従業員 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


祖父が経営していた映画館は、

当時としてはなかなか大きくて立派な建物で、

従業員さんたちも大勢いました。

客席の後ろの方にあった売店で、

お菓子や飲み物を売っていたお姉さんや、

映写技師のお兄さん。

2階に上がるお客さんの靴や下駄を預かる、

下足番係のオバさんたち。

そして看板書きのオジさん。


売店の脇には小さな扉があり、

客席に沿って、その奥が長く薄暗い廊下になっていて、

そこに従業員さんたちの小部屋が、

長屋のように並んでいました。

映画館の玄関の左脇には、

祖父や母たち兄弟姉妹が暮らしていた母屋。

総勢、20人~30人くらいの大家族です。


子供の頃の僕にとって、

映画館は夢のような場所であると同時に、

恐いところでもありました。

従業員さんたちの長屋の薄暗い廊下もそうですが、

カツラや衣装が置いてある小部屋など、

そのカツラの髪の毛が気味が悪く、

恐くて一人では入れませんでした。


従業員さんの中に、オジさんかオバさんか、

ちょっとよくわからない人がいました。

短髪で男物のシャツとズボンを履いて、

もう一人のオバさんと長屋に一緒に暮らしていました。

戦争で片腕を無くしてしまった映写技師さんもいました。

同じことを何度も何度も、

繰り返し教わっているお姉さんもいました。

でも、みんな仲良く映画館の仕事をやりくりしていました。

みんな家族でした。



▶︎近景