世阿弥の時代には「立合」という形式で、 能の競い合いが行われました。 立合とは何人かの役者が同じ日の同じ舞台で、 能を上演しその勝負を競うことです。 この勝負に負ければ評価は下がり、 パトロンにも逃げられてしまいます。 立合いは自身の芸の今後を賭けた大事な勝負の場でした。 しかし、勝負の時には勢いの波があります。 世阿弥は、こっちに勢いがあると思える時を「男時」(おどき) 相手に勢いがついてしまっていると思える時を、 「女時」(めどき)と呼んでいます。 世阿弥は「ライバルの勢いが強くて押されているな、 と思う時には小さな勝負ではあまり力をいれず、 そんなところでは負けても気にすることなく、 大きな勝負に備えよ」と言っています。 女時の時にいたずらに勝ちにいっても、 決して勝つことはできない。 そんな時はむしろ「男時」がくるのを待ち、 そこで勝ちにいけ、というのです。 「冬の時代」という言い方があります。 「冬」という漢字はもともと「ふゆる」という動詞で、 「増える」という意味なんだそうです。 そういう時代は無理せず焦らず、外に発散するのではなく、 中身を増やしておけという意味なんだそうです。 そうして、じっと我慢をしていれば、 いつか「春」がやってくる。 春が来るといいなあ。 |