵金」の内訳は以下のとおりです。


まず、「事業仕分け」の結果捻出できた鉄道・運輸機構の特例業務勘定の利益剰余金1.2兆円、さらに、財投特会の積立金0.1兆円+剰余金1.0兆円、加えて、外為特会の剰余金0.2兆円(進行年度分のみ)があります。また、事業仕分けを踏まえた公益法人等の基金からの返納金0.2兆円もあります。これらに、国有地やNTT株式などの政府保有株式の売却額0.5兆円を加えて、23年度には、3.2兆円の「埋蔵金」を捻出しています。


なお、この3.2兆円の外にも、外為特会から剰余金2.7兆円や日銀納付金、JRA納付金等などが合計4兆円ありますが、これらの財源は、自民党時代においても、税外収入として活用してきており、政権交代の成果として捻出できた「埋蔵金」には、あえてカウントしないことにしています。


最後に税制改正ですが、「子ども手当」の財源として、年少扶養控除を廃止して(つまり増税して)1.1兆円の財源を捻出しています(これに加え、成年扶養控除の見直し等0.2兆円がありましたが、その後の与野党協議において23年度税制改正から削除されています)。


このように、政権交代以降、歳出削減、「埋蔵金」の発掘、税制改正等により、新たな財源として約7兆円を捻出しています。この金額は、政権交代がなければ捻出できなかった金額です。


そして、この約7兆円を、2年目までの財源捻出目標額「12.6兆円」と比較すれば、達成率は55%となります。また、4年目の最終目標額である「16.8兆円」と比較すれば、達成率は41%になります。


このことから言えることは2つです。


まず一つは、政権交代によって「全く」財源捻出ができていないというのは事実に反します。これまで述べたように、新規の財源として約7兆円の財源を生み出しています。そして新たに生み出されたこれらの財源の範囲内で、子ども手当や戸別所得補償等のマニフェスト施策を実施しています。


ちなみに、現在の消費税率は5%ですが、このうち国の取り分は4%。このうち約3割は地方交付税として地方に回るので、実際、国に入ってくる消費税は約2.8%分です。金額にすると、約1.4兆円です。ですから7兆円の新規財源を生み出すことができたということは、消費税5%分の財源を新たに生み出したことに等しいと言えるのです。


ここで、問題になるのは、今後の「改革の余地」、「財源捻出の余地」です。

結論から申し上げて、今後、平成25年度までに、最終目標の16.8兆円の財源捻出は、困難だと言わざるをえません。目標を達成するためには、追加で10兆円規模の新規財源を見つけなくてはなりません。


民主党政権が、来年夏までの「満期」まで政権担当を担えるとしても、予算編成ができるのはあと一回のみです。この来年度予算編成で、さらに10兆円規模の新たな財源を生み出せると考えることは、現実的ではありません。


もし、残された1年で、どうしても10兆円を捻出するとするなら、例えば、以下のような16.8兆円の計算根拠となった改革(およびマニフェストの修正)を実施しなければなりません。


① 地方交付税の1割カットで約2兆円(マニフェスト上は1.2兆円削減する計算になっていたが、実際には、逆に1兆円以上増えている。)
② 独立行政法人、公益法人向け支出の半減で約2兆円(0.3兆円分の削減は実施済み。)ただし、独法向け支出の大半を占める科学技術振興関係予算の大幅削減は不可避。
③ 租税特別措置の廃止で約1兆円(ナフサ以外の租特について縮減)
④ 配偶者控除の廃止で約1兆円
⑤ 国会公務員の人件費の削減で0.5兆円
⑥ 庁費・委託費・施設費の削減で0.5兆円
⑦ 子ども手当の見直しに伴う支出減 約3兆円(実施済み)


ただ、選挙を控えて、本当にこれらの改革を実施できるのか、とりわけ、地方交付税のカットが1割(2兆円)もできるのか。増税に匹敵するほどハードルは高いと思います。さらに、仮に、これらの財源捻出ができたとしても、社会保障関係費の自然増(年間1兆円超)を賄う財源については、別途、手当しなければなりません。また、「埋蔵金」も枯渇しています。


私自身、増税の前に、歳出カットを徹底すべきだと思っています。だからこそ、大きな反対にあいながらも、昨年秋の「提言型政策仕分け」では、年金、医療、介護、生活保護と言った社会保障の分野にも切り込んで、仕分けを行ったわけです。


しかし、だからといって、私は、「歳出削減をすれば増税は必要ない」という主張に与するつもりもありません。そもそも、増税より歳出削減の方が簡単のような印象がありますが、上に掲げた歳出カット項目は、いずれも増税に勝るとも劣らないほど困難な内容です。


政権交代以降これまでに実現できたこととあわせ、できなかったこととその理由を客観的に分析し、そのうえで、現実的で具体的な改革案を掲げ、その実現に全力を挙げていくことが、政権政党の責任ある姿勢だと思います。


具体的な歳出削減策を提示することなく、増税の前に歳出カットが必要だと主張するだけでは、与党の責任を果たせないと思っています。


私は、この3年間、党内でも様々な改革作業の最前線に立ってきた自負があります。その結果、なんとか法案の形を作り国会提出まで至った「特別会計改革法案」、「行政改革実行法案」、そして、「議員定数削減法案」の成立を速やかに図りたいのです。


改革は道半ばです。内輪もめをしている場合ではありません。


そして、改革に「魔法の杖」はないのです。