祖父が経営していた映画館は、
当時としてはなかなか大きくて立派な建物で、
従業員さんたちも大勢いました。
客席の後ろの方にあった売店で、
お菓子や飲み物を売っていたお姉さんや、
映写技師のお兄さん。
2階に上がるお客さんの靴や下駄を預かる、
下足番係のオバさんたち。
そして看板書きのオジさん。
売店の脇には小さな扉があり、
客席に沿って、その奥が長く薄暗い廊下になっていて、
そこに従業員さんたちの小部屋が、
長屋のように並んでいました。
映画館の玄関の左脇には、
祖父や母たち兄弟姉妹が暮らしていた母屋。
総勢、20人~30人くらいの大家族です。
子供の頃の僕にとって、
映画館は夢のような場所であると同時に、
恐いところでもありました。
従業員さんたちの長屋の薄暗い廊下もそうですが、
カツラや衣装が置いてある小部屋など、
そのカツラの髪の毛が気味が悪く、
恐くて一人では入れませんでした。
従業員さんの中に、オジさんかオバさんか、
ちょっとよくわからない人がいました。
短髪で男物のシャツとズボンを履いて、
もう一人のオバさんと長屋に一緒に暮らしていました。
戦争で片腕を無くしてしまった映写技師さんもいました。
同じことを何度も何度も、
繰り返し教わっているお姉さんもいました。
でも、みんな仲良く映画館の仕事をやりくりしていました。
みんな家族でした。